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七夕と生死

幼い頃、幼馴染と一緒にいる時によく母親に読んでもらったお話。
一年に一度しか会えないのにそれでも愛し合う織姫様と彦星様。
小さい知識だけではなぜ一年に一度きりしか会えないのかは勿論わからない、だから深く考えなかった。
私はそんなロマンチックなお話が大好きだった。

『ねえおかあさん、わたしもこんな恋ができるかなあ?』

私の言葉に母は苦笑した。
それでも優しく、頭を撫でながら教えてくれた。

「織姫様と彦星様は一年に一回しか合いたいわけじゃ無いのよ。会わせてもらえないの。」

と。
それもよくわからなかったけれど、私の脳裏には幼馴染が思い浮かんでいた。


あの会話から6年。
母は突然の病に毒され他界した。
父親はというと存在しなかった。
いたのかもしれないけれど、私の記憶を辿ってもそれらしき姿は何一つとして浮かばなかった。
母がいなくなったという現実を受け入れられなかった私は毎晩泣き喚いた。
喉が掠れて声が出なくなっても、目が真っ赤に腫れても、ずっと。
そんな私を保護してくれたのは一緒に織姫様たちのお話を聞いていた幼馴染のお母さんだった。
辛そうな顔をしながらぎゅっと抱きしめてくれた、私のもう1人のお母さん。
幼馴染_.“ 天川凛月 ” はお兄ちゃんになった。
彼のことは好きだった。だから嬉しくはあったけれど、お母さんがいないということが突きつけられている気がして何の意味もなく凛月とは少し距離をとってしまっていた。
“ 河名志織 ” から “ 天川志織 ”になる恐怖。
物心はとっくについていたのに河名志織としての脳内は受け付けなかった。
不安定な状態が続き、中1の後半から次第に学校へ足を運ぶことが難しくなってしまった。
そんな私が、このままじゃダメなのに。と思い詰めていた時、何も言わず一番近くにいてくれたのは凛月だった。
どれだけ突き放しても、毎晩私の嗚咽が聞こえるたびに『大丈夫か』とドアの前で声をかけてくれた。
私の途切れ途切れの言葉を聞きながら、涙が引くまで何時間もドアの前にいてくれた。
そんなことが何日も続いていると流石の私でも申し訳なくなってくる。
元々空き部屋だった場所が私の部屋となった。
少しづつ私の趣味色に染まり始めたまだシンプルな部屋。
その中へ通し、私が話してから凛月も色々話してくれるようになっていた。
日によってはそのまま一緒に寝落ちた。
お義母さんは微笑ましく見ていたらしい。
恥ずかしい思いが勝ってしまうけれど、天川家の優しさへの感謝の気持ちも大きかった。
皆の暖かさのお陰もあり、日を重ねる事に涙を流す回数はかなり減った。

時は流れ、中学3年生のいま。
たまに休むことがあっても、再び学校へ行くようになった。
『学校に行きたい』とお義母さんに伝えた時はとても心配された。
なぜか凛月が行くようにいったのでは無いかと疑うくらいに。
それでもお義母さんは快く再通学を許してくれた。
一方凛月はというと、

「行きたいならいいんじゃね、
    …クラスは一緒だし、俺が近くいてあげる。」

といってくれた。正直心強い。
なんやかんや慌ただしくなっても勉学に励んだ。
周りの皆に追いつけるように努力したいと思った。
そして、凛月と同じ学校に行きたいがために、多くの時間を費やし最善を尽くした。
先生やたまに私の勉強を見てくれる凛月からは『飲み込みが早い』と褒めてもらった。
嬉しくて、これからも頑張ろうと思えた。
模試の結果は頭のいい凛月には到底及ばないけれど、悪くはなかった。
お義母さんも、『頑張ったね』と褒めてくれた。
そんなほくほくした気持ちで安定した日々を過ごしていたある日。
7月7日。ふと空を見上げると数本の細い線が綺麗な夜空を駆けた。
その瞬間なにかが私の中で引っ掛かり、母のことがフラッシュバックした。
止まりそうになった呼吸を無理やり整える。その勢いで慌てて家に帰り、私の帰りを待ってくれていた凛月の横を通り抜け、部屋に入った。
バタンと荒っぽく扉を閉める。
あの日、あの時の恐怖や寂寥感が身体を蝕み、体温が下がった身体を震わせる。
パニックになって布団の中でじっとしていると、ふわりと暖かい感触が私の頭を撫でた。

「 …大丈夫か? 」

凛月の落ち着いた声が私の周りに彷徨っていた冷気を振り払う。
何も喋らず、沈黙が流れる。
生憎お義母さんは居なかった。
荒れた感情が落ち着き始めた頃、凛月は無理やり私を布団の外に出した。

「 ちょっと来て。 」

そう短く告げ、私の手首を引っ張る。
迷いなく進んでいく凛月の背中。
気が付けば外にいた。
天川家から徒歩10分程度で着く、展望台のような所
先程見た時より明らかに量が増えている星々。
凛月が居るからだろうか。
怖さは感じなかった。

「 …織姫と彦星の話、覚えてる? 」

突然振られた話題に慌てて頷く。

「 今でも、一年に一度しか会えないことが
     素敵だと思える? 」

「 …おもわない、さみしいし、こわい。 」

嘘の欠片も無い本音を向ける。
そっか。と笑った凛月は天を仰いだ。
明星に輝く空に向け、手を伸ばしていた。

「 …俺、言ったこと無かったんだけどさ。 」

「 ? 」

「 お前のこと、ずっと好きだったんだよね。 」

…へ?
目を見開き凛月の横顔を見詰める。

「 だから、一年に一度しか会えないような関係になったら、好きになって貰えるかなって思ってた。 」

( …やだ、 )

口には出さないようにしながら強く思う。
凛月が毎日会いに来てくれるから、いたから学校にも行けてるのに。
頭が真っ白になっていた。
冷静になんてとてもじゃないけどなれなくて。
テンパっていた。

「 ‪✕‬‪✕‬高校行きたいって言ってたじゃん、俺。 
     あれ嘘。 」

「 う、うそ!? 」

ここが街外れでよかった。
思ったより大きな声が出てしまい肩身を狭くする。
一呼吸してからできる限り大きくない声を出せるようにしながら口を開く。

「 本当はどこに行きたいの? 」

こてん、と首を傾げる。
我ながらわざとらしかっただろうか、と思いむむむと顔を少し歪めた。
それでも凛月は笑うことなく、いつも通り冷静に答えてくれた。

「 あそこ。 」

光り輝く天の川を指差しながら。
彼が冗談を言うとは思えなかったけれど一応確認してみる。

「 え、真面目に聞いてるんだけど… 」

「 俺も真面目に答えた。 」

「 えぇ… 」

本気だったのか、と苦笑する。

「 ま、死にたいってことだな。 」

唐突なカミングアウトに腰を抜かしそうになる。

「 …なんで今? 」

「 いまなら言える気がしたから。 」

至って冷静。
嘘のひとつも濁りもない本心。
嘘だと信じたい自分。
必死に止める。

「 私は凛月もいなくなっちゃうの嫌、 」

くい、と袖を引っ張る。
そこで異変に気づく。
何故こんなに暑いのに長袖なんだろう。と。
バッと袖をまくるとそこには信じられない量の傷跡があった。

「 隠し切るの大変だったんだよ、これ。 」

そういって二の腕あたりまでめくった。
困惑で埋め尽くされている私には理解し難かった。
そこで確信する。本気なんだ、と。

「 志織はなんで俺が居なくなるの嫌なわけ? 」

「 それは…
      凛月のお陰で、いまの私がいるからでっ…、 」

「 たかがそれだけ? 」

ぐさりと刺さった。
“ たかがそれだけ ” 。
私は彼の何を知っていただろうか。
今の今まで気が付かなかった彼の異変。
自分ばかり見ていた私。
情報の多さにくらくらとする。
彼からしてみれば私の言動なんて病みアピ程度でしかなかったんじゃないか、と気づく。

「 …俺に死んで欲しくないの? 」

溜息を吐いてからそう問われた。
脳が揺れそうなくらい強く頷く。

「 じゃ、条件。
     お前が俺の事を愛してくれんなら死ぬか生きるか
     考えてあげる。 」

「 いまでも愛してるけど…!? 」

「 それは “ 幼馴染として ” だろ。 」

「 それじゃダメなの!? 」

「 馬鹿かお前。 」

ふはっ、と笑った彼に少し安堵した。
私の馬鹿な脳でもう一度考えてみる。
で、どうする?と意地悪に笑う彼への返答が決まった時、傷をもう一度みて手首を掴んでから言う。

「 この傷ごと愛してあげる。 
     何でも受け入れるから生きて。 」

私の人生、15年間の中で1番試行錯誤したと思う。
確実に聞こえる声の大きさで伝えた。
一瞬驚いたような顔をした彼をみて吹き出してしまった。
そんな私を見て、諦めたように。
そして連られたように笑って

「 仕方ねえな、生きてやるよ。
     信じるからな。 」

と言ってくれた。




「 絶対死なせないから覚悟してて。 」




どこから湧いた自信なのかはわからなかったけれど、にっと笑って言い張った。





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たぶん過去1ひどい作品。
薬まわりまくってて萎える。
てか書いてる途中で萎えてた。
まだギリ7月7日七夕。

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