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短文 #001 #002

#001
古代遺跡の中に入った。
綺麗な円を描く太さ20センチはある枠(リム)は鍛造で形成されたようなものでとても美しく、その当時どんな金属が存在し加工にどれだけの労力を要したのか想像を掻き立てられる。
テニスコート3つは飲み込めるその円を二つに分断するように一本のフェンスが設けられていて、枠と同じ高さのそれは人の身長の2~3倍はあるように見えた。
太陽と逆側の半円の端の一番てっぺんから、灘らかな曲線と直線を融合した面を持った透き通った液体が地面へと連なり、留まっている。
まるで地球に重力が存在しないかのように物理に逆らった現象を目の当たりにする。いや、むしろこちらの方が圧倒的な自然と思わせる説得力すらある。美しい南の島のビーチをアルミ缶の洋菓子の入れ物に奇妙な角度で閉じ込めたようにも見える。
間近と俯瞰のビューを繰り返したのち、その液体の中に潜り込んだ。
人間一人分の厚みのままその液体の中を自由に動き回ることができ、RPGゲームの主役さながらに酸素の膜に守られながら安全に遊泳できた。透明度が異常に高い薄いブルーの液体と、粒子の細かい地面のサンドベージュのコントラストがとても美しかった。

#002
 東京に住み出して相当な時間が経っても同じ区の中でさえ知らない場所だらけ。この日も案の定道に迷って夕闇に飲み込まれながら家路を探さなければならなかった。小高い丘のような場所に出た。街が一望できるような高さで外灯は少なく、しかし夕暮れの青さが際立って怖さも不安もない。長年連れ添ったがもう互いに興味がなくなったパートナーに今も恋であるかのような口ぶりで何かを問いかけられる。
答えに困っている間にもどんどん質問がたまっていく。
おもむろにタバコを取り出しくわえてみた。
パートナーの質問を遮り、友達と仕事仲間の中間くらいの関係の男と他愛もない話をしつつ下方の街を目指す。坂を下りきったあたりに一本の太い道路がありそれなりの交通量があった。
パートナーと男を振る切るように駆け出す。見事なタイミングで角を曲がり目の前の通りに入ってきた車に乗り込む。関西で大きな力を持つある企業の代表という人物が後部座席に乗っている。音楽と企業のコラボレーションだかのありがちな話に耳を貸す、残してきたパートナーと男のことが気になって心ここに在らず。そしてある企業の通用口と思しき場所の大きな駐車場に到着した。


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