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2年間の選手会長職を終えてー目崎啓志

『選手会長』という肩書は、プロ野球などではよく耳にするが、たぶん多くのラグビーチームでは、その対象者を外に向かって発表していないのではなかろうか。そして、おそらく社会人チームならではの制度であり、会社側と選手側との接点に立つ。目崎は、2年前に栗原大介選手会長から指名されて引き継ぐ。それまでは、選手会長が現役プレーヤーを引退する時点で次の選手会長へと引き継がれていった。栗原の代から、選手を続行しながら交代する形となり、目崎自身もこの5月で喜連航平選手へとパスを繋いだ。

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選手会長の役どころ

「入部6年目。今年で28歳です。中堅です。ベテランにも属さない、若手にも属さない。まあ、『支えなければいけない』年齢にはなりましたね」

こう言って、目崎は目を細めて笑う。選手会長としてやってきた2年間を振り返ってもらうにあたり、まず選手会長の役どころを訊かせてもらった。

「選手の意見を上に上げるのもそうですけど、会社側(運営側)の意見を選手に落とし込むというのも仕事の一つです。チームは、会社側とプレーヤーとコーチがいて、この三角形の関係性で成り立っていく中で、大介さんより前の時代って、会社側と選手側とで意見の相違というか、認識の違いが起こることがありました。僕が選手会長になった時に思ったことは、選手であってもスタッフであっても、このチームに関わった人たちが幸せに感じる組織にしたいなと。

対立が無くなるように、選手のいろんな要望をまず訊きます。もちろん選手の要望の中には実現できないこともあるのですが、でも実現できないのには理由があって、選手会があることでディスカッションの場を持てます。基本的には、チームがうまく回るための潤滑油だと思ってやっていました」

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選手会長と選手会メンバーの『業務内容』

パフォーマンスに関することなどをコーチ陣と話すのが、キャプテンやリーダーグループの役割ならば、チーム運営に関することを会社(運営)側と交渉したり、シンボルチームとしての心構えを選手たちに伝えることが、選手会長と選ばれたメンバー(7人)から成る選手会の役割となる。

「一番は、とにかく不満に思うようなことがあったら僕や選手会メンバーに言ってくれということでやって来ました。めちゃくちゃな要求だったら、流石にそこで弾いちゃいますけど、納得できたことは、ノブさん(高橋信孝チームディレクター)とコミュニケーションを取っていきます。選手会とノブさんのコミュニケーションに関しては、この2年間密にやれていたと思います。

僕がやっていることって、チームディレクターのノブさんが会社側の立場でやっていることと基本的には同じだと思っています。ですから、立場が違っていても、そこで対立しないように手を取り合って協力して、ストレス無くパフォーマンスを高く発揮できるようにするということを意識していました」

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2020-2021シーズンを振り返って

今シーズンは、思うように成績が残せない中で、様々なストレスが選手間にも生まれてきた。目崎が選手会長として一番気に掛けていたのは、ノンメンバーの心の持ちようだった。ノンメンバーは、自分を殺して相手チームを分析して練習台になる。チームが勝つために自分たちじゃないラグビーをやっているのに、結果が出せない。そうなれば、当然ネガティブな気持ちも出てくる。目崎は、そういったメンバーの気持を救いたかった。

「常に考えていたのは、ノンメンバーに対する気持ちの持ち方ですね。僕も最初のルーキーイヤー以外ノンメンバーの方が多かったから思うのですが、自分がチームから関心を持たれていないと思った瞬間に、チームを応援しようっていうモチベーションが無くなってしまうんですよ。

だから良かったことがあれば些細なことでもコトバにするし、逆に改善して欲しいことがあればそれも言うようにしてきました。そういうことは、ずっと試合に出てきた選手にこそ率先してやってもらって、選手がお互いに気に掛けられるような関係になれればより良いなあと思います。負けが込んでくると自分のことで一杯一杯になってしまいがちですが、そういう時こそ、周りを見るようにできればと思うのですが。

キャプテンぽいことをグラウンドの外でやることもあれば、逆にキャプテンにグラウンドの外のことを助けてもらうこともあって、選手同士でどうにかしようともがいていたシーズンでしたね。でも、選手同士で助け合うってことは、要所要所でできていたんじゃないかなと思います」

コロナ禍の状況にあったため、グラウンド外でコミュニケーションを深めることも難しかった。ただそんな状況でも、ノンメンバーの何人かがメンバーに上がって、そのまま定着したケースもあった。様々な困難があった中で、選手もスタッフももがき苦しんだ。

「でも、もがいて苦しんで失敗したからダメだったねで終わるんじゃなくて、これが来年の飛躍に繋がればいいし、多分繋げられるチームだから。これより下は無いと思うので、上を向いていきます」

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選手会長としての2年間で得たもの

ラグビーチームは、選手スタッフ合わせて80人ほどの大所帯となる。その中で、選手全員がハッピーになることは現実的には難しい。「組織論としてはわかっているのですが、不満に思っている誰かがいることは僕にとって幸せでは無い」と目崎は言う。そのため、高橋チームディレクターと協力して、選手とも運営側とも信頼関係を築いてきた。

「苦情を言ってくる選手に対して、『何言ってるんだよ、こいつ』と感じるようなことは何度かありましたが、その背景には理由があるはずで、深読みして考えられるようになりました。2年間やってきて、瞬間的なストレスは色々とありましたが、僕は性格的にお世話を焼きたい方なので、モチベーションにしても誰かのためになるのならやってあげたいという気持ちがありました。

26歳で選手会長になりましたが、その年齢でチームリーダーを任せられるって、普通の会社員だったらなかなか無いと思うんですよ。ラグビーチームというカテゴリーだけど、どんなレベルであれ、一つのグループのリーダーをできたって云うのは、2年間すごく勉強になったなって思います。それで、改めて自分はリーダーというよりNo.2が向いていることがよくわかりました。『誰かのために何か尽くしたい!』タイプなので。そんな僕が、普通できないポジションをできたっていうことは、自分の中ですごく財産になったと思います」

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プレーヤーとしての武器

目崎は、選手会長である前に、一プレーヤーとして何を武器としてこれまで戦って来たのだろうか。シャイニングアークス入部以来、4番から8番までのポジションをやってきた。ここ数年はLOを中心に起用されてきたが、昨シーズンはFLがメインとなった。複数のポジションをできるのが目崎の強みでもある。その中でも、「思考力」が自分の武器だと言う。

「FWの中では、誰にも負けないぐらい考えてプレーしていると思います。『とりあえず、そのプレーをやろう』は、無いです。チームの決まりだから、このプレーをしようとかは、しないようにしています。でも、試合でいきなりそうしてしまうとゲームが破綻してしまうので、練習の時から疑問に思ったらまず訊くし、納得できないんだったら、納得できるまで訊いてきました。

こっちに意見を寄せてもらうこともあるだろうし、僕や他の選手が出した意見とコーチ陣が出した意見が釣り合った中で、決めたラグビーをしっかりその場で考えてやる。チームの目的に沿ったラグビーをやるっていうことが大切。コーチ陣からもよく『戦術理解度が高い』って言ってもらえるんですけど。

突出した身体能力が無い自分が何で勝負しようって考えたら、答えはそれこそ『考えること』でした。例えばサインを覚えたとしても、それをした先に何がしたいかということを理解しているか否かの差だと思うので。

基本的に一貫性を出すことが自分の中のテーマなのですが、昨シーズンは、高いレベルの一貫性を保てたシーズンだったと思います。来シーズンに向けては、昨シーズンよりワンステップ高い一貫性を出すことが目標です」

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そして、次の代へとパスを繋ぐ

この5月に喜連航平へと選手会長が引き継がれた。

「選手会長の任期は特に決まっていなかったので、事前に内山GMや高橋チームディレクターに相談していたのですが、そろそろ自分が交代したほうがいいと思い、喜連航平選手に引き継いでもらおうと本人に話したら了承してくれたので、先日交代しました。

一人の人間がトップの役職をずっとやっているのは一貫性を出すためには凄くいいことだと思うのですが、人がどんどん入れ替わらなければいけないスポーツチームという環境の中では、新しいリーダーシップを持った人間が入れ替わり上に立つことが、組織としていろんな多様性をもたらしてくれるのではないかと思っています」

いろんな考えを持った人が選手会長を交代していくことで、チームが様々な文化やレガシーを残しつつより良くなっていければいいと、目崎は考えていた。だから、もう1年やろうかどうか迷ったが、このタイミングで次の代へと引き継いだ。

「『選手会長って何やってんの?』ってよく訊かれるんですけど、それでいいんだと思っています。目に見えないところで、何をやっているのかわからないぐらいで、組織が回ってくれているほうが、僕は嬉しい。選手がふだん何気なく何かの道具を使っているのを見て、心の中で「おっ、使ってるねー、いいでしょ、それ!」ぐらいは思っていますけど(笑)。でも、そのくらいの見返りでもいいから、とりあえずチームにいる人たちが幸せになってくれればいいかなって思って活動した2年間でした」

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