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【物語】星のごちそうタマゴ #10 試作

 オヤッサン達は、昨日”おもてなし”を受けた店に来ていた。厨房は広く、見たことのない調理機器がずらりと並んでいる。イセイジンが袋から収穫物を取り出すと、どれも元の大きさに戻っていった。
「さて、イセイジンさんよ、この食材達の取り扱い説明をよろしく頼むよ!」
 オヤッサンはやるぞという感じで腕まくりをして言った。
「わかりません。昨日お話しした通り、私達は料理を食べません。その食材も栄養成分はわかりますが、最終的には乾燥させた物を、いくつかの食材と合わせて配合しサプリメントとして摂取するだけですので、適した調理方法や味はよくわからないのです。だから、楽しみにしているんです。オヤッサンがどんな風に変化させるかを。」
「本当に一からだな・・・こりゃ大変な作業だ。時間もかかるし・・・」
「時間の事は気にしないでください。この厨房の中は、先ほど1週間前の空間に設定しておきました。必要でしたら、さらにさかのぼることも可能です。それから、厨房機器ですが、実は私たちが通常使っているものではなく、単に地球での厨房機器をまねて作ったものです。もちろん機能はちゃんとしているはずです。私には良くわかりませんが、オヤッサンならきっと使いこなせるでしょう。他にも地球上の物をまねた細かい調理用具もありますので、自由に使ってみてください。ちなみに、今日の食材には毒的なものはありませんので、生でも加熱しても食べることはできます。どうぞ、思う存分試してみてください。」
 そう言うと、後ろを振り返り、昨日の大きなイセイジンを呼んだ。
「よかったら彼をアシスタントに。」
「面白くなってきたわね!やるっきゃないって感じ。私も手伝うから、何でも言ってね!」
「よし!やるか!」
オヤッサンは再度自分を奮い立たせるように、大きめの声で言った。

「まずは、味の確認だ。味がわからないことには何もはじまらんからな。」
 オヤッサンはまず茶色のブヨブヨを持ち上げ、大きな異星人に尋ねた。
「これは何と呼んでいるんだ?」
「タンパク質の塊・・・とでも言いましょうか。特にこれといって名称は無いのですが・・・とにかく、成分的にはタンパク質がほとんどです。」
 オヤッサンは苦笑いをしながら、ブヨブヨに包丁を入れた。薄く小さめにスライスすると、一枚をつまんで口の中へ入れた。娘も横から手を出し一枚もらうと、すぐに口の中へ入れた。
「おいしい!肉っぽい!」
「そうだな、何かの肉のたたきのような、馬刺しのような・・・調味料があればさらにおいしくなるぞ。次は焼いてみよう。」
 オヤッサンは、やっとヒットした食材に少し嬉しくなった。
 イセイジンが言ったように、よく見ると調理機器は、なんとなくコンロだったり、なんとなくオーブンだったりと直感的に使う事が出来た。しかも、圧倒的に機器の精度が良く、どれもムラなく仕上がるので、オヤッサンのテンションがさらに上がった。
「焼きもいけるね。相当いい肉の味がする。よし次はクラゲ!」
 そう言うと、水の中で捕獲した透明の物体をまな板の上に置いた。ゆっくりと包丁を入れた。すると、みるみるうちに透明な体は白くなった。薄く切った身をペロリと口の中に入れた。
「これは魚っぽいな。しかも生臭くない。」
「なんか上品な味。高級な刺身を食べてるみたい!」
 それから、他の食材も次々と味見をしていった。どれも見た目からは想像のつかない味をしているが、それらは不思議とどこかで食べたことのある、地球上の食材の味に遠からずな味だった。
「ところで、野菜のようなものは無いのかね?」
 オヤッサンが大きなイセイジンに尋ねると、それならと奥の部屋へ案内してくれた。ボタンを押してドアを開けると中は、野菜や果物に似た植物が生い茂っており、畑のような空間になっていた。地面に土は無く、どれも水耕栽培になっている。電気のように天井に設置されているものは、おそらく人工太陽なのか、まるで屋内型ビニールハウスのようである。
「ほぉーこりゃまた立派な畑だ。」
 オヤッサンと娘が感動していると、大きな異星人は籠を差し出した。
「ご自由に試してください。特別な培養液を使っているので、たくさん採っても、数日で食べられる大きさに成長しますから。」
「すごーい!ほんと、この星ってサイコーね!」
 娘は大きなイセイジンに笑みを向けると、駆け足で畑に入っていった。オヤッサンは、その姿を見て、ふと娘が子供の頃に家族で出かけた果樹園を思い出した。初めてのさくらんぼ狩りではしゃいだ娘の第一声もたしかそんな風だった。一人暮らしだったオヤッサンにとって、ひょんなことではあるが、娘とこのような生活をしているのが夢のように感じていた。野菜を一通り味見し終わると、さっそく色んな料理を試作してみた。

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