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キスをするための、キスの練習

中学生と言えば思春期ど真ん中で良くも悪くも異性に敏感になる時期だ。


翔太は勉強が凄く出来るわけでもなく、スポーツも人並みに出来る程度だが特技と言えば誰とでも直ぐに仲良くなれるコミュニケーション能力だ。男子と一緒に昼休みにドッチボールをしたかと思えば、雨の日には女子たちと一緒に恋バナに花を咲かせることもしばしば。


そんな翔太の悩みは大好きな人が男子と女子で一人ずついることだ。隣のクラスの恭一くんと志保ちゃん。


あえて言うならどちらが好きなのかと何度も自問したが、決めることが出来ないほど2人のことが気になって仕方ない。どちらも自分にとってかげないの無い存在であり、二人とも自分に気を許してくれているのが分かっている。


恭一くんは野球部でエース。さわやかな顔に背も高くてスポーツマン、曲がったことが嫌いな性格は誰からも好かれている理由だ。


志保ちゃんは小柄で何でも白黒はっきりさせたい性格な一方、料理や絵が上手でピアノもしていたこともあって繊細さと品があり、長い髪を中学生ながらいつもアレンジしてくるところに育ちの良さが伺える。


翔太はなぜかその二人から好かれており一目置かれている。一度だけ何でなのかと聞いたところ、

「私(俺)がどんな人間かで顔色や言うことを変えないところが信用できるし嬉しいんだ。」

と同じ答えが返ってきてびっくりした。自分ではそんな風に意識して会話をした覚えはない。でも、なんだか自分だけが特別な立場で二人から信用され、頼りにされるのは嬉しくもあり心が満たされていた。

そんなある日、恭ちゃんから相談があると言われて放課後一緒に帰ることになった。

「実は俺…同じクラスの志保のことが好きなんだ。でも、俺、今まで誰とも付き合ったことも無いし、キスだってしたことないし…なぁ、キスってどうやってやるか翔太は知っているか?」

「っていうかまだ、付き合っても無いんでしょ?振られるかも分からないのに、キスの心配するって矛盾していない?それとも気持ちをもう何となく聞いてるとか?」

「いや…まだ聞いてないし…そうだよな。なんか頭でっかちになって色々と先のことまで考えていたけど、確かにそうだよな。でも…付き合ったらまずキスとかするのかなって思って。そんなときに知らないのはどうかなって。」

「恭ちゃん早とちりだって。とりあえず相手の女の子がどう思っているか聞いてみたら?」

「そうだよな…でも俺、直接聞くのは恥ずかしいし、翔太、前に仲良く話してたよな?もし良かったら何となく俺のことどう思っているか聞いてくれない?」

「…分かった。聞けたら聞いてみるよ。でも、別の男子が好きとか気になるとか言われても落ち込まないでね?」

「そんときはそんときだ。とりあえず今はどんな風に思っているか聞いて見れてくれ。」

「分かった恭ちゃん。」

帰宅した翔太は一つの恋が終わりながらも、もう一つの恋も終わりを迎えるんじゃないかと心の中が整理できずにいた。

翌日、言われたように志保ちゃんに声をかけて一緒に放課後帰宅しながら切り出した。

「ねぇ、志保ちゃんって今誰か気になっている人とかいたりするの?もうすぐ夏だし恋とか青春の一つに考えているのかなぁって思って。」

何気ない会話の始まりは、翔太の恋の終わりを告げることになった。

「うん、誰にも言わないって約束してくれる?実は…野球部の恭一くんのこと、ずっと前から好きなんだ。でも部活に一生懸命だし、いっつも男子と一緒に集まって帰宅しているから私の入る隙間なんてないかなって思ってて…。」

「そっか…でもカッコいいもんね。男の俺からしても恭一くんはカッコいいと思うもん。」

「恭一くんはきっと野球のことばっかり考えているし夏も部活ばっかりだから恋愛なんてしている暇なんてないんじゃないかな。だから…もし好きって伝えても振られそうな気がするの。」

「どうだろうね…でも相手の気持ちも知らないで終わる恋なら、結果がどっちになっても伝えてスッキリする方が良いんじゃない?」

「そうかなぁ…もし振られたら慰めてくれる?それと誰にも…言わないって約束してくれる?」

「もちろんだよ、志保ちゃん。」

多分そうだろうな。と心の中で思った翔太の想いは確信に変わり、ほどなく恭一と志保は付き合うことになった。もちろん翔太が恭ちゃんに志保ちゃんが気になっていることを伝えたからだ。

2人が付き合って1ヵ月が過ぎた頃、志保ちゃんから放課後に相談があると言われて一緒に帰宅することになった。

「どう?順調に付き合ってる?」

「うん、部活が無い日は一緒に放課後に帰りながら公園で門限まで話したりして凄く楽しい。」

「良い感じなんだね。それで、相談って?」

「実はもうすぐ夏休みに入るけど、一緒に夏祭りに行こうって誘われているの。それ自体は凄く嬉しいんだけど…多分、私の予感なんだけど、キスとかするんじゃないかなって。でも、翔太だから言うけど私まだ誰とも付き合ったことも無いし、そういうこともしたことないから…どうやれば良いか分からないの。」

「でも…そういうのって男子にリードしてもらえばいいんじゃない?」

「そう思ったけど…変なキスの仕方で、恭一くんがドン引きして嫌いになったら嫌なの…どうしたら良いのかずっと最近悩んでいるの。」

「そっか…でも、」

翔太は次の言葉を言おうとして飲み込んだ。絶対に自分から言ってはいけない言葉だと思ったからだ。

「翔太はキスとかしたことある?」

「一応あるって言うか…小学校のときに遊びでしたくらいだよ。好きな人とするってわけじゃなかったし、俺も分からないかな。」

「そうなんだ…じゃあ、翔太。私とキスするための、キスの練習してくれない?」

後半へ続く。

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