メカちゃん3 あなた運がいいのよ(1)
次がメカちゃんのバス停だ。
かばんの取っ手を肩に掛けなおし降りる準備をしてイヤホンを片方外すと、女子中学生とおばあさんが話す声を拾った。
メカちゃんの後ろに制服を来た中学生、中学生の前の優先席に座ったおばあさん。
おばあさんが何かを女子中学生にたずねていて、女子中学生は答えようとして首をかしげている。
どちらも困っているようだ。
「なにかお困りですか?」
中学生のひじをそっとつついて尋ねると、戸惑っている彼女がメカちゃんを見た。おばあさんもメカちゃんを見た。
「わたし、ローソンに行きたいのよ」
おばあさんは言った。
ローソンで買い物したいのよ。次のバス停からいけるの。
でもどこにあるかわからないの。
「えっと、ローソン、ええと」
女子中学生が力になれない自分を悲しんでいるように見える。
次のバス停ならたまたまメカちゃんのバス停と一緒だ。
「わたし次のバス停なので一緒にいきます、ローソン」
メカちゃんは前回のアップデートした際、無関心モードをOFF設定にしている。「知らない人に親切モード」はONのままだ。
つまりこういったおせっかい行動を推奨している。関心モードONである。
ごとん・ごとん、カートを引き下ろしてバスのタラップを降りたおばあさんは、先に降りたメカちゃんに向かって、
「あらまあそんな、ありがとう。でもいいのかしら。ご親切にありがとう」
と何度もお礼を言った。
上弦の月がよく見える晴れた夜だ。
おばあさんはカートを引っぱり歩きながら、たまに立ち止まり、月をぼうっと見上げたかと思うと、メカちゃんに気づいて、「ああ」と手を合わせる。
月を眺めているあいだ、メカちゃんのことをすっかり忘れていたらしい。
なるほどそうか。初めて会った。
「ローソンはこっちです」
メカちゃんがうながすと、おばあさんははいはい、そちらなのね、と素直についてくる。
「こんなに優しくしてくれてね。なんてお礼を言ったらいいのか。
さっきのお嬢さんも優しくて、おねえさん(メカちゃん)も優しくて、ほんとうにありがたいわ」
「そうですね。そういう人に出会えて、運がいいですね」
メカちゃんが返すと、ごろごろカートを引いていた手をぱっと離しておばあさんが立ち止まった。
胸の前で両手を合わせるしぐさが中学生みたいでキュートだ。
「そう! あなた、運がいいのよ。きっといいことがありますよ。
こんなに優しいんですから。ありがとうね」
一瞬メカちゃんは混乱する。
そうか、メカちゃんが主語を使わなかったからおばあさんに勘違いをさせたのか、と結論づけた。
運がいいのはおばあさんですよ。
行く先々で、親切な人にたまたま出会える運の持ち主です。
メカちゃんは心の声機能ONで思った。
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