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アイアンワーム 第六話 防衛

数日間、表面上は静かな時間が流れていた。
しかし、その平穏な時間はワームの次の襲撃を予感させる、緊張感のある静寂だった。
人々は警戒し、耳を澄ませながら、自分の任務に専念していた。
レイジも例外ではなく、戦いの準備を進めていた。
 
彼が新しい装備のテストのために外に出ていた時だった。
何か違和感を感じ、思わず空を見上げた。
何も変わらないように見える青空。
 
ふっと、遠くの地平線に小さな雲が見えた。
それがじわじわと蠢き、ゆっくりと不自然に歪み始めた。
その光景にレイジは息を呑んだ。
雲が近づくにつれて、その姿が露わとなった。
大空を埋め尽くす程の大群、その一つ一つが飛行型ワームだった。
 
レイジは大声で叫んだ。
「敵だ、アイアンワームだ、空からくるぞ!」彼の声は響き渡り、緩んでいた人々の緊張感が一気に引き締まった。
人々は驚きからか、一瞬、動きを止めてから、
一斉に「ワームだ、ワームだ!」と叫びながら走り始めた。
リーダーのアリサもすぐに駆け出してきた。
 
空飛ぶワームたちは、瞬く間に地面に近づき、逃げる人々に襲いかかり始めた。
「弓隊、集まれ!」とアリサが叫んだ。
二、三十人の弓を持った男女がすぐに集まり、「各自、撃て、一体でも多く落とせ」と命じられた。
弓矢が空に放たれた。
素早いワームは弓矢を避けるが、何発かは確実にヒットした。
当たれば、華奢なワームは簡単に壊れ墜落した。
 
「ダーン! ダーン!」
その時、ゴンさんの散弾銃の音が鳴り響いた。
彼の狙いは確かで、次々とワームを落としていった。
 



次の瞬間、突如としてサイレンが鳴り響き、門の見張りが叫んだ。
「大型のワームだ!」その声は全ての人々に聞こえ、新たな緊張感が広がっていった。
 
外には巨大なカナブンのような形状をした大型ワームが無数に迫ってきた。
一匹一匹のサイズは乗用車に匹敵する。
大型ワームたちは、門にぶつかり止まると、同胞の上に重なり始めた。
彼らの群れは、あっという間に、門の頂部にまで達する階段を形成した。
 
しかし、門の上の有刺鉄線に触れると、ピギーという音とともに次々と落下していく。
電気柵が効果的に働いていた。
幾匹かが同じように触れ、下へと落ちていった。
 
息つく暇もなく、ナナフシのような長大なワームが姿を現した。
その巨大な姿を門の頭越しにレイジたちは見ていた。
 
そのワームが有刺鉄線に触れた瞬間、バチバチと凄まじい音と光が飛び散った。
そのワームは避雷針のように電気を地面に逃がし、電気柵を噛み切り始めた。
「バッチン!」という音と共に、その強固な前歯で柵を粉々に破壊した。
 


それを待っていたかのように、カナブン型のワームが柵を乗り越え、溢れるように侵入してきた。
ゴンさんの散弾銃が火を吹くも、それはワームにほんの小さな傷をつけるだけだった。
「ま、無理だな」とゴンさんは半分笑いながら、諦めのようにつぶやいた。
 


アリサは、すべてを見越していたかのように、「重機隊前進!」と大声で命じた。
巨大なブルドーザーが前線に進み出て、ワームの群れに突撃した。
「グシャ」という音が響き、鉄と鉄がぶつかり、火花を散らしながら2、3匹の大型ワームを押し返した。
 
次に、カズマサが運転するパワーシャベルの巨大なアームが振り下ろされた。
それはワームの鋼鉄の体を押しつぶした。
 


力強い男たちが、巨大な消防用の斧や粉砕機を振るい、ワームの関節部に襲いかかった。
「鋼鉄の体とはいえ、関節部分は柔らかい」それは彼らの認識だった。
 
そのとき、キー、キーと聞いたことのある音が聞こえてきた。
カマキリ型のワームが門から軽快に飛び降り、地面を駆け抜けると、重機の操縦席に向かって飛びかかってきた。
「させるか」、一人の男が斧で応戦した。
戦闘は肉弾戦に移行した。
一部の人々は頑丈な鉄扉を切り裂く、消防用の斧を振りかざし、ワームの腕を切り落とした。
また、他の人々は工事現場で使う大型ハンマーを手に取り、ワームの頭部を叩きつけた。
鉄の肌を持つワームと鉄製の武器が激しくぶつかり合った。
 
ミナも戦闘に参加していた。
彼女の手には、電気を帯びた槍が握られていた。
それはレイジが開発した武器の一つで、スタンガンのように電気を槍の先端に流すことで、ワームの電気回路を焼き切るものだった。
少女はその電気槍を巧みに操り、次々と迫ってくるワームを一体ずつ倒していった。
それでも、ワームの増援は増え続け、門を乗り越えてどんどん押し寄せてきた。
力強い男たちも次第に押されていった。
カマキリ型のワームの刃がハンマーを掴むとベキベキと砕いた。巨大なワームは人々の攻撃を受けても前進を続け、人々を圧倒していった。人々は次第に後退を余儀なくされた。
広場はワームで覆い尽くされた。
しかし、それはアリサたちの作戦の一部だった。アリサは、大きな声で叫んだ。「レイジ、今だ!」
 
突然、「ブーーン」という低い音が響いた。
それは、巨大なトランスに電気が流れ、振動した音だった。
次の瞬間、建物の大きなアンテナから妨害電波が放出された。
 


飛行型のワームはコントロールを失い、一斉に空から落ちてきた。
カマキリ型のワームは体を固め、カナブン型のワームは直進するかのように動き続けた。
これは、レイジがここ数日で開発していた大型の妨害電波装置だった。
 
レイジは大きな声で叫んだ。
「みんな、下がれ!建物の影に隠れろ!」
すると建物の横から大きな鉄製の網が飛び出し、地上のワームに覆い被さった。
 
その網に、強力な電気が流され、バチバチバチ、と大きな音をたてた。
ワームたちは人工筋肉が強張ったかのように動きを止め、煙を上げ始めた。
 
人々の反撃が始まった。力を込めて斧を振り上げ、工事用の大型ハンマーをぐるぐると振り回し、関節にコンクリート粉砕機を突き立てた。
彼らは動きを止めたワームを次々と破壊していった。
 


しかし、網から逃れた数体のワームがミーナ達に襲いかかった。
鉄のワームは少女を押し倒し、体の間からドリルがついた足を取り出した。
回転するドリルが、少女の顔に迫った時、突然、ワームが煙を上げ、動きを止めた。
横には、レイジが電気槍を持って立っていた。
「危なかったな」レイジが安心したように言った。
「レイジ!」ミーナは声を上げた。
「大丈夫か?あとは任せて下がって」レイジは言うと、躊躇なく少女を囲むワームに向かって進み、電気槍を繰り出した。先端から放たれる電気が、ワームの体を次々と焼き切り、瞬く間にその場にいたワームを倒していった。
一緒にいた男が「やはり、電気槍を握らせたらレイジの右に出るものはいないな」と感嘆の声を上げた。
 
数分後、まだ生き残っていたワームたちは、自分たちの仲間が次々と倒れていく光景を目の当たりにした。
そして、何か無言の合図でも交わしたかのように、一斉に退却を始めた。
 
生き残った大型のワームは、その大きな口を開き、残骸になった仲間を飲み込んで、別のワームは、動けない仲間を引きずり、無理やりにでも退却させた。
地面を這うように、空を飛び去るように、彼らは集団で逃げ出した。
 
その姿は遠くの地平線に消えていった。
 
施設全体が暫しの静寂に包まれた。
最初に静粛を破ったのは、カズマサが呟いた「やったのか?」という一言だった。
次に広場は大歓声で満ちた。「わー!」という声が響き渡り、人々はワームが去った方向を見つめていた。
「やったぞ!」、「ワームに勝った!」何人かの人々は感極まって涙を流し、歓喜の声を上げていた。
「ああ、俺たちの勝利だ…」とつぶやくカズマサの声が柔らかに空気を震わせた。


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