米Amazonの配送センターに見るロボット技術導入手法の考察
米Amazonの配送センターでは見学ツアーが提供されており、新型コロナウイルス感染が広がる前には日本からいらっしゃる方々をよくお連れしました。見学された方々の反応は概ね両極端で、自律移動ロボット(AMR、Autonomous Mobile Robot) が機敏にフロア内を走行する姿に感動する方と、思った以上に無人化されていないことにがっかりする方がいらっしゃることに興味をもち、自分なりに分析してみようと思い本文を書き始めました。
Amazon Fulfillment Center Tour
米国各地にある米Amazon配送センターのいくつかは平日午前と午後に1時間の見学ツアーを行っており、シリコンバレー近郊のトレーシー市とサクラメント市の 2つの配送センターでもツアーが行われています。残念ながら現在は新型コロナウイルスの影響でツアーは行われていませんが、配送センター内を配送の流れに沿って案内してくれます。1回のツアーは最大20人ほどだと思いますが、メインの説明員の他に3人前後の説明員がアテンドしてくれます。参加者には無線のヘッドセットが渡され、配送センター内の騒音の中で離れていても説明員の話が聞けます(残念ながら英語のみですが)。配送センター内は撮影・録音が禁止されているため、皆さんに配送センター内を映像でご紹介できないのが残念です。
配送センター内の業務と全体の流れを分析し自動化へ
冒頭に触れましたが、米Amazonの配送センター内はすべてが自動化されているワケではありません。ツアーの最初に皆さんがオンラインで発注してから商品が手元に届くまでの流れが説明されます:
(1) 注文 (Place Order)
(2) 入荷 (Inbound)
(3) 保管 (Stow)
(4) 払い出し (Pick)
(5) 梱包 (Pack)
(6) 仕分け (SLAM: Scan/Label/Apply/Manifest)
(7) 出荷 (Shipping)
(8) 配達 (Delivery)
説明員の話では、米Amazonでは配送ラインの全行程をまず人による作業として作りあげた後それぞれの作業を分析し、自動化の効果が高い作業から自動化を進めているそうです。つまり最初から無人化や全自動化は行わないアプローチには驚かされます。よって自動化の方法も様々な技術が活用されており、AMRはあくまでもその一つでしかありません。配送センターのツアーには何度も参加していますが、参加する度に自動化されたプロセスが増えていくのが分かります。
例えばAMRが活用されている保管と払い出しの作業ですが、この作業には人と AMRが協働する環境になっています。
商品は人によって棚から出し入れされますが、人は基本的に作業ステーションから移動せず AMRが棚を作業ステーションまで運んできます。保管の作業では運ばれてきた棚のどこにどの商品を格納するのかがスポットライトで示され、人はそこに商品を入れます。払い出しの作業では運ばれてきた棚のどこに目的の商品があるかをスポットライトが示し人はそこから目的の商品をピックアップします。
このように保管・払い出しの作業はすべてシステム化されており、人や AMRはシステムの指示に従ってピッキングや棚の移動を行っています。ちなみに AMRは自律移動しますがフロアの各所にはQRコードのようなマークが印字されており、AMRは随時自分の位置を確認しつつ周囲を判断しながら移動しています。
サステイナビリティ: 止まらない配送センター
また説明員の話ではあえて全ての流れを自動化しないのは、自動化されたプロセスが障害などで停止しても人手で一時的に代替えできる余地も残しているのだそうです。そういう意味では最近倉庫業務を完全自動化するオートストアも登場していますが、確かにこのように自動化されてしまうと停止した際に倉庫内から人手で商品を運び出すのはかなり難しそうです。
自動化の費用対効果 (ROI: Return on Investment)
米国では物流だけでなく製造業においても自動化が進みつつありますが、投資がどの位の期間で回収できるのか費用対効果が重要視されます。よって大きな投資額で開発期間が長い自動化は避けられ、事前に費用対効果の分析・評価を行った後に順次自動化が導入される傾向が強いです。また費用対効果を高めるために無理な自動化は行わず、人が得意とする作業はそのまま残しつつ自動化が進められるため、ロボットが人の作業を奪うという見方も最近では減ってきているように思います。
AMRを評価するか、AMRが担う作業を評価するか
さて冒頭の話に戻りますが、米Amazonの配送センターを見学してAMRが動き回る姿に感動するのか、無人化されていない環境にがっかりするのかは、見学するそれぞれの方が何を評価しているのかの違いだと思います。確かに何十台もの AMRが機敏に動き回る技術は素晴らしいものですし、根本的に正確に動作しなければ自動化自体が成り立ちません。しかし全体の流れを把握し全体効率化の立場で自動化を進めることができなければロボットをはじめとした自動化導入の効果を実感することは難しいと思います。
ロボット開発に携わる身としては、ロボット本体の開発だけでなく、ロボットを取り巻く環境も含めたシステムとして高度化していくことを目指したいと思った次第です。