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アイアンワーム 第十話 戦いの歌
隊員たちは、勝利への確信を胸に秘めていた。
アリサの声が再び響き渡る。
「歌え! 戦う者たちの歌を!」
その瞬間、それまで混沌とした騒音の中に、一つのメロディーが生まれる。
人々の胸から沸き起こる、戦いへの決意と勇気を歌うものだった。
彼らの喉からは低く、力強い音が鳴り響き、深い森を揺るがした。
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闘う者たちよ、歌え!
我々は戦う獣、恐怖を知らぬ!
迷わぬ、怯まぬ、止まらぬ!
鉄の敵も、粉砕し!
鳴り響く、我ら獣の軍団!
猛威の嵐、野生の獣!
鉄の蟲を、粉砕し!
進め、終わりなき道を!
歌え!歌え!勇者の歌を!
「オー」と声を上げ、歌い続ける。
戦士たちよ、歌え!
我々は進む獣、疲労を知らぬ!
揺れぬ、倒れぬ、逃げぬ!
鉄の群れも、蹴散らし!
鳴り響く、我ら獣の軍団!
吹き荒れる風、闘志の獣!
鉄の蟲を、踏みにじり!
進め、果てしなき道を!
歌え!歌え!勇者の歌を!
その歌声と唸るエンジンの音が重なり合い、魂をも震わせるような重厚な音楽となって響き渡った。
歌声が頂点に達した時、視界の先に突如として巨大な銀色の塊が現れた。
それはダンプカー並みの巨体を誇る鉄のワームだった。
部隊は一瞬、静かにその巨体を見つめた。
その姿は、動かない小山のように見えた。
しかし、その静けさは不気味な音に破られる。
アイアンワームが足を上げ、胴体を高く空に向けて伸ばすと、その腹部がじわりと割れ、何種類かのアイアンワームが溢れ出てきた。
それはまるで、母グモから子グモたちが無数に生まれ出るような、しかし同時に無機的で異様な光景だった。
それらの子ワームたちは地面一面に広がり、その全てが一斉に人々に向かって襲いかかる。
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この突然の事態に、誰もが息を呑む。
人々は固まったようにその異様な様子を見つめていた。
その瞬間、アリサが我に返った。
彼女の唇から「発射せよ!」という命令が力強く発せられた。
同時に、空中に展開された巨大な網が、前進を続けるアイアンワームたちの頭上に覆いかぶさった。
しかし、背の低いフナムシ型のワームたちは、地を這いつくばるようにして網の下をスルリと潜り抜け、ゆっくりと確実に接近してきた。
一方、タガメのような形状をしたアイアンワームは、そのグラインダーのような回転する歯を活用し、強固な網を切り裂きながらその場から抜け出してきた。
「ダメだ、抜け出てきた!」隊員たちの中から焦りと絶望の叫びが上がった。
それらの声は暗闇の中で反響し、戦場の緊張感を一層高めた。
一方、後方では巨大なアイアンワームがその場を動かずに佇んでいた。
それはまるで彼らの行動を冷静に観察しているかのように、ただ静かにこちらを睨んでいた。
カズマサの声が重機の中から響いた。
「負けるか!」その声と同時に、巨大な重機、クラッシャーが動き出した。
カズマサがその操縦桿を握りしめ、足元のワームたちを踏み潰していく。
そして、巨大なアームを振り回し、近づいてくるワームたちを次々と粉砕していった。
他の重機たちも反撃を開始した。
パワーショベルは巨大なシャベルを振り下ろし、ワームたちを土の下に押し込んだ。
ブルドーザーは豪快に土を掻き回し、ワームたちを押しのける。
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だが、ワームたちは次々と重機に取り付き始めた。
ガッチリと複数の足を食い込ませ、重機が揺れてもピッタリと食い付いている。
タガメ型のワームが不気味な回転する刃で鉄板を切り裂き、少しずつ解体していく。
しかし、屈強な男たちは、斧で取り憑いたワームを振り払う。
ワームの回転刃を受け止め、別の男がその硬い鎧を打ち砕く。
戦場はすさまじい激戦地と化していた。
男たちはワームの絶え間ない攻撃に耐えつつ奮闘した。
その緊迫した戦場からは、逃げ場のない緊張感と絶望感が溢れ出していた。
均衡した戦いに変化をもたらしたのは、後方で控えていた大型ワームだった。
姿勢を低くすると、獰猛な勢いでブルドーザーに向かって突進し始めた。
ガーン、巨大な鉄と鉄のぶつかる音が周囲に鳴り響き火花が散る。
ワームはすばやくその複数の足をブルドーザーに絡みつかせた。
巨体が脅威となり、その強靭な足がキャタピラと接触部分にめり込んでいく。
ブルドーザーのエンジンは強力な馬力でキャタピラを動かそうとし、乾いた唸りを発して空気を振動させた。
しかし、ワームの足は、ギアとキャタピラの間に巧妙に入り込み、ブルドーザーの動きを完全に止めた。
次の瞬間、ワームがその巨大な牙をゆっくりと開いた。
まるで巨大なペンチのようだった。
そのペンチは鉄で囲まれた運転席を丸ごと包み込むと、ゆっくりと、確実に砕いていく。
一瞬、悲鳴のようなものが聞こえたが、直ぐに鉄が砕かれる音にかき消された。
一方、遠くからはカマキリ型のワームが、こちらに迫ってくる。
レイジが叫んだ。
「撤退だ!広場まで退却するぞ!」
戦いの中にレイジの声が響き渡った。
部隊は、全力で後退を開始した。
重機の巨大なキャタピラが地面に足跡を残しながら後退する。
しかし、重機の鉄肌に取り憑いたワームが、旋回する刃で鉄の巨体を破壊し続けていた。
男たちはそれを叩き落とそうと斧を振るったが、ワームの刃によって無残に切り裂かれた。
「全力で走れ!撤退だ!」とレイジの声が飛び交う混沌の中に響き渡った。
森の影から現れたカマキリ型のワームが、逃げる人々を捉えた。
その凶悪な刃が、次々と戦士たちを捉えていく。
突如、木々から飛び出したノミ型アイアンワームが男たちを襲った。
一人の男の腕に絡まり付き、抵抗も空しくその口から血を吸い取り始めた。
僅か数秒で男の体は干からび、崩れ落ちてしまった。
「もう少しだ、頑張れ!」レイジの声が絶望的な空気を切り裂く。
その直後、待ち受けていた広場が視界に飛び込んできた。
待機していた女性弓兵たちの姿が見える。
隊員たちはその硬い土地を駆け抜けた。
「よし、ここで食い止めろ!」アリサが走りながら大声を上げる。
「弓隊、打て!」彼女の鋭い号令とともに、炸裂弾が付いた矢が空に舞い上がる。
襲い来るワーム群に向かって次々と着弾し、彼らの動きを一瞬、止めた。
その隙に重機隊が一列に並び、鉄の壁が敵の突進を食い止める。
しかし、後方からは次々とワームが押し寄せ、広場を覆い尽くし始めた。
「まだだ…」レイジが小さく呟く。
カマキリ型のワームが素早く、他のワームの背中を踏み越えながら近づいてくる。
その鋭い刃が重機に届く寸前、レイジが叫んだ。
「今だ、火を放て」
その言葉と共に、広場全体に埋め込まれた油が火を放つ。
炎が広場を包み込み、湧き上がるワーム群を焼き尽くす。
その様子は、巨大な火輪が全てを焼き尽くすような、壮絶な光景だった。
黒煙が湧き上がり、熱い炎が彼らの鋼鉄の体を歪ませ、焼き付けていく。
絶望的な炎の中で、焼かれ、苦しむワームたちが、逃げ場を求めて広場の端に逃げようとする。
しかし、その先に待ち受けていたのは深い溝だった。
溝の中は黒いオイルで満たされ、そこに落ちたワームたちは一瞬で炎に包まれ、赤い空気が舞い上がる。
次々と溝に落ちていくワームたちは、炎に焼かれ、夜空を焦がす。
そんな中、ダンプカーのような巨体をもつワームが、炎で苦しみながらも雄叫びを上げ突進を試みた。
レイジは冷静に次の号令を放った。
「打て!」
空気圧縮の杭が飛び出す。
杭は突進する大型ワームに向かって飛んでいき、次々に彼らの身体に突き刺さる。
杭の中から流れ出るナパームが炎と連動し、さらに激しく燃え上がる。
真っ赤な灼熱に包まれ、次第に溶けていく。
ワームたちが次々と動きを止め、戦場は一瞬の静寂に包まれる。
人々からは雄叫びが上がり、戦場には勝利への期待が満ちていた。
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