夏のボストン 【後編】

さて、こうして5日間のプログラムがスタートしたわけだが、ここにたどり着くまでの珍道中に比べればその後はとてもスムーズで、人生で初めてのとても短い海外留学を心ゆくまで楽しんだ。

毎日朝から午後まで様々なカリキュラムをこなす。音楽理論の授業や少人数のグループでギターを弾くアンサンブルのクラス。また、自分の好きなジャンルを選んで受ける選択科目もあった。僕はブルースを選択。最初の日、「皆んなはどのブルースギタープレイヤーが好きかな?」という講師からの質問に、大半の生徒が口を揃えて「スティーヴィーレイ」と答えていたのが印象的だった。(もちろん僕もそう答えた)

音楽理論は朝一番目の授業だったが、初日から僕の英語力と理論の知識のなさが露呈し、完全に講師のおっちゃんにマークされてしまったため(「おい、おまえこれわかっとるんか」という感じ)、二日目以降は申し訳ないがパスして(さぼったとも言いますが)朝はダンキンドーナツでコーヒーを飲んだりしてボストンの街を気ままに散歩して過ごした。

夕方からは友人と合流してその日あったことを話したり、街を歩いたり(楽器屋でお土産にミニギターを買った)、夕飯を食べに行ったり。夜には学校のホールで一流ミュージシャンによるライブが開催されるのでそれを観に行ったりもした。寮でルームメイトと話したり卓球で気晴らししたり、毎日刺激に満ち溢れていたなぁ。

最終日にそれぞれのクラスごとに発表会的なライブが開催され、一緒に授業を受けてきた仲間たちとセッション。短い期間ながらどの生徒もここで吸収した新しい知識や技術を演奏にぶつけていて、どの会場も熱気に包まれていた。

今思い出してみると夢のような体験だった。普段接している世界とはあまりに違う空気が流れているボストンの街。親元を離れた不安感と解放感、そこで経験した音楽、ギター、音楽、ギターの数日間。全身で体感した一流の演奏。この時にしか得られなかったであろう貴重な経験をさせてくれた友人とすべての費用を出してくれた両親には本当に感謝しかない。(まあ理論の授業はパスしたが...)

とても覚えていることがひとつ。
何日か目に僕が部屋でひとりギターを弾いているとルームメイトの一人が戻ってきた。気にせずに弾き続けていると彼がすぐそばまで近づいてきて「おまえブルース上手いなぁ」と言ったのだ。

僕はまたしても小声で「サンキュー」と言っただけでそれ以上会話は出来なかったが、彼の言葉が本心から出たものだということは言葉のニュアンスで感じとれた。
そんな小さな出来事が、今でも自分を支えてくれる自信に繋がっていたりする。


目指せ書籍化📓✨ いつかライブ会場のグッズ売り場にエッセイ集を平積みにしたいと思います。