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[第5回]子育てひろばには行くものの…… 話しかけてほしくないパパたち

こちらの記事は,『チャイルドヘルス2023年5月号』に掲載されたものです.


【はじめに】

『チャイルドヘルス』は,子どもの保健と育児を支援する専門誌として,毎号,子どもにかかわる専門職の皆さんに役立つ情報をお届けしています.
本誌の2023年1~12月(26巻1~12号)にて,連載「奮闘するパパ,揺れるパパ」をご執筆いただいた渡邊先生は,産後ヘルパーの会社を運営されています.このほか,マタニティ夫婦向け講座の「両親学級」の講師を務められたり,男性育児に関する書籍を多数出版されたりするなど,幅広くご活躍されています.
 子育ては夫婦で協力してするもの,ということは一般的になりつつあるいま,子育てを頑張りたい父親も増えています。しかしその際, 世間にはびこる「性別役割分業」「子育て神話」などに戸惑う方も少なくありません。そんな迷える父親にどのように向き合っていったら よいのでしょうか?
 渡邊先生に事例を紹介いただきながら,一緒に考えましょう!

【渡邊大地先生 プロフィール】

株式会社アイナロハ代表取締役。札幌市立大学看護学部助産学専攻課程非 常勤講師。1980 年,北海道札幌市生まれ。産婦人科や自治体などで産前産後の夫婦向けの両親学級,ワークショップを実施。受講者は累計 2 万人を超える。『産後が始まった!』(カドカワ,2014),『ワタナベダイチ式!両親学級のつくり方』(医学書院,2019)ほか著書多数。

 子育て世代からよく挙がるパパの戸惑いエピソードを紹介しつつ,現場でそれにどう向き合っていくべきかを考えるコーナーです。
 今月は,子育てひろばでの対応に戸惑ったパパについて考えてみたいと思います。

子育てひろばを利用するパパが増えた

 起業して 12 年になります。その間に,子育ての状況は大きく変わったなと感じます。
 十年前は,私の周りでは保育園の送り迎えをするパパをほとんど見かけませんでした。私が送り迎え担当になったとたん,保育士さんから「お父さん,お仕事は……」と尋ねられ,言葉にはされませんでしたが,おそらく(求職中,または休職中ですか?)と聞きたいんだろうなというニュアンスを感じとりました。
 その後,朝の送りを担当するパパが増え始め,コロナ禍以降はお迎えをするパパもよく見かけるようになりました。産院の両親学級に積極的に参加するパパが増えた,という話は以前書いたとおりです。そして,今回話題にしたいのは,子育てひろばに子どもを連れてくるパパも増えた,という話です。
 私は,マタニティや子育て初期の夫婦向けの講座講師としてよばれることが多く,主催者さんはおもに,産院,自治体(○○市子育て支援課など),そして子育てひろばです。
 十年前の子育てひろばといえば,ママと子どもばかりで,ときどき所在無げなパパがぽつんといたり,パパはお迎えに訪れるだけ,というのがよくある風景でした。
 それが最近では,「妻を休ませるために子どもを連れて来た」とか「妻が仕事なので,子どもと遊びに来た」というパパが珍しくなくなりました。ひろばのスタッフ さんに聞くと,パパのひろばでの過ごし方も変わってきているようです。以前は,子どもを連れてきてもパパは スマホを見ていて,子どもが転びそうになっても気づかない,というようなことがよくあったそうですが,最近 は子どもと一緒に遊ぶパパのほうが多いそうです。
 ママも嬉しい,パパも楽しい,ひろばのスタッフさんも喜ばしい,とみんな笑顔に……なったかと思いきや, どうやらスタッフさんたちのなかには複雑な思いを抱える方もいるようです。

ママ友とパパ友の目的は同じ?

 私は札幌市立大学の看護学部で非常勤講師をしており,助産師の国試をめざす学生向けの授業をしています。助産学の教科書には「母親学級の役割の一つに,ママ友作りがある」というようなことが書かれています。母親学級で近くの席になった女性同士「予定日はいつですか?」「この近くに住んでいるんですか?」といったコミュニケーションを図りママ友を作るのは,皆さんも想像がつくと思います。
 ただ,支援者のなかには「パパにもパパ友が必要だ」と考えている人がいます。そうすると,せっかく子育て ひろばにパパが来ているんだから,パパ友を作ってあげ ようと考えたりします。ママ達のなかにも,「ママ友と 同じように,パパにはパパ友がいたほうがいい」と考えて,その目的で子育てひろばに夫を送り出す方もいるそうです。
 私はかつて,ある自治体の子育て支援課から「パパ友作りセミナーをしてほしい」という依頼をいただいたこともあります。世の中には「パパ友を作らせよう」とする思惑がひしめいています(笑)。この考えは,なかなか曲者です。
 そもそも,パパたちは「パパ友」を作りたいと思っているんでしょうか。 
 個人差はあるので,一概にはいえないのですが,私個人として周囲のパパたちをみた感じと,仕事を通してパパたちの意見を聞いたところを総合すると,おおむね,「思っていない」というところかなと感じます。
 ママたちは,少しでも子育てに役立つ情報を得たいとか,子育ての悩みに共感できる相手がほしい,という目的でママ友を作ることが多いですよね。では,そういった目的についてパパはどう考えているかというと,下のイラストにあるように,「解決」の道のりが違うので,結果的にパパ友を作る理由がない,ということになりがちです。


 これがよいか悪いか,という話ではなく,そもそもパパとママとで子育てに対する考え方が違うので,ママと同じようにパパにアプローチすることが有効ではないケースがある,ということです。

パパ友作りを進めようとすると……

 子育てひろばのスタッフさんにこんな話を聞いたことがあります。
「ひろばにパパの利用者が増えてきたので,パパ友を作ってあげようと思って,パパたちを引きあわせました。ですが,まったく話が盛り上がらなかったようで, 結局すぐに離れてしまったのでガッカリした」
「近くで子どもを遊ばせているパパたちが一言二言言葉を交わしていたようなので,思い切ってそばに行き,
『LINE 交換したらどうですか?』と声をかけたが,変な空気になってしまい,LINE 交換はしなかったようだ」
 パパにどうアプローチしたらいいのか? と悩むスタッフさんは少なくないようです。
 どちらにせよ,今の例に出てきたパパたちにとって, 今後も情報交換をするようなパパ友をここで作るという考えはなかった,ということですよね。 
 このような積極的なパパ友勧誘をひろばのスタッフさんがするのは,慎重になったほうがいいと思うのです。もちろん,パパとの接点を作るための話しかけには大賛成です。ひろばのスタッフがパパや家族の味方であるということを知ってもらうためにも,パパと仲良くなったほうがいいですし,パパからたくさん情報をもらうことで,スタッフさんも学びや経験につながりますよね。
 基本的には,このような「ひろばスタッフ」―「利用するパパ」というつながりがしっかりできていればよいのではないでしょうか。そこで信頼関係ができれば,パパ友を作りたいパパがみえてきますので,そのとき初めてつなげばいいわけです。そのような信頼関係がないうちから,パパたちをひとくくりにしてつなげようとしても,抵抗感があるというものです。


 1つめのイラストにもあるとおり,男性のなかに は「悩みは自分のなかで消化したい。一人で考えたい」という人もいます(私もそうです)。そういうパパは,子どもと遊んでいても,頭のどこかで,仕事や子育てのこ とをボンヤリ考えていたりするものです。それでいいん です。そういう時間が必要なんですから。
 ひろばのスタッフさん主導でパパ友を作る流れにもっていくのは,よく状況を見極めながら対応してほしいなと思います。パパが必ずしも「孤独感にさいなまれている」とは限りません。

 本連載では,皆さんからの「こんな状況のパパとのかかわりに悩んでいる」という声を求めています。現場の悩みを教えてくださいね。

【おわりに】

今回の記事は,いかがでしたでしょうか?
次回もどうぞお楽しみに!

※雑誌『チャイルドヘルス』では、他にも子どもの健康や育児に役立つ情報を掲載しております。
また、kindle、kobo、kinoppy、hontoの各電子書店で、一部の号を電子書籍として販売しております。そちらもぜひご覧ください。


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