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服が売れないというけれど

こんにちは。田島です。

僕はこの春まで商業施設運営の仕事に携わっていました。
ららぽーとやイオンモール、都市部ならルミネやパルコといった、
百貨店ではないいわゆる「ショッピングセンター(SC)」の業界です。

僕はそれらの有名な施設にはいませんでしたが
販促計画を立てる、集客をする、広報する、そんな仕事をしていました。

僕が長く勤めたのは社内ではイメージ的旗艦店とも言える施設で、
衣料や雑貨、生活用品、サービスに加えて飲食フロアを備えるビルでした。

時代は変化し「モノよりコト消費」という謎ワードがありますが、
とはいえ花形はやはり衣料品店で、セレクトショップやデザイナーズ、
SPA(製造小売業)等はどのSCでも多く入居しています。

さて、今回の緊急事態宣言下では、
多くのSCは生鮮食品やスーパーを除き、休業を余儀なくされました。

これは多くの人にとってショッピングセンターが
「不要不急」なものだからだよね、と感じる部分でもあります。

店を長く開けすぎだと思っていた

僕は12年近くこの業界にいましたが、
常々「店を長く開けすぎだ」と思っていました。

僕が勤めていた施設とその周辺施設では概ね
物販は10時から21時、飲食は11時から23時頃まで営業していました。

これはよく台風が直撃した時や交通機関が麻痺した時に言われるのですが
「店を開けていれば客は来てしまう、閉めれば来ない」というものです。

当然過ぎて身も蓋もないのですが、台風などで人通りがない日でも
「予約をしていたから」等の理由で果敢にも来店する人はいます。

天候不順の場合にはその日の売上はもちろん惜しいのですが、
施設側は従業員を無事に帰さなくてはいけないという責任があります。
(ESの重要性や働き方改革、が言われるようになったからかもしれません)

そういうときに割り切って店を閉めることが出来るようになったのは
ここ数年の話ですが、少しずつ時代に合ってきている気がします。

SCに入居している衣料品店等はお店の規模にもよりますが、
平日だと昼過ぎまでスタッフ1人で店番をする店も少なくありません。
トイレも行けず、盗難やトラブルの標的にされるケースもあります。

それでも売上があれば良いのですが、顧客向けのデザイナーズブランド等は
夕方になってもレジが開かない、なんてことはよくありました。

これはブランドによっても考え方が違うと思うのですが、
1日営業して売上が0円という報告をする店もあれば、
スタッフが自分で商品を買って面目を保つ、ということも日常でした。

結局はお客さんが多く見込まれるタイミングで店が開いていて
その多くのお客さんに対応できるスタッフが潤沢にいればいいですよね。

お客さんの波は現場の肌感覚だったり、入店数カウンターなど
客観的なデータもありますから、活用できないこともないと思います。

天候不順の日や平日午前、日曜日の夜、大晦日などはお客さんが少ないので
ただでさえ売りにくく、スタッフのモチベーションは上げづらいですから、
店を開けておくことが疑問に思えてくるのです。

ショッピングセンターは楽しいけれどコンビニではないんですよね。
これが今回の「不要不急」というところに該当したように思います。

店を開けていることが正しい、というのは少し前の考えかもしれません。

働き方改革と言えばそうかもしれませんが、
小売りでサービス色の強い現場では、人と人が密接に関わる場所であり、
スタッフはお客さんを納得させられる信頼感を持ち合わせていなければ
商品は売れません。

スタッフは個々人のモチベーションに加えて、店舗の体制も万全で
お客様を向かえる状態を整えなくてはならないはずです。

そのスタッフのモチベーションとお客様の来店の波が合致するのは
多くの場合は週末の夕方までと、平日の夜がちょっとあるかどうか、
くらいではないでしょうか。

しかるべきタイミングで開いていれば、それで十分と思うのです。

服は嗜好品になってしまった

ここ5年程の間、衣料品店からは様々なネガティブな相談がありました。

・単品買いが多い
・セールを待っている
・ギフトでも低単価品が多い
・先物が売れない
・必要に迫られて急ぎで買いに来る

対して、こんな声もありました。
・話題のブランドの商品ばかりが売れる
・気に入れば単価が高い商品でも買ってくれる
・オーダー会が盛況

これは完全に、二極化しているんだなと感じ取れました。
服に対して、平時から関心のある人とそうでない人の買い方が
はっきりと表れています。

特によく聞いたのが「実需買い」というワードです。
これは僕自身も半ば言い訳的に使っていたのですが、
暑くならないと半袖が売れない、寒くならないとダウンが出ない、
今日着て帰るような、ジャストシーズンのものを買う、というものです。

これはスーパーで今晩のおかずを買って帰るようなもので
必要に迫られて今すぐ買いたい、という時間的余裕のないものですよね。

ちょっと早いけどサイズが欠ける前に買おう、
この夏はこのワンピで出かけたいから押さえておこう、
好きなブランドから新作が出たから買ってみよう、
そういう余裕のある買い方が減ってきたという流れがありました。

対して、雑誌等で話題の10万円前後するようなダウンは夏から予約が入り、こんな極端なことがあるんだなと思ったことがあります。
そういう予約商品は、前年に買いたかったが品切れで買えなかった、という熱い思いに支えられている売上でもあり、その熱意はすごいなと思います。

ところで、ユニクロは既に国民服として定着している感があります。
外はブランドでも、インナーはユニクロということもありますよね。

ユニクロに思うのは、もちろん多少の流行のフォローはあるものの
基本的には老若男女が着れて、比較的安価で、どこにでもあって、
同じ商品が継続的に販売されている、という特徴があると思います。

よくインナーなど「インフラ的アイテム」で改良が行われると
オンラインショップのレビュー欄が荒れていますが、
あれは多くの人が生活必需品、または消耗品としてユニクロアイテムを
使っていることの証左なのではと思います。

ユニクロ含むファーストリテイリングは昨秋の決算で
世界で2兆円の売上があったそうです。
こと中国や香港、台湾の売上が伸長していて、
昨年は海外の収益が国内の収益を越えたとの報道がありました。

もう日本だけでなく、世界の「Life Wear」になっちゃってるんですよね。
ユニクロでいいや、という時代からユニクロがいい、
というフェーズに変わってきたような気がします。

他のSPAに比べると比較的丈夫で、ベビーやキッズの取り揃えもある。
駅ビルや郊外にも露骨なほど店舗数があるし、
オンラインも大きなサイズの取り扱いもあり発送も迅速。

好みはあれど、ユニクロはちょっとね、というセンスが古くなりました。
もはや対抗できるブランドは見当たらない気がします。

着飾る場所が少ないのが本来の問題

僕は中学時代からユニクロにお世話になっているし、
今も全身どのタグを見てもユニクロです。

ただ、
結婚式に参加するときのジャケットは、ユニクロで良いでしょうか。
大一番のプレゼンに臨むときのネクタイは、ユニクロで良いでしょうか。

初めてのデートで着ていくニットはユニクロで良いでしょうか。
写真館で撮影する記念写真は、ユニクロのベビーワンピでいいでしょうか。

特別な時くらい、少しいいものを着てみたいと思うことがあると思います。

それはユニクロがあくまで私たちの日常の服だからだと思います。
ユニクロのHPではLifeWear=「進化し続ける普段着」となっていました。

では、その特別な時、というのは1年に何回くらいあるでしょうか。
毎週ありますか?それとも月に一度くらい?半年に一度はあるかな?

あんまりありませんよね。

ということは、着飾る必要に迫られないから
こだわりの服は優先順位が低いのではないかな、と感じます。

ではなぜ、特別な時、は少ないのでしょうか。
僕は、ただ単純に、みんなが忙しすぎるからだと思うんです。

休日や休日以外にも自由な時間がたくさんあれば、
一人でどこかに出かけたり、趣味をしたり、みんなで会ったりと
特別な機会が増えるはずですよね。

そこには着ていく服もあれば、履いていく靴もあるし
誰かと食べたいご飯や、お酒や、子どもたちならゲームを持ち寄って。

今回の自粛はいいチャンスと思ったんですが、これまでの生活に戻ったら、
自分の余暇に目を向けるチャンスが、なくなってしまいそうです。

多くの人が仕事や学業に忙しく、自分の身の回りのことにかまえなくなる。

そうするといつまでも日常が続いていくだけで、
服なんかは体を覆えてちょっとそこのコンビニまで行ければ十分になる。

おしゃれな人は、いい服を買って、
どこかに出かけたり誰かと会ったりすることが楽しみのはずです。
むしろ、一人で歩いていたって気に入った服なら楽しい。

でも、そういうおしゃれを楽しめるのはまず生活が成立していて、
時間と懐具合に余裕がある人でないとなれない。

今の世の中では、その余裕が持てない人がとても増えた気がします。
忙しいことと、もちろん自由になるお金が少ないことも。

お店は、ただ開けて並べていたって売れない。

でも、もっとみんながかっこつけたり、
かわいくしたいと思える世の中の方が、楽しそうですよね。

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