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2ndストリート

2020年 3月 21日
 散歩をした。1日に必要な消費カロリーが平均425キロカロリーだと計算されたため、どの程度どの道のりで歩けば425キロカロリー消費になるのかを確かめるための散歩だった。425キロカロリーとなると歩数で10000歩以上、時間にすると1時間以上になる。
 運動によるカロリーは冬の方が消費しやすいらしい。しかし、冬の方が食欲が増すのだろうか、大抵の人が夏に痩せ、冬に体重が増す、という事態に陥っているような気がする。
 汗をかいたときの汗の量はカロリー消費には関係がなく、汗をたくさんかいたからといって、体重が減る訳では無いらしい。汗は単に体温調節のために出るものということだ。(私のインターネットの受け売りによる)
 ただ散歩といって歩いているだけではやはり退屈である。耳から音楽を聴いて歩くことをしているが、それだけでもつまらない。
 今日はいつもと異なり、歩く方向を180度変えた。いつもと異なる景色と目につく店や人。あら、こんなところにあんな店があったのかと新たな発見などして楽しみながら歩いた。その中でも、私は「2ndストリート」という店に入ったのだった。
 その店は中古品を扱う店で、洋服や服飾品、おもちゃや電化製品などが置いてあった。書籍は全く扱っていなかった。誰かに散々こき使われた品があれば、全く使った形跡がないくらい新品同様のものまで。これらが再び誰かの手に渡り、大切に扱われる日があるのだろうか。壊れてしまうまで使う、使い切る、ということを私たちはしなくなった。製品たちもそういう生まれ方をしてこなかった。全て人間の仕業である。
 生きるってことは人や生物だけでなく、製品が扱われることも含まれるのかと、考えてみるのであった。



 商品の中に、誰かが使った後のコンドームが売られていた。中古のコンドームだ。私は店員に尋ねた。
「このコンドームは清掃済みですか」
「店に置いてあるものは全てメンテナンス済みになっております」と女性店員は言う。
「コンドームをどのようにメンテナンスするのですか」
「消毒していると思います」と店員。
「本当にこれを使っても大丈夫かどうか、一度貴方と一緒に試すことは出来ますか」
「私とですか。良いですよ」と店員。彼女はメガネをしていた。メガネの奥に見える瞳は黒くて大きくて吸い込まれそうな感じがした。髪は黒くて長く、耳は隠れていた。おとなしそうな美女だった。中古のコンドーム販売なんてありえないと思っていたが、彼女と話しているうちに、こういう品物を取り扱うこともあるのかぁと妙に納得したような感じになった。
「じゃあ、今夜また会いましょう」と言って、その晩に私たちは会った。
 彼女はおしゃべりであった。店の他の店員の悪口を言ったり、店の不満をぶちまけたり、昨日買ったマニキュアの質が悪くて愚痴を言ったりした。私はそんな話を親身になったフリをして聞いていた。私には分からない内容の話ばかりだった。話している間の彼女の顔はとても生き生きとしていた。
「私、普段はあまり喋らないのよ」
「今日は特別なの?どうして?」
「私にも分からないわ。貴方になら何だか何でも話せそうな気がしたの」
「ふーん。何でだろうね」
 そして私はと言えば今日、店にまで来た経緯をかいつまんで話した。
「探してたのね。第2の道を」
「そう。2ndストリートをね」
「うふふ」と彼女はこれまでの会話の中でも一番嬉しそうな顔をして笑った。
「何かおかしい?」
「ううん、ちっとも」と言って彼女は再び嬉しそうな笑顔を見せた。
 彼女は言いたいことを喋った後、積極的に攻めてきた。私の服を脱がせ、自らも服を脱ぎ裸になった。シャワーは浴びなかった。私は圧倒されたが、彼女の美しい裸に見惚れて熱くなった。彼女は私の上になり、激しく腰を振った。あまりに激しくて彼女のメガネが吹っ飛んだ。メガネが無い彼女の顔は予想通り美人であった。そして中古のコンドームも吹っ飛んでいた。
 セックスが終わると彼女は、貴方で2人目なの、と言った。何でわざわざそんなことを言うのかと尋ねたが、彼女は分からないと言った。
「人に喋ることで救われることもあるのよね?」と彼女は言った。何か悩みでも抱えているのだろうか。何だか意味深で、私は彼女を抱きしめずにいられなくなった。抱きしめながら私は言った。
「私に君を救える資格はあるだろうか」
「救って欲しいの」彼女はメガネを掛け直し、私はタバコをくわえたが火は付けなかった。彼女は再び私を求め、今度は私が上になった。しかしもうコンドームはなくなっていた。
「結婚は?彼氏はいるの?」
「答えたくないわ。あなたは?」
「じゃあ私も答えないことにする」
「それが良さそうね」
「うん」
「28」
「年齢?」
「そうよ28歳」
「48」
「へえ、結構いってるのね」
「20も違うんだね」
 喋りたいことは喋る。喋りたくないことは喋らない。それでいい。それでいいということを強く思った。
 これといった根拠もないが、彼女は私と出会って会話をしたことにより、新たに見つけた2ndストリートを歩いてゆくのだろうと思った。そうでなければ、新たな2ndストリートを探しに行くことをするのだろうと。
 私も新たな2ndストリートを見つけるべく歩き出そうと思った。



 そんな妄想をしながら店を出て歩いて帰宅した。私はセックスの妄想ばかりしている。セックスじゃなくてもいい。抱きしめたい。キスしたい。死ななくていい。
 妄想なのに、妄想の中に出てくる女性に何か勇気をもらった気がした。変な話。

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