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【本の感想】元宮ワイナリー黎明奇譚 著;福島 太郎

先だって福島太郎さんからいただいた、元宮ワイナリー黎明奇譚をようやく読むことができました。

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▼アウトライン

架空の都市である福島県元宮市の職員である大沼係長を主人公に、市役所内部のすったもんだを経ながら、民間事業者と協働して東日本大震災からの復興を目的とした元宮ワイナリーを創設し、元宮ワイナリーのファン第一号を自称するまでのストーリーです。

当時、元宮市は復興のさなかにありながら、風評被害により地元農業の弱体化が課題となっていました。

そこに、国際的にも有数の商社である五友物産より、復興支援事業を大義名分とした新規事業を行いたいとの突然のオファー。

その新規事業がワイナリーとして成り立つまでの大沼係長の奮闘をつづったファンタジーです。

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▼ストーリー、登場人物に親近感を覚えるのよ

・行動力溢れるが故に、色んなことを任される主人公の大沼係長
・よくわからないが机をほしがり部下に地味な面倒をかける川内部長
・民間事業者に「あなたたちどれだけ本気なんですか?」とバズーカを発射する矢吹係長

どの方も役所には

「あぁ、いるよねぇ」

的な方々です。公務員志望の皆さん!役所はだいたいこんな感じです!
タレント性に満ち溢れています。

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冒頭のストーリーにも深い親近感。
冒頭には、川内部長ご要望の机をゲットするために、各部署を奔走する大沼の姿が描かれます。

A部署に行ってはキーマンの人に声をかけ、説得し協力を得る。
B部署に行っても同様に、事情を説明してなんとか協力してもらって、ようやく机ゲット。

みたいな流れ。

部署を横断すると意外に面倒。なんだかんだで縦割り(笑)だから、備品ひとつ調達するのもすごい大変。気心が知れてる人がいてくれると、どんなにスムーズに事が運ぶことか。

これまさに役所ですから。

もう一度言います。

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▼大沼係長の活躍ぶりに脱帽

しかし!主人公の大沼係長の行動力はすごい。行動力というか普通にスキルが高い。

復興支援事業を元宮市で展開したい民間事業者との調整業務は、大沼がかなりの部分を担うことになります。

が、事業用地候補地の検討から都市計画との兼ね合い、実際の事業スケジュールの具体的調整まで担当部署の力を借りながらも、ほとんどは自分で主導しています。

大沼係長の担当はシティプロモーション。事業用地を探すのとか、広報やらシティプロモーションの人じゃ普通はわかんない。そもそも、シティプロモーションの人が復興事業を担当するなんて、普通じゃ考えられない(笑)

この辺りは、大沼係長の経験や人脈がモノを言っていると感じました。ただ仕事をこなすだけではなく、人脈づくりなど副次的な仕事の成果が必要なんですね。

いっときますが、経験を積めばこれだけのことが普通にできるもんだと思っていただいては困ります、公務員業界。たいていの人は色んな部署に配属されますが、ほとんどの職員は器用貧乏です(個人の感想です)。

つまり、

大沼係長は稀有!行動力にあふれたデキる職員!
どうしたらこのような職員が生まれるのか!


▼熱い想いが交差する

五友物産と大沼たちの、もう一つの共通認識が「福島県の復興支援」である。

この一文にはしびれました。

私の経験では、役所がやりたいことを民間に手伝ってもらう、という業務は数多くありました。

しかし、元宮ワイナリーのように、役所と民間がひとつの目標に向かって力を合わせるという経験は今までありません。というのも、業態が違うからか普段はまったく利害や目的が一致しないのですよね。

だからこそ、一致団結したときのことがうらやましい。これまで役所だけ、あるいは民間だけでやっていたものを、両者で協力し合うなんてとても素晴らしいことだし、うらやましいですわ。つくづく。

上述の文には、復興に対する五友物産と元宮市役所の熱い気持ちが込められていると感じました。


▼公務員であればこそ、、、

元宮ワイナリー黎明奇譚は、私なり一言で言い表すと、

地元復興のため奮闘した一地方公務員の武勇伝

です。

公務員になったからにはこそ、元宮ワイナリーのような「自分が公務員として大きな成果を成し遂げた証」だとか、「地元のために粉骨砕身で業務にあたった証」のようなものを残すことが、公務員の本懐のようにさえ感じます。

反対に、一緒に仕事をする同僚たちにも同じような熱い想いを持っていてほしい。

これから入ってくる新人職員の方々にも、あいまいでいいからそんな熱い想いがあってほしいと感じました。

自戒の念を込めて。。。

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