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連載小説 ダイスケ、目が覚めたってよ(41)~(48)

今まで掲載した(41)~(48)をまとめたものになります。整理も兼ねて掲載したいと思います。

文字数としては(41)~(48)で8,000字を超えたのでいったんまとめました。塵も積もれば小説となるような気持ちで執筆しております。

駄文となりますが、読んでいただいた方にはお礼を伝えたいと思います。
本当にありがとうございます。

それでは引き続きよろしくお願いいたします。


(41)

俺はアカリを抱きしめたまま数秒経ち、俺から切り出した。

「ナナミが入院して大変だよ。世界線が移動してるのはわかるんだけど全部悪い方に移動してない?」

「そうよ。そういうストーリーだもの。もうやめたい?」

「ストーリー?ストーリーって何?誰かがこういう話を作ってるってこと?やめたいって言ったらやめられるの?」俺は怒気を含めながらアカリに尋ねた。

「まあ誰かが作ったっていうストーリーではないわ。ダイスケの人生そのものを経験してるのよ。いろいろな世界線のも含めてね。やめたければやめられるわ。元の世界へ戻れるわよ。だけど今のダイスケは元の世界の記憶はないから元の世界と言ってもわからないわね」

「今続けても元の世界には戻る方向になってるの?」

「全部終われば元の世界にもどれるわ。これはひとつの旅なの。ダイスケが人間の感情を味わうための旅に出てるのと同じことよ」

「旅……か……」俺はアカリにそう言われ『旅』というキーワードに引っかかりを覚えた。

「明日また世界線変わるからね」

「えっ」

「おやすみ」

アカリは話を俺としたくないかのように一方的におやすみを言った。

その瞬間、また、闇が来た。

つづく


(42)

リーン、リリリーン。

少しひんやりした空気の中、まああの例の森の入り口でうつ伏せになっていた。

またかと俺は思った。

今回の世界線の記憶を辿ってみた。もう慣れたものだ。

俺は愕然とした。

父も母もナナミも先月に他界していた。

俺を抜いて3人で旅行をしたときに交通事故に遭ったようだ。

ナナミは最後まで病院で頑張っていたが、「お兄ちゃん……」と俺に一言残して息を引き取った。

俺は絶望を感じた。

その喪失感は計り知れないものだった。

今まで一緒にいて普通にあって、当たり前にあると思っていたものが突如なくなる。

俺は恐怖を感じた。

一人で人生を歩んでいけるのだろうか。

今までは家族に迷惑をかけたりしたこともあった。家族に仕事を頼まれたりとかめんどくさいこともいろいろあった。

迷惑をかける相手もいないし、相手に迷惑をかけられることもない。

だけど、それらは迷惑じゃなくて支え合いなのだ。

それがなくなった。

だが、今はアカリがいる。前の世界線と同じようにナナミの部屋にヘビのアカリがいるはずだ。

俺はそう思い、家に急いだ。

つづく


(43)

この世界の俺は心なしか猫背だった。気持ちの問題なのか元々なのかはわからないが、歩くときに自然と下を向いてしまっている。

ひんやりとした風が頬をそろりとなでた。誰かが何かの合図を送ってきたかに感じて周りを見たが特に何もなく森が広がるばかりだった。この日も夜で空には星空も広がっている。今までは星は光害やらなんやらでめっきり見えなくなったと思っていた。よく見ると今日は星がきれいに良く見える。こんなにきれいな星空を見たのはいつぶりだろう。もしかしたら今まで星空を見れたけれども、ただ見ていなかっただけかもしれない。

今日は星がきれいだ。いいことがありそうだ。そう自分に暗示をかけていた。

心を落ち着かせようと自己暗示をかけて平静を保とうとしたが、そのようなことをしなくても不思議と今は心が穏やかになっていた。

さあ、家に戻ろう。

俺は歩みを進めた。

つづく


(44)

冷たい乾いた空気が俺の顔と喉をいじめている。肌はカサカサになり、喉はいがらっぽくなった。俺は空気を憎み、鬱屈とした厭世感に苛まれた。呼吸が苦しい。

もう少しで家に着く。とにかく早く家の中に入りたいというその一心だった。

家に着き、ドアの鍵もかけずにキッチンへ行きコップに水を入れ飲み干した。

「ふう。頼むぜ」俺が独り言をつぶやいたその時、居間の方からカタッと物音が聞こえた。サササッと衣擦れの音もかすかに聞こえた。

「だ、誰かいるのか」俺は恐る恐るうす暗い居間に向かって声をかけた。

「俺だよ、俺。マスダだよ」マスダが居間の中央からのそりと姿を現した。だが、その風貌は以前とは違っていた。ジーパンに赤いネルシャツでアメリカンっぽい出で立ちで、以前と違いこぎれいな感じだ。

「お前、なんで勝手に家に入ってるんだ?何しに来たんだ?」俺はマスダに詰め寄ろうとした。

「おっと、居間には一歩も足を踏み入れないでくれ。結界を張ってあるからな。まあ、入ろうとしても入れないけどな」

俺はその言葉を聞いたが、そんなのは関係なく居間に足を踏み入れる。だが、その瞬間、足のつま先を固いブロック塀にぶつけたような衝撃が来た。「いてっ」と思わず声を上げた。居間とキッチンの境目にそっと手を伸ばすと、完全に透明な壁のようなものがあった。

「なんだよ、これは」

「だから、結界だよ。俺以外の人物が入って来れないようにしてある」

「勝手に人の家の今に結界を張って何してるんだ?」

「それは今から説明してやるよ」とマスダは言い、床に置いてあった段ボール箱を取り出した。

つづく


(45)

「これを見ろ。何が入ってるかわかるか?」マスダはそう言うと段ボール箱を床に置き、ガムテープを取り中に手を入れた。

俺は段ボール箱の中に何が入ってるかはまるっきり見当が付いていなかった。

「一体何が入っているんだ?」

「まあ、見てな」マスダは中からヘビを取り出した。白いきれいなヘビだった。

「アカリか?」

「そうだ。やっと追いついたよ」

「追いついたってどういうことだ。お前はアカリを追いかけていたのか?」

「そうだ。世界線を飛んで追いかけてたんだよ。まあ、今のダイスケには話してもわからないだろうけどね」

「お前もアカリと同じような能力を持っているのか?アカリをどうするつもりだ?」

マスダがアカリに指を噛ませた。その瞬間、マスダの体が宙にふわっと浮いたかと思うと体全体から光を放ち、一瞬にして体が消えた。アカリはその場にぽとっと落ちた。マスダが貼ったと思われる結界もマスダがいなくなったと同時にかすかな光とかすかな音が聞こえ、結界もなくなっていた。

「アカリ!」俺はすぐにアカリに近づき拾い上げた。アカリを見ると口を開けていて、心なしか少し喜んでいるようにも見えた。

つづく


(46)

「アカリ、大丈夫か?2階に連れて行くからね」俺はアカリにそっと声をかけた。

アカリは口を開けたり閉じたりしながら少し動き俺の方をずっと見ていた。アカリを大事に抱えて2階へ行った。月の光が差し込んでいるナナミの部屋に入り、いつもアカリを入れていた箱の中にそっと入れた。

箱の中に入れたアカリを見ると、白い鱗が月の光を反射して青や緑や黄色に滑らかに輝き光を放っている。

「アカリ、ちょっと待ってて」

この世界の俺はハーブティーが好きだ。いつもミントティー、ルイボスティー、紅茶だったらアールグレイが多いが、今日はカモミールティーにした。アカリの白い鱗の反射した光が黄色でそれでカモミールを選んだのかもしれない。

大きめのマグカップにティーバッグを2つ入れお湯を注いで準備万端だ。

「アカリ、おまたせ」

アカリは箱の中で静かにとぐろを巻いていた。相変わらず美しく光を反射している。さっきよりも黄色味が多くなっているような気がして、カモミールティーを選んで正解だなと思った。

他の世界線では俺はハーブティーは一切飲んでいなかったが、記憶の層を辿るとこの世界線ではハーブティーしか飲んでいないようだ。

「ああ、うまい。結局これが一番落ち着く。アカリを見ながら飲むカモミールティーが一番幸せだよ」

この世界線の俺は元々アカリもいなかった。

俺は先月から一人で生活していたのだ。

アカリがいるだけで救われた気がした。

つづく


(47)

「アカリ、俺はもう寝るよ。今日は夢の中でアカリに会えるのかな」俺はアカリに向かって尋ねた。

アカリは体をキラキラと輝かせながらじっとこちらを見ているだけだった。

「じゃあね」俺は一言残し自分の部屋へ向かった。

俺の部屋は陰鬱だった。暗くどんよりしており汗のにおいかカビのにおいかわからないが、自分のにおいであっても耐えがたいにおいを時折感じた。

シーツも布団も洗濯をしておらず、替えてもいない。なんなら一度も干してもいない。

だが、俺はそれで良いと思っていた。もしかしたら良いも悪いも考えていなかったのかもしれない。

「よし」俺は軽く奮起してシャワーを浴び、寝る準備を整えた。

ベッドに腰掛け、目をつぶり、深呼吸をした。今まであった出来事を思い返し、深く考えた。この世界線の俺は深い悲しみを味わっていた。父と母とナナミが他界してから1ヶ月経ち精神はやっと落ち着いてきている。

3人の死亡を知ったとき、俺は嗚咽した。家族を失うという喪失感、それは鎌を持った黒い死神が俺の肩に付いているかのようだった。肩は重く体中に気持ち悪さが巡っていた。

今はそれら落ち着いてきたのだ。まあ、落ち着いてきただけでふと思い出すと喪失感にすぐに襲われる。

「今日はもう寝よう」俺は一人つぶやき、静かに布団に入った。

つづく


(48)

俺は横になり静かに目をつぶった。

眠ってアカリと話そう。俺はそう思った。

今は前の世界線のことはどうでも良くなっていた。

アカリと話すことだけを考えている。この世界線では俺は悲哀に包まれていた。

ふと横を見るとアカリが昔の姿で立っていた。

「あ、アカリ。びっくりしたよ」

「ダイスケ、あなたはもう眠りに落ちてるのよ」

「ああ、これは夢の中なんだね」

「そうよ。ダイスケは大丈夫?」

「俺は全然大丈夫だよ。むしろアカリは大丈夫?マスダに連れ去られたりとかしてたからね」

「私は大丈夫よ。基本的にヘビの状態の時は無敵だからね」

「無敵なんだね。不死身っていうことかな」

「不死身ではないんだけど、何かあれば反撃もできるし、仮に殺されてもすぐに転生できるのよ」

「そんなことができるんだね。まあ、だけどアカリに会えて良かったよ。ずっと会いたかったよ」

「私も会いたかったわ。だけど、今はもう時間がないわ。また、会いましょうね」

「えっ、早いね。まだ数分しか経ってないけど」

「これが限界なのよ。ダイスケ、またね」

「わかったよ。アカリ。またね」

また、闇が訪れた。

つづく


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