見出し画像

大雨

午後から雨が降ると聞いている。仕事終わり、まだ雨は降っていない。
夜中に大雨。雷も。
このまま時間が過ぎて死ぬのを待つだけ。誰もがそうなんだ。燃えて地球に戻される。
奴が間違いさえ起こさなければ、ぼくが悪者になることはなかった。今やぼくは有名人。真面目に生きてなんていられねぇ。誰かを殴っていいですか。誰かを殴ればスッキリしますか。スッキリすると思うんだけどなぁ。
救急車を呼んでくれますか。頭がおかしくなりそうなんです。このままでは誰かを殺してしまいそう!だから誰か救急車を!
救急車は来なかった。誰もぼくの叫びを無視した。ぼくは奴を殺してしまった。そしてサツに捕まった。
街頭大スクリーンに報道番組でぼくのことが日本中に伝えられた。それを見ているどうでも良い人たちが、頭がおかしいと囁き合っている声が聞こえた。おまえらに霊柩車を呼んでやる。
見えそうで見えない乳首。悩殺されている人が歩いている。大きな乳房。スクリーンは無駄に周囲を明るくしている。気分も明るくなる。それでぼくは?サツのクルマの中。
歩道橋の上、大雨だ。雨音に何もかもが消された気がした。聴覚も視覚も失われた。黒い猫の姿も。姿は見えないが黒い猫はそこにいる。悪いことも良いこともする黒い猫が、そこに、確実にいる!何で気づかない!そこに黒い猫がいるんだよ!おまえらバカか!何でわかんねぇんだよ!糞ったれが!死ね!死ね!死ね!
サツに言う。
「黒い猫を追いかけてもいいですか」
は?何言ってんの。バカじゃないの。あなたは今から行くとこは決まってんの。やっぱあんた頭おかしいんじゃね?
「気づいてねぇのかよ。黒い猫がいるんだよ。ドラマじゃねぇんだよ」
意味わかんねぇよ。静かにしてろよ。
でも大雨の音はいつまでも静かにならなかった。黒い猫はずぶ濡れになることはない。どこかで雨宿りしている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?