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アイアンワーム 第十二話 戦いのあと

戦闘はわずか数分で終わった。
胴体を真っ二つにされたマザーワームはついに動きを完全に止めた。
その瞬間、人々の歓声が空に響いた。
「やったぞ!」「勝った!」久々の勝利に戦士たちは喜びを爆発させた。
 
レイジは静かにマザーワームの巨大な残骸に登った。
この日の戦い、長い一日が遂に勝利で終わったことを確かに感じた。
 
彼は内部に目をやり、機械の塊に眼を細める。「これは…使える」とポツリといった。
その声は希望に満ちたものだった。
 
彼らはパワーシャベルを使い、ワーム達の残骸をトラックに積み込んだ。
壮絶な戦いを終えて施設に戻った彼らを人々が出迎えた。
 


歓迎する人々の声が高く上がる。
「カズマサ!よくやった!」「お帰り、レイジ!」「アリサ、無事で何よりだ」彼らは笑顔で一行を迎え入れた。
その笑顔は戦士たちの帰還を心から祝福するものだった。
 
しかし、喜びの中に混じる悲しみもあった。
一部の人々は夫や子、友人を亡くしていた。
ある女性は肩を震わせながら、「魂よ永遠に…」とつぶやいていた。
 
戦いで傷を負った戦士もいた。
彼らは足を引き摺りながら、何とか人々と握手を交わした。
 
そんな、混沌とした人々の中から、レイジは一人の少女を見つけ出した。
ミナだ。彼女もまた彼を見つけ、その場から駆け出した。
彼女の髪が風になびき、その瞳は一筋の涙を零していた。
 
「レイジ!」彼女の声が広場に響き渡った。
それは彼への愛情、喜び、安堵が詰まった一言だった。
 
彼女は全速力で駆け寄り、レイジの腕の中に飛び込んだ。
レイジは彼女をしっかりと抱きしめ、
その背中を優しく包むんだ。
「ミナ、ただいま」彼の声は低く、しかし深く響いた。
 
二人はそこで少しの間、ただ静かに抱き合い、互いの存在を確かめ合った。
その姿は、まるで時間が止まったかのように美しかった。
彼らの愛は、何よりも強く、純粋で、そして優しかった。
 


それから数日後、
施設は、戦いの息吹が色褪せ、平穏の日常へと戻りつつあった。
砂塵が舞い散り、汗ばんだ人々が作業に精を出していた。
 
農場では、人々が豊かな土を耕し、種を蒔いていた。
草の青さが、日々の希望を輝かせ、生命の循環を象徴していた。
 
洗濯場では、女たちが山積みの汚れた服を手際よく洗い上げていた。
泡立つ水が、汚れを洗い流し、新たな一日の始まりを迎える準備をしていた。
 
厨房では、調理人たちが炊き出しの準備に追われていた。
煙が立ち上る中、手慣れた動作で野菜を切り、鍋をかき混ぜていた。
あたたかな食事が、疲れた身体を癒し、生きる力を与えてくれるだろう。
 
山羊の牧場では、子供たちが鳴き声を上げる山羊をなだめていた。
その無邪気な笑顔は、大人たちに希望を与えていた。
 
ワタナベとレイジは、ワームの残骸を目の前にして、深夜の工場で解析作業を進めていた。
 
室内には道具や機械が並び、複雑な装置が光を放っていた。
ふたりの作業台は分析器具や作業ツールでいっぱいで、細部にわたる調査の痕跡が随所に見て取れた。
 
ワタナベは、目の前のフナムシ型ワームを指さし、レイジに問いかけた。
「このフナムシ型には二つの胃があるのに気づいたかい?」
 
レイジはうなずきながら応えた。「ええ、前段の胃には酸のようなものが入っていますね。これで肉を溶かしているのでしょう。次の胃には…アルコールでしょうか?」
 
レイジは深く考え込みながらその部分を指でさす。彼の目は熱を帯びていた。
「これが、ここのバイオ電池に繋がって発電をしているようですね。で、この人工筋肉ですが、見てください」
取り出した人工筋肉を顕微鏡に置き、モニターのスイッチを入れた。
「これは?」ワタナベは不思議そうに聞いた。
「液晶ポリマーのようです。ここの微小なカプセルに直接、アルコールが格納され、電気信号で分解、熱に変わります。その熱で、ポリマーが収縮し、筋肉を動かすようです」レイジの説明に、ワタナベが感慨深そうに呟いた。
「燃料から直接筋肉を動かすのか…」
 
その後、彼らはカマキリ型のワームに移った。
「で、こっちのカマキリ型は口から直接バイオ電池に繋がっているな」とワタナベが言うと、レイジが続けた。
 
「ええ、これは…実は肉食ではなくエタノールを肉食のワームからもらって動いているようですね。そしてこの大きなバッテリーに繋がっているのが、心臓部のオイルポンプです。これが筋肉を動かしています」
 
「こっちは、油圧ポンプなんだな」ワタナベが興味深そうに言った。
「ええ、瞬発力は、油圧ポンプの方がありそうですからね」レイジ答える。
 
「すげえ、適材適所だな、でも、このサイズだと、30分くらいしかポンプが動かないかな。。それが、こいつの行動時間ということか」
とワタナベも分析を続けた。
 
ふたりは夜が明けるまで、ワームの解剖と分析に没頭していった。
時間は止まることを知らず、一日が過ぎ、一週間が過ぎ、やがて戦いが終わってから2ヶ月が経った。
夏が訪れ、猛烈な太陽光が地上を焼いた。
この時期、本来なら蝉の声が響き渡るはずだが、ワームによる乱獲の影響で虫たちは、極端に数を減らしていた。
重厚な暑さとジリジリとした太陽光が、その空白を埋めていた。
 
広場では、出発の準備が整ったレイジ、ゴンさん、ミナたちが施設の仲間と別れを惜しんでいた。
 
「ありがとう、レイジ」一人の男性が心からの言葉を送る。
 
レイジは笑顔で頷き、「ここで得た知識もこれからの旅で役立ちます。感謝はこちらこそだですよ」
 
ミナは子供たちと抱擁し、「みんな、元気でね」と言葉を交わし、ゴンさんは鋭い目で男たちを見つめ、「みんなを守れ、子供たちの安全はお前らに任せたぞ」とエールを送った。
 
そして、ワタナベがレイジに向かって声を上げた。
「ワームの分析は続けていくよ、レイジ。次に会うときには何か新たな発見をして見せるからな」と約束した。
 
カズマサは、「お前らと一緒に戦えて楽しかったよ。またいつか会う日を楽しみにしているぞ」と言葉を投げかけた。
 
最後に、アリサが一歩前に出てきて、レイジと目を合わせた。
「健闘を祈る!」とだけ言い、レイジと硬く握手を交わした。
 
ついに、彼らの旅立ちの時が来た。
ワームの脅威から人々を守り、再び文明を取り戻すための長い旅。
新たな挑戦の始まりだ。

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