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友井川拓note -Vol7.『フィードバック』について考える。

フィードバックはスポーツでもビジネスでも成長する為には欠かせないもの。

それは地位や役職に関わらず、全ての人が成長する為に必要です。昨今、多くの経営者や会社幹部など役職の高い方々がコーチをつけている理由もフィードバックをもらうことで成長できると考えているからです。

ビル・ゲイツも教師のような素晴らしい職業の方達こそフィードバックが必要であると述べていますね。

そもそもフィードバックとは。

【フィードバックとは】
 業務内での行動などを評価した結果を、その行動した人や会社に対して伝え返すことをいいます。フィードとは英語で「Feed」です。Feedの意味は食べ物を与える、つまり栄養を与えることを意味します。「Back」は「返す」ですね。フィードバックする内容は、どんなものであっても返される側にとって活かせるもの、糧になるべきものという意識が大切です。フィードバックは評価する側が、評価される側のモチベーションを上げ、能力を向上させるために行われるものなのです。


私はラグビー選手、コーチ、会社員として、様々な立場で多くのフィードバックに触れてきました。それはされる側、する側共にです。

そんな多くのフィードバックに触れた経験の中で、一様にフィードバックと言っても、本当に全てのフィードバックがされる側にとって有益なものなのか私は疑問に思っています。

前述しましたが、本来フィードバックとは『評価される側のモチベーションを上げ、能力を向上させるために行われるもの』であるべきです。しかし、現状多くのフィードバックがネガティブなもので溢れており、かつされる側もフィードバックとはネガティブなものであると思っている人達で溢れているような気がします。しかし、自身の経験からネガティブで批判的なフィードバックからパワーをもらったことは一度たりともありません。

なので今回は、様々な実験や調査、そして様々な人のアイデアから、どのようなフィードバックが与えられる側にとって有益なものになるのか考えていきたいと思います。

「優れたフィードバックをするための秘訣」

まず、優れたフィードバックとはどのようなフィードバックか。
TEDトークで認知心理学者のリーアン・レニンガー氏が「優れたフィードバックをするための秘訣」で4つの秘訣について話をしています。

4つの秘訣は以下の通りです。

1、The Micro ーYes (小さな質問)  
例:「5分だけ時間ある?さっきの対応について業務改善のアイデアがある
んだけど聞いてもらえる?」受け手に準備が出来ることと、YesかNoを選択することで自分でフィードバックを受けると決めたという実感が持てます。
 
2、Date Point (具体的な証拠を示す)
「ぼかし言葉」ではなく具体的な話をすることが重要。
 
3、Show Impact (影響を伝える)
先にした具体的なことが自分にどのように影響したのかを話す。
例:「進捗の報告がなかったことで、仕事が止まってしまったんだ。」
 
4、End On A Question (質問で終える)
例:「どう思う?私はこう思うが意見をくれないか?」

これらはポジティブなフィードバックでも同様だと言います。

リーアン・レニンガー氏の秘訣の中で謳われている「質問で終える」ということは非常に大事だと思います。行動を決めるのはフィードバックを受けた本人であるべきだです。する側の押し付けが、される側の身になることは皆無です。最後に自分(される側)の意見を述べフィードバックを終えることが理想だと思います。

フィードバック自体が大事なのではなく、フィードバックをされた側が自身にとって何が必要でどう行動に移すか自ら考え自ら動くことを促すフィードバックこそが優れたフィードバックだと思います。

そしてリーアン・レニンガー氏の話からもう1つ共感させられたのは、される側からフィードバックを求めるプル型のフィードバックという考え方です。フィードバックが上手い人はフィードバックを待つ(プッシュ型)のではなく、フィードバックを自ら求める(プル型)ことで学び続けることを止めないといいます。

スポーツでも同様です。
成功・成長する選手の特徴は、フィードバックを自ら受けに来ます。反対に伸び悩む選手は受け身な選手が多い傾向にあります。どのような行動が必要か自分で考えて、上司やコーチを上手く使うコーチアビリティという観点も成長する上で重要なスキルだと思います。

ポジティブなフィードバックはネガティブよりも30倍良い

フィードバックの秘訣について、リーアン氏の秘訣が大いに参考になることはわかりましたが、続いてフィードバックの種類がどういう影響を与えるのか考えていきたい。

『NINE LIES ABOUT WORK 仕事に関する9つの嘘』である調査について書かれています。ストレングスファインダーでお馴染みのギャラップ社の職場エンゲージメントに関する調査において3つの発見があったといいます。

まず、フィードバックについては大きく別けて3つあると考えています。

  1:フィードバックはしない
  2:ネガティブなフィードバック 
  3:ポジティブなフィードバック

その中での発見は、

第一の発見は、 
 エンゲージメントが低い職場を作るには部下を無視すればいい。フィードバックを与えなければエンゲージメントは急降下する。
 
第二の発見は、
 ネガティブなフィードバックは部下を無視するよりも40倍も効果が高い。という一見ポジティブな結果に見えるが、第三の発見からみると非常に気がかかりなものであると言えます。

第三の発見は、
ポジティブなフィードバックを受けた従業員のエンゲージメントはネガティブなフィードバックを受けた従業員の30倍良い。
ということ。

つまりポジティブなフィードバックはフィードバックをしないより1,200倍良いってことですよね。1,200倍...計算があっているかわかりませんが...。
つまりは、フィードバックをしない、またネガティブなフィードバックしかしていないという環境に身を置いているのであれば、ビジネスでいえば部下や従業員、スポーツにおいては選手や部下となるスタッフ達の能力は未だ眠ったままなのかもしれませんね。

スポーツにおけるフィードバックでも同様です。選手に向けて指摘が目的の映像を繰り返し流すのと、良いイメージの映像を繰り返し流すとでは後者を流した後の練習の方がより精度の高いものになります。

パフォーマンスが称賛をもたらすというよりも、称賛がパフォーマンスをもたらす。』ということはデータからもわかっていることです。

これは、セルフフィードバック(振り返り)でも同様です。
まず振り返りをしない(無視と同様)ということは成長の余地はありません。
成長する選手や活躍している多くの選手は自分の良かった点を振り返るのが上手いですね。反対に、経験の浅い選手や伸び悩んでいる選手はセルフフィードバックでも悪いところに着目しすぎる傾向にあります。

選手とのフィードバックの中でもこんなやりとりは少なくありません。

私 「まず自分振り返ってどうだった?」
選手「こことあそこはあまり上手くいかなかったですね...。」
私 「じゃ、いいところはどうだった?」
選手「・・・。」

とこのように質問すると多くの選手がネガティブだったプレーについて話し始めます。そしていいところはどうだったかと質問すると言葉に詰まることが多いですね。笑
勿論、楽観的になり過ぎるのも良くないと思いますし、そもそも人間の脳はネガティブなことを考えるように出来ているのでマイナス志向自体が悪いとは思いません。ですが自分のいいところを探す訓練も成長する為には必要なことですね。

ハーロックの賞罰実験

ポジティブなフィードバックが有益なのは、発達心理学者のエリザベス・ハーロックの賞罰実験でも実証されています。

【ハーロックの賞罰実験】
子どもたちを三つのクラスに分けて、5日間にわたって計算テストを実施。
そして、答案を返す際の教師の態度を以下のように分類しました。

 1)点数に関わらず、できたところを褒める「称賛クラス」
 2)点数に関わらず、できていないところを叱る「叱責クラス」
 3)点数に関わらず、何も言わない「放任クラス」

その結果、「称賛クラス」が5日間続けて成績が上がり、
「叱責クラス」は3日間は成績の向上が見られたもののそのあと失速。
「放任クラス」は初めのうちだけ成績が向上が見られただけで、そのあと大きな変化はなかった。

人は褒められた方が成果が出るというこの効果は「エンハンシング効果」と呼ばれています。そしてこの実験からわかるもう一つの大事なことは、叱ることは一時的な効果はあるものの継続性は無い。それどころかすぐにモチベーションが低下しパフォーマンスが下がってしまうということです。

スポーツの世界でも同様のことが散見されます。ミスが多い練習や試合、ミスが多いまたはモチーベーションの低い選手などを一方的に怒ることで一時的に改善したことを受け、「檄を飛ばしたら変わった」「やはり怒らないと変わらない」など間違った考えをするコーチ・指導者が多いのが現状です。

ネガティブ・バイアスとシロクマ効果

前述しましたが、そもそも人はポジティブな情報よりもネガティブな情報に注目し、ネガティブなものをより強く記憶に残すというネガティブ・バイアスを持っています。

社会学者のアリソン・レジャーウッドが行った”新しい外科手術に関する実験”でも、「同じ事柄であるにも関わらず、ネガティブな印象からなかなか離れられず、意見を変更したがらない」ことが証明されていますね。


そしてネガティブという観点で言うと、脳は否定形を認識出来ないという考えもあります。アメリカの心理学者のダニエル・ウェグナー氏が行った『シロクマ実験』でも下記のことが実証されています。

【シロクマ実験】
シロクマの映像を3つのグループに見せたあとそれぞれのグループに次のようなお願いをしました。
 
 グループA:「シロクマのことを覚えておいてください。」
 グループB:「シロクマのことを考えても考えなくてもいいです。」
 グループC:「シロクマのことだけは絶対に考えないでください。」

期間をおいて調査したところ映像を鮮明に覚えていたのは、なんとグループCの人達でした。

この「シロクマ効果」と呼ばれるこの現象、皮肉過程理論とも呼ばれています。シロクマを考えないようにコントロールしなければならなくなると、シロクマのことを考えていないかどうか頭の中でチェックしなくてはいけなくなります。シロクマについてチェックするためには、常にシロクマについて意識しなくてはいけなくなります。考えないでおこうという意識が、逆に考えさせる状態を維持させてしまうという効果です。

脳の仕組みについて詳しく理解しているわけではありませんが、スポーツやビジネスでも同様でしょう。「ミスをするな」と繰り返すことで「ミス」というワードが刷り込まれ、余計ミスをしたりミスを恐れて消極的にプレーしたりという現象は多々あります。実はこれは指導者自らミスのある練習を作り上げているという皮肉です。
なのでコーチ・指導者が上手くいかない時に、やるべきことは具体的に何を修正するかを伝え、そこに集中できるような環境・声がけをするべきです。
今日のトレーニングは「ミスを20%に抑える」ではなく「早く的確なポジショニングを意識することで成功率を80%を達成する」などの目標が適切だと考えます。

褒めるには

では、ポジティブという観点では、どう褒めるか・何に注目すべきでしょうか?
参考になるのは、スタンフォード大学の心理学教授であるキャロル・S・ドゥエック氏の調査です。

【ドゥエック氏の実験】
数百名の子どもたちを対象に、ある問題を解かせ、二つのグループに分け、

・グループ1は「能力」を褒める。
・グループ2は「努力」を褒める。

という調査を実施しました。その結果、グループ分けをした時点では、両グループの成績に違いはなかったが、子どもたちに新しい問題を見せて、「新しい問題に挑戦するか」「同じ問題をもう一度解くのか」、どちらかを選ばせるという実験を行ったところ、二つのグループの間で、明確に違いが現れたといいます。
能力(頭の良さや得意な分野)を褒めたグループは、新しい問題を避け、同じ問題を解こうとする傾向が強くなりました。
ボロを出して自分の能力を疑われるかもしれないことは、いっさいやりたがらなくなったといいます。一方で、努力を褒められた生徒たちは、その9割が、新しい問題にチャレンジする方を選び、学べるチャンスを逃さなかったそうです。

この実験の被験者は子供ですが、大人でも同様の事が言えるはずです。
『能力』を褒めることが間違っているとは思いませんが、能力以外に着目することもモチベーションを上げる為には欠かせないことですね。

もう1つ参考になるのは愛読書『FOOTBALLISTA』での目標設定のカギについての記事から。

選手が目標設定をする時の考え方には、主に「パフォーマンス重視」、「結果重視」、「失敗重視」の3種類があるとしています。
パフォーマンスを重視する選手は、成功を選手自信の成長や改善と定義する傾向があります。自分の能力を向上させることを第一に難易度の高い目標を立て、その過程で失敗をしても柔軟に対応し、成長する機会として前向きに捉える傾向が強いということです。
一方、結果や失敗を重視する選手は、成功を試合の結果や他人との比較で定義づけてしまいます。結果重視の選手は他人と自分を比べることで自分の能力の高さを証明するために、失敗重視の選手は自分の能力の低さが他人に露呈しないように目標を設定してしまいます。

結果にこだわるということはスポーツでもビジネスでも当然のことです。
結果にこだわらないという選手に心を揺さぶられたことはありません。しかし一方で、成長という観点では、目先の結果に引っ張られすぎて、パフォーマンスが上がらないという選手も多く見てきました。
例えば試合に出る為のアピールとしてビッグプレーばかりを狙い、空回りしてしまい逆に評価を落としてしまう等。試合に出たいという気持ちは持って然るべきです。コーチや指導者やそこを理解し尊重した上で間違った方向に進んでいるときは修正してあげる必要があります。選手の結果を出す為の近道はパフォーマンスを上げることで、結果に囚われすぎてしまうと逆に遠回りになってしまうということを気づかせることも時に必要だと思っています。そしてパフォーマンスを上げる為にどのような努力をすべきか自分で考えられるようサポートして上げることがコーチや指導者の役目だと思います。

まとめ

まとめ。
フィードバックは、ポジティブで建設的なものであるべきです。
良きタイミングで、具体的で、指摘よりも提案が多く含まれるものだと思います。
しかし、時に間違いを正さないといけない時もあります。その時は『批判』ではなく『修正』をするための質問と提案を繰り返すことです。

フィードバックは、する側の押し付けになってはいけません。
中にはメンタルが強靭でネガティブなフィードバックであっても、それを糧にし成功した強者もいるかもしれません。しかし、そんな指導方法が全ての人の為になるようなことはありません。一人の強者を育てる変わりに、多くの犠牲者を出すことは指導者やコーチとしてあってはならないことです。指導者やコーチは選手や部下の成長・未来の為にサポートすべきです。
結局は自ら考えないと成長することは出来ません。コーチや指導者の考えを押し付けるのではなく、自ら考え行動できるよう質問を繰り返し、答えを導いて上げることが部下・選手の成長につながる1番の近道だと思っています。

どなたかこの note にもポジティブなフィードバックをお待ちしております。笑

最後までありがとうございます。

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