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アイアンワーム 第十一話 決戦

人々が勝利を確信したとき、その期待を裏切るように、燃え盛る炎の風音に混じって、ギューイン、ギューインという不気味な機械音が聞こえてきた。
黒煙の間から現れたのは、長い6本の足を持つザトウムシのような蜘蛛のような大型ワームだった。
10メートルはある足が、ほっそりと伸びている。
その上に、まるでクレーンの操縦席のような胴体が小さく鎮座している。
小さな鉄の牙からは、ギッギッギッギッという咆哮が鳴り響き、恐怖をさらに引き立てる。
 
「何だ、あれは!?」 兵士たちの声が震える。
 
そのワームの足先は鋭く針のように伸びていた。
一歩、歩くごとに鋭い足が地面に突き刺さり、独自の足音を奏でる。
長い足は、炎を悠々と越え、ゆっくりと進み続けた。
 
唐突に、空気を切り裂く音が「シュー、シュー」と響き渡った。空気式の杭が宙を舞う。
 
だが、その目標は約10メートルもの高さで揺れ動き、かすめることすら困難だった。
奇跡的に一発はワームの体に当たったものの、杭は既に勢いを失い、丸く硬いワームの装甲に弾き返された。
 
ワームの巨大な足が炎からゆっくりと、だが確実に持ち上がった。
その足は一瞬で炎を越え、並ぶ重機に振り下ろされた。
 
「ガン!」凄まじい音がして、重機が揺れる。
その足は、ボンネットの鉄板を深々と貫いていた。
火花が舞い、重機は動きは止めた。
別の足が、薙ぎ払うように男たちを数メートルも吹き飛す。
更に、別の足が、ゆっくりと高く持ち上げられた。
その足の下には、なす術もなく、その様子を見つめている兵士たちがいる。
まるで狙いを定めるかのように、足はゆっくりと左右に動いた。
 
その時、カズマサが操縦する重機のクラッシャーの強力な腕がワームの足を薙ぎ払った。
カズマサの手がダッシュボードの上を飛び回り、操縦桿を慌ただしく制御する。
彼の腕の動きに連動し、巨大なアームが動く。
その動きは彼の心意気をそのまま表していた。
「うおーっ!」
しかし、ワームは6本の足を、独自に動かし、重心をシフトさせ、空いた足で攻撃を仕掛けてくる。
巨大なクラッシャーの腕と、鋭いワームの足が交差する。
遂にクラッシャーの強力な爪が、ワームの足を捉え、キリキリと締め付け始めた。
金属がたわむ音が戦場に響き渡る。
しかし他の足が、カズマサの乗る操縦席に向けて、次々に振り下ろされる。鋭く、強力に。
操縦席を覆う鉄板が軽々と貫かれ、鋼鉄の叫びが響き渡る。
 
カズマサは重機を小刻みに操作し、その場で前後しながら、ワームの足を巧みに避ける。
そのような攻防がしばらく続いた時、不意にワームがバランスを崩した。
男たちが、フック付きのワイヤーを足に巧みに巻き付け、その動きを封じていた。
「よし、次のワイヤーだ!」と一人の男が叫んだ。
「フックをかけろ!」とまた別の声が続いた。
「ウインチで引っ張れ!」声が飛び交い、隊員たちは一丸となって巨大な敵に立ち向かっていた。
「これでも、くらえ!」
カズマサが、全力で重機をバックさせた。
 
それに引きずられ、巨大なワームが、ついに崩れ落ちるように、ゆっくりと地面に横たわった。
地面が揺れ、砂煙がが舞い上がり、周囲の炎が揺れ動いた。
地面に、体を横たえたワームは、口の牙のカチカチと鳴らしていた。
「ここだ!」
レイジが叫ぶ。
彼は大量の炸裂弾付きの矢を、その口に捻じ込んだ。
次の瞬間、口の中が爆発する。
「ボム!」という音と共に、一瞬、炎が上がり、その後の少しの静粛の後、口や関節から黒い煙が漏れ出した。
「やった!」「倒したぞ!」人々は、歓喜の声を上げた。
 
炎は徐々に消え、黒い煙が濃い霧のように立ち昇り、広場全体を包んでいた。
焼け焦げたオイルや鉄の重厚な匂いが舞台全体に漂い、体の隅々までまとわり付くようだった。
 
アリサがレイジの傍らに近づいてきた。
彼女の表情は冷静で、その瞳は勝利を確信したように輝き、しかし同時に、戦闘で得た悲痛な結果も理解していた。
「ご苦労だったな」彼女は、声を落としてレイジに語りかけた。
 
レイジは、しばらく沈黙を守った。
頬に付いた汗と煙の匂い、そして悔しさが混ざり合っていた。
「仲間が何名も死にました」彼の声は深く、悲しい響きを持っていた。
 
アリサは、「ああ」とだけ答えた。
その一言には、レイジの言葉を全て受け止め、同じく悲しみを抱いていることが表現されていた。
彼女は人々の方を向くと、静かに息を吸い込み、大きな声で告げた。
「再び進軍だ、マザーワームにとどめをさす」その声は、煙を通じて広場全体に響き渡った。
アリサの声は力強く、しかし戦友達の喪失という痛みを忘れることなく、最後の戦闘へと人々を鼓舞していた。
 
その時、レイジの側に一人の男が歩み寄ってきた。カズマサだ。
彼は煙と灰にまみれており、その胸板は汗と疲労により上下していた。
 
彼はレイジの肩に手を置き、強く二度叩いた。
その力強い動きと、掌から伝わる温もりは、カズマサ自身の思いを象徴していた。
 
「いくぞ、まだ終わっていない」カズマサの声に、レイジは力強く頷いた。
 
 
黄昏の森の中、アリサを隊長とする部隊がマザーワムの討伐へと向かう。
重機が先頭を切り、周囲の木々をなぎ倒しながら全力で突き進む。
複数の重機のエンジン音が同期し、力強いリズムを作り出す。
 



一刻も早く戦いを終わらせたいという思いが、彼らの足を更に早める。
もはや、彼らに言葉はなく行動で、決意を示している。ただ、前進するだけだ。
 
途中、彼らの道を塞ぐようにワームが立ちはだかる。
 
フナムシ型のワームの群れは、うごめく泥のように地上を這い回っていた。
しかし、巨大な重機は、何の抵抗もなく、それらを踏みつけ、道を切り開く。
 
細長い体と切れ長の目を持つカマキリ型ワームが、木の影から襲いかかる。
しかし、戦いを乗り越えた戦士が繰り出す、電気槍は、その動きを一瞬にして止める。
その姿は、まるで空を舞う蝶を捕まえるような巧みさだ。
動きを止めたワームの脇腹に鋭い斧が襲い掛かる。一振り、また一振りと斧は彼らを襲い。地面に叩きつけていく。
その残骸を後ろに続く重機が踏み潰し進む。
この戦いを通して、彼らは歴戦の勇者のような顔立ちになっていた。
 
これらのワームたちはもはや敵ではなく、あくまで道中に転がる石に過ぎなかった。
 
部隊は、巨大な体をくねらせながら、ゆっくりと逃げるマザーワムに近づいた。
 
アリサ、レイジ、そしてワタナベの三人は重機を止め、車体から身を滑り降ろす。
彼らは、ゆっくりと近づきながら、その異様な光景に目を奪われた。
 
マザーワームの体には先程打ち込んだ杭の痕跡があった。
しかし、小型のワームたちがまとわり付き、口から鮮やかなオレンジ色の火花を出したかと思うと、見事に傷口を埋めていく。
 


鉄の塊であるはずの彼らが織りなす行動は、なぜか有機的で、生命を感じさせるものだった。
 
その光景を見つめていたワタナベが、口を開いた。
 
「自分たちで治療、いや、修理をしているのか。マザーワームを潰しても、あいつらが復活させるんじゃないか?」
 
 



レイジは、冷静にその疑問に答える。
「可能性はありますね。奴らはしつこい。だけど、ここでマザーワームを倒し、奴らの死体、鉄を回収してしまえば、そう簡単に復活できないと思います」
 
ワタナベは、レイジの言葉を深く味わいながら、
「そんなものか」とつぶやく。
一瞬の沈黙が流れ、そして、少し緊張した声で再び問いかける。
「もし我々が負けたら?」
 
レイジは、ゆっくりと言葉を紡いだ、「我々が彼らの燃料になるでしょうね」
 
ワタナベは、レイジの現実を見つめる言葉に、わずかに苦笑する。
「へっ、それなら負けられねえな。奴らの燃料なんてまっぴらごめんだ」
 
その言葉は、戦いの重圧を紛らわす軽口のようでもあり、彼らが直面している真実をひしひしと感じさせるものでもあった。
 
アリサは二人の会話を聞きながら静かに立ち上がった。
彼女は大きく前進の手信号を掲げた。その瞬間、戦場は一気に動き始めた。
 
 
パワーショベルがその巨大なアームを振りかざし、凶暴なクラッシャーが破壊の爪を突き立てる。
兵士たちは電気槍や斧を手に、怪物に向かって突撃を開始した。
 


素早く反応した数体のワームは一瞬で倒され、カズマサのクラッシャーの鋭い爪がマザーワームの腹部を見事に切り裂いた。
パワーショベルはひたすら前進し、大地を震わせるほどの衝撃でマザーワームに体当たりを繰り返す。
 

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