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シアワセ

昨晩、町にアクシデントがあったんだ
突然、駅前の一角が原因不明の停電になり
パトカーや消防車が出動する騒ぎに
信号機も消えて
警察官がかわりに車を誘導していた
大学通りのイルミネーションも街灯も消え
野次馬たちがぞろぞろと駅の方に集まって来る
車も渋滞してバスもタクシーもやって来そうにない
ぼくは諦めて
暗い道を歩いて家まで帰ることにした
騒然としている駅前から
だんだんひとけのない闇に向かってとぼとぼと
あいかわらず膝が痛くて
腰までおかしな具合
だけど
できるだけ背筋を伸ばし胸を張って
腕をゆっくり大きく振ってみる
夜のウォーキングを楽しむみたいに
月も星も見えない夜空
黒いグラデーションのなか
裸になった欅のシルエットが見事だ
遠くのパトカーのサイレンの音
野次馬たちの影
道路をのろのろ走る車のテールライト
文明はうるさくて淋しい
そんなことをきみに送信しようとしたけど
やめたんだ
この美しく淋しい夜の感情は
もうすこしぼくの中で育ててみよう
ぼくは
ひとりで明るい歌を唄ってみる
シアワセは作るものではなくて
気づくものだ、って
ウクレレの伴奏のハワイアンみたいな歌を
夜中ひとりで
陽気な調子で歩く
この気分を
詩にしてきみに報告しよう
明日の朝になったらね
そんなことを思いついたら
うんざりするほど長い夜道も
苦じゃなくなる
単純なぼく
忙しくしているきみ
同じようにシンプルなシアワセが
いつもそばにある

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