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SNSが苦手

 SNSが苦手だ。Twitter、Facebook、Instagram、これら一応アカウントを作成しているが投稿することは少ない。Twitterはトレンド・ニュースを見るために、Facebookは一応登録しただけ(友達登録はほぼ無し)Instagramは基本的に写真投稿なので、眺めることで楽しんでいる。そしてnoteであるが、noteは他のブログとは一線を画していているところが気に入って書き始めた。noteに投稿する以前は公開日記など書かず、しかし書くことは続けていた。こういったnoteなどのSNSを本気でやろうとすると、自分へのアクセス数や評価などが気になってしまい、書くことの楽しさがストレスに変化してくる。

 12階建てのマンションの11階までエレベーターに乗らず階段で昇る。昇りながら階段の段数をひとつずつ数えていく。昇り終えて144段あることを知る。144段の階段を歩いて昇ると息が切れる。マスクを口から顎のあたりにずり下ろす。はぁはぁと息をする。11階の廊下に視線を合わせると人の気配がする。はぁはぁ言っていた私の息が「はっ!」という小さな叫びに変わった。目の前に居るのは女性だった。女性は両腕を左右に広げたり頭の上に伸ばしたりしながら身体をくるくる回転させたりしていた。そしてよく見ればバレエ・シューズを履いている。幅2メートルもない狭い通路で女性はバレエの練習をしているようだった。私たちは目があった。声を出さずに会釈をして私はその場を通りすぎようとした。しかしこのまま何もなかったかのように通り過ぎてしまっても良いものだろうか。しかししかし私は144段を歩いて昇ってきて息が切れている。はぁはぁ言っている。こんな状態で女性に話しかけると欲情しているように思われないかという不安がある。それにしてもどうしてこんな狭い場所で身体を広げてくるくる回転するようなダンスの練習をしていたのだろうか。コロナ禍で練習スタジオが閉鎖されているのだろうか。結局私は女性に声を掛けることもなくその場を通り過ぎた。女性は20代、少し派手目な顔つきをしている。身体はかなり細い。バレエをするのに適しているような体型だと思ったが、私はバレエの知識など全くないからわからない。

 あれからしばらく経ったある日、女性がダンスの練習をしていた11階の通路の箇所を通り過ぎようと歩いていたとき、その床面にバレエ・シューズの跡が点々と残っていた。下足痕(ゲソコン)だ。今、目の前に女性は居ない。ゲソコンだけがある。そのゲソコンを見ると私は妄想してしまう。あの時声を掛けることが出来なかったことが悔やまれているのかもしれない。私の妄想はそういったことから始まるのかも知れない。あの時見た女性との妄想。知らない女性に突然話しかけるとどうなるかという妄想。恐らくいきなりこちらから話しかけると、話しかけられた方は驚いて身を引くだろう。私が有名人、著名人なら良いのだろうが。

 カナコとは職場では長い付き合いだ。付き合いといっても男女の付き合いではない。あくまで仕事場だけでつながっている付き合いだ。お互いに連絡先も住所も知らないくらいだ。最近カナコは遅くまで居残って仕事をしている。こんなことは今までなかった。定時になると速攻で会社を出ていたような気がする。私が気付いていなかっただけだろうか。実は時々遅くまで居残って仕事を続けていることもあったのだろうか。でもカナコは雑用係的な事務職なので遅くまで居残る理由がないはずなのだ。定時が過ぎて1時間も2時間も居残っている。私は忙しさのあまり周りのことが見えていなかったので、カナコが居残っていることに気づくのが遅かった。「最近遅くまで居残っているけどどうしたの?」と話しかけようと考えた。そしてそういう時に私の妄想が始まる。カナコのことはOZKというおじさん社員に好かれていた。OZKは常にカナコに癒しを求めていた。OZKがカナコのことを贔屓目にするため、OZKとカナコは一部の女性社員に嫌われていた。私も彼らの自己満足型社会人を好きになれなかった。まだドクタースランプのあられちゃんの方が良いと思っていた。OZKはすでに引退して会社には居ない。カナコは誰のものでもなくなった。遠くからカナコの姿が見えた。少し、森高千里に雰囲気が似ていると思った。カナコも歳を重ねてきて優しい顔つきになってきたのだろうか。そう思っていると私は再び妄想を始めるのだ。

 SNSが苦手なのだ。わかるだろう?

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