見出し画像

元気をもらったあの食事

彼女と付き合い始めて1ヶ月くらい経って、初めて手料理を作ってくれた。

「金華ハムが手に入ったわ。料理作ってあげる」

と言って、彼女は一人暮らししている僕の1Kのアパートに来た。

彼女はキッチンの扉を閉めたまま調理をしていた。僕はそれを覗いちゃいけないかなと思って、調理を覗かずにずっと待っていた。

「はい。できたわ」

そう言って彼女は料理を持ってきた。

「これは何?」僕は初めて目にする料理だったので質問をした。

「これはチャーハンと味噌汁よ」

「金華ハムのチャーハン?」

「そうね。あと、金華ハムの味噌汁よ」

金華ハムのチャーハンは炒めてあるような雰囲気はまるでなかった。白いごはんに2cm角の金華ハムを混ぜ込んであるのだ。卵、ネギ、調味料も使っている気配がない。ただ単に混ぜ込んであるようにしか見えないのだ。

「じゃあ、まず味噌汁からいただくよ」

そう言って僕は味噌汁をひとくち飲んだ。味は普通だがちょっと香りが違う。具(2cm角の金華ハム)を一つつまんで口に運んだ。「ふーむ」僕は何も言えなかった。本来であれば手料理を初めて作ってくれた彼女に対して、嘘でも美味しいと言ってあげるべきだったのだろう。だが、僕も若さ故かそれを言えなかった。

結論としては金華ハムと味噌汁は合わない。それは不味いと言っても良いだろう。

そして、僕は次に金華ハムのチャーハンに手を伸ばした。

おそらくだが、それは炒まっていない。炒めていないものをチャーハンと呼んで良いのか疑問が残るが、彼女がそれをチャーハンと呼んでいればチャーハンなのだろう。本人がチャーハンと言っているのであれば、決してそれは混ぜごはんではないのだ。

「ふーむ」その混ぜごはんの金華ハムは固かった。

まあ、そのとき、彼女は僕の胃袋は掴まなかった。だが、とても嬉しかった。

おそらく彼女は調理をまるっきりやったことがないのだろう。そして、高級食材を使えば美味しい料理ができるだろうと考え、それを実行に移し、僕のために作ってくれたのだ。

僕の中で、彼女に対する気持ちが固くなった。そう金華ハムのように。

そして、僕は彼女と結婚した。


(おわり)



(注)金華ハムはちゃんと調理したら美味しいものです


#元気をもらったあの食事

サポートお願いいたします!執筆活動費にさせていただきます。