最高の1日の記憶
20代半ばに「クローン病」という病気の疑いをかけられたことがある。
クローン病とは、原因不明で難病指定されている疾患で、普通に生活していると腸(および消化器系)の炎症が頻発するため、食事は油分がなく、消化器系に優しいものを取る必要があり、重症化していくと鼻からチューブを入れて胃に直接栄養を送り込むような(患者さんは鼻チューといったりする)状態にまでなったりする。
つまりは、治らない厄介な病気で、発症する度に重症化していき、いずれオペにもなっていく可能性も高いような疾患。そういう疾患の所見が検査の結果見られたのだ。
この病気の疑いを私に告知したのは、当時結婚を間近に控えていた彼女である。私は彼女が務める病院で入院していたのだ。彼女は1時間程時間をかけて丁寧に、病気のこと、病気が確定した場合に発生する症状、予想される経過、日々の留意と制限事項、治療方法、経済的なリスクといったことを説明してくれた。
夕方の病院のロビーは私と彼女しかいない。長い1時間だった。
一通りの彼女の説明を聞いた後、しばらくして私は言った。
「別れよう。迷惑をかけることになる」
彼女は笑って即答した。
「病気ぐらいで別れるわけないでしょ。生きてりゃ誰でもそのうち病気になるのよ。一緒に頑張ろう」
「そうか」
「そうよ」
陽の落ちたロビーで、私達は笑った。最高に不安で最高に幸せな時間だった。
数ヶ月後、彼女は私の妻になった。
※ 現在、私は肉でもなんでもバンバン食べています。クローン病疑いは幸いなことに疑いに過ぎなかったようです。その代わりといっちゃ何ですが、うつ病(反復性うつ病性障害)でめちゃ迷惑かけてますが(汗
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