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悲喜こもごも7 〜シネマ法話『マーティン・エデン』より〜

『マーティン エデン』

2019年製作/イタリア
監督:ピエトロ・マルチェッロ
原作者:ジャック・ロンドン

 アメリカ人作家ジャック・ロンドンの自伝的小説を、アメリカからイタリアのナポリに舞台を移して映画化されたものです。
原作は『マーティン・イーデン』として日本でも翻訳が出版されていました。

 
 主人公はイタリアのナポリの労働者地区で生まれ育った貧しい船乗りのマーティンです。ブルジョワの娘エレナに恋をして、彼女の気を引くことをきっかけに、文学の世界に目覚めました。そして彼は家柄の違う恋を乗り越えるため作家を目指しました。独学で学び小説を書き続けていましたが、彼のとったある行動により、周囲は大きく変化します。その後、マーティンは作家として有名になり目標を達成したのですが、成功者になった彼に、手のひらを返して集まってくる人達への感情は複雑なものでした。彼は幸せになろうと力強くまっすぐに進んだのですが、思い通りにならない苦しみはマーティンに何をもたらしたのでしょうか。

「一切皆苦」

 お釈迦様は、「一切皆苦」の真理を説かれました。世の中は思い通りにならない「苦」で満ち溢れているということです。しかし私たちは、自分の頑張り次第で自分を含めた世の中のことをなんでも思い通りに出来ると思っている節があります。思い通りにならない事に直面した時、どうにかしようと右往左往しますよね。
 
 最近、私は体調を崩し入院しました。今まで大きな怪我や病気をしたことがなく、まさか自分がそんなことになるとは思っていませんでした。頭の中を色々と不安が過り、睡眠不足になりました。
 
その後、何とか快方に向かい、鏡を見た時に私は驚きました。

顔のシワが増えていたのです。

 今回の出来事で心身の疲れが出たのでしょうか、慌ててクリームを塗ったにもかかわらず、効果は一時的で、時間が経つとまたシワが目立ってしまいます。どうしたものかと途方に暮れているとき、「これこそが生老病死の現実であって、自分自身の事でさえ思い通りにならない“苦”である」ということに気づかされました。このことに気付かなければきっと高額なクリームを購入していたかもしれません。
 
 そして、思い通りにならない事も何とか自分の思い通りにしようと右往左往するこの私を目当てとして、阿弥陀様はご一緒下さっているのだとあらためて気づかせていただいたことです。

 主演のルカ・マリネッリは本作で、ヴェネツイア国際映画祭で、最優秀男優賞を受賞しました。彼の迫真の「苦悩」の演技にすっかり引き込まれて見入ってしまいました。ぜひご覧ください。                                

合掌


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