商品写真、美術館の壁に。15年越しのプロジェクト、実現。
こんにちは。
切り抜き写真もアートになるのではないかと考えている丸山です。
2023年、長野県の『シンビズム5』というプロジェクトに参加する機会を得て、故郷の高遠美術館で作品を展示することができました。
学芸員の方々と展示構成を相談する中で、2014年に制作した
『Japanese Beer』シリーズの展示を提案しました。
これまで展示機会がなく、ニューヨークのギャラリーでも評価されなかったこのシリーズでしたが、今回、学芸員の方々が興味を示してくださり、展示が実現しました。
『本当に展示してもいいんですか?』と何度も確認したほどです。
元々缶ビールのパッケージとビールで構成されていたこのプロジェクトは、今回商標権への配慮から、グラスだけの展示となりました。
制作当初、広告写真をテーマとして日本のビールを選び、その多様性や商品開発、日本独自の豊かな食文化に注目して撮影しました。
10年を経て、社会の価値観や消費者のニーズの変化、酒税改革、健康志向や環境意識の高まり、さらにはサステナビリティへの関心の深まりを反映し、コンセプトを発展させました。
パッケージ写真を作品に加えるため、2023年版の『Japanese Beer』を新たに企画しました。
2014年の作品では主に大手ビールメーカーの商品を使用しましたが、今回は日本のビール文化の多様化を反映させるため、商標の許可を得るため、長野県のクラフトビール『よなよなエール』を選びました。
広告写真の手法も時代とともに変化しています。「よなよなエール」のような地方のクラフトビール会社は、大手企業とは異なるアプローチを取っています。彼らはSNSを巧みに活用し、社内スタッフが自ら撮影やプロモーションを行うなど、新しい広告戦略を展開しています。
日本の大手ビール会社の広告では、しばしば商品写真よりも起用されたタレントの存在感やイメージが重視される傾向があります。これは商品そのものの魅力を伝える商品写真家として少し残念に感じることもあり、私が海外に活動の場を移した理由の一つでもあります。
一方、「よなよなエール」のような企業は、限られた予算の中で、タレントに頼らず商品そのものの魅力や製造過程、製品に込める思いをSNSで直接発信しています。このアプローチは、商品写真家として非常に共感でき、今回のプロジェクトの趣旨にも合致すると考えました。
また、興味深いのは、『よなよなエール』の泡と液体の比率が1対9と、通常のビール広告とは異なる点です。
『豊かな香りと濃厚な味わいをもっともバランスよく感じられる泡の比率』という彼らの哲学を尊重し、今回の写真でもこの特徴を生かしています。
同じグラス、ライティングとアングルで撮影しながら、ビールの泡の量は『よなよなエール』の推奨に合わせて調整しました。
意外にも、今回の展示でビールをテーマにした作品が最も注目を集め、驚きました。
オープニングでは、長野県立美術館の松本透館長が講評の中で特にこの作品について言及してくださいました。館長は、このアプローチをドイツの写真家ベヒャー夫妻のタイポロジー(類型学)になぞらえ、興味深い試みだと評価してくださいました。
私はニューヨークで広告カメラマンとしての活動を始め、同時にパーソナル作品を発表する機会も得ることができました。うれしいことに、作品がアート作品として認知され始めましたが、ニューヨークでは広告写真の制作とアート活動の両立が難しいという問題に直面しました。
広告写真の分野で長年キャリアを積み、その仕事に愛着を感じていたため、広告写真のテーマを芸術作品として発表できないかと考えていました。しかし、ニューヨークではこのコンセプトはなかなか受け入れられず、展示の機会を得ることが難しい状況でした。
アートと広告の融合の難しさに直面しながらも、その経験を活かそうと試行錯誤して作り上げたのが、この作品です。10年以上前からの企画でしたが、今回初めて美術館で展示することができ、大変光栄です。
ちなみに、この『Japanese Beer 2014』シリーズには、作品のコンセプトに基づき、低価格に設定された特別なエディションがあります。
2023年にギャラリーブリッツで展示した際に設定した8x10インチサイズのエディション1/1がそれにあたります。
詳細についてはギャラリーにお問い合わせください。
お好きな(あるいは懐かしい)ビールの作品はいかがでしょうか。
80枚の写真からなるオリジナルの作品のサイズとエディションは以下です。 『Japanese Beer 2014』 20インチ x 15インチ Ed5 + AP2
撮影したビールの詳細
撮影のビハインドシーン
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