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日曜討論2024.03.17

日曜討論で日本経済に特に重要だと思われる内容(片岡剛士さんのご発言)をピックアップしてまとめました。

日曜討論:日本経済はいま 成長に何が必要か (2024年3月17日)
ご出演者 ※敬称略
齋藤 健 経済産業大臣
片岡 剛士 PwCコンサルティング チーフエコノミスト
黒澤 元国 埼玉県商工会議所連合会広域指導員
首藤 若菜 立教大学教授
野口 悠紀雄 一橋大学名誉教授

大事なポイント

足下の株高や賃上げ率を見て、拙速な緊縮策を行うべきではない、というのが片岡剛士さんのご主張だ、と僕自身は受け止めました。
円安を悪く言う方もおられるようですが、デフレ脱却→円安→日本経済の改善と続いている、と僕自身は受け止めました。

片岡剛士さん等、PwCレポートなどの参考情報

Monthly Economist Report:月次マクロ経済レポート
Weekly Macro Economic Insights:週次マクロ経済レポート
Daily Macro Economic Insights:日次マクロ経済レポート
 片岡剛士さんの著者ページ/ Amazon https://amzn.to/3Prp02J


片岡剛士さんのご発言

なお、括弧内や太字、画像は、筆者によるものです。

(5分頃、現在の経済状況について問われて)

私自身はですね、去年来年からの経済の変化というのは、これは30年ぶりの動きである、というふうに見ています。
特に物価、それから株価、そして、設備投資や雇用環境ですね。こういったようなところというのは、いずれも30年ぶりの改善を示していまして、これは、ある意味、30年来の長期停滞から、ようやく、経済が(長期停滞を)乗り越えつつあるんじないかと、そういった所を示していると思うんですね。
ただ、先程のVTRにもありましたけれども、一般の方々の実感が無いのはですね、所得の拡大とそれから消費の動きというのが、これが未だに非常に弱いという状況にありまして、要は、所得の拡大から需要の拡大を起点にして物価が上昇し、そのことで実体経済が改善していって、また所得の拡大、物価の上昇が起こると。こういうサイクルがまだ日本経済にはですね、未だに
浸透していない
、と。そういった状況が現状なんではないかと思っています。

(15分頃 物価上昇に追いつかない賃金上昇について問われて)

もともと、ここ20数年来ですね、そもそも日本の賃金自体が労働生産性の伸びほど伸びていなかったので、ですから、これは逆に言うと企業側からするとですね、労働や資本投資もそうですけれども、色んな形でお金を使ってこなかった、という所ですね。
なので、その結果、潜在成長率とか、そういったものが停滞したりとか、長期停滞の一つの要因にもなっていた、と思うんです。
こうした要因が昨今の物価上昇を起点にしながらですね、起こりつつある、ということで、ただ、物価上昇についても、もともと食料品やエネルギー価格の上昇といった費用が上がることで、物価に転嫁せざるを得ない、そういった要素の物価上昇でして、景気が良くなったというところで物価が上がっているという訳ではない、わけですよね。こうした対応ということで、企業は今、賃上げを進めて来ている訳ですけれども、こうした動き自体はですね、望ましい動きだと思いますし、ようやく日本経済が、ここ20〜30年来のですね、価格が全く動かない状況から価格を変化させることで、企業活動を変えたいとか、我々自身も働き方を具体的に考えたりとか、そういったキッカケになるような状況になりつつあるのではないかと。で、こうした状況をより前に進めて、大きな変化を作っていく、ということが現状非常に大事なんじゃないかな、と。こんなふうに見ています。

(17分過ぎ 生産性を上げることの重要性に加え、賃金を上げることの重要性について問われて)

賃金も生産性も上げることは大事だと思います。ただ、ここ20〜30年の動きを見るとですね、デフレの状況では労働生産性は決して上がらない、ということが明らかなので、ですから、状況を変えていく必要があるんだと思いますね。
で、賃上げが進むと、そのことによって、家計の所得も段々増えてきます。
この賃上げが去年もそうだった訳なんですけれども、今年も大方のエコノミストの想定外のですね、高い賃上げ率に現状なりつつあるのかな、と見ているんですけれども、これが来年も再来年もずっと続くということになりますと、そうすると、所得が安定的に増えていくんだな、というふうに家計の方も期待を持ちますので、そうなってくると消費の改善も段々進んでくるんじゃないかと、そう期待しています
(メモ:高い賃上げ率は、2024年の春闘一次速報によると、大企業5.3%、中小企業4.42%、非正規6.75%、平均5.28% 5%超は1991年以来、33年ぶり、とのこと。岸田文雄総理大臣のツイート画像参照)

画像出典:岸田文雄総理大臣のX(旧Twitter)のポスト(旧ツイート)

(22分過ぎ、日米の金融政策、日銀の金融政策転換について問われて)

明日以降の(金融政策決定)会合では、マイナス金利を解除する可能性が、現状非常に高まっていると思いますけれども、私自身は3点の理由から、時期尚早だとみています。

1つは、さきほど首藤さんが仰っていたように、現状の春闘の賃上げ率をみて、中堅・中小企業の動向も踏まえてですね、賃上げがしっかり起こっている、そういうふうに見るのは判断が未だ早いと思うんですよね。それがまず一点。

それから、たとえば、最近出ていたGDPの統計もそうなんですけれども、(2023年)10-12月期のGDP速報値(二次速報)、プラスになりましたけれでも、ただ、全体としてやはり、(2023年)7-9月期以降ずっと停滞が続いていて、今年の1-3月期もおそらくGDPとしてはマイナスになりそうだと。非常に需要の基調が弱い、ということです。

あと、ここでも議論されているようにですね、非常に好循環かというと、まだ微妙な情勢ですよね。やはり、日銀が政策転換する、ということは、やはりその、国民の皆さんがある意味、金利を上げても問題が無い、というふうに多くの方が感じるような状況でなければ、やはりその政策転換を行うというのは難しいと思いますし、実際、現実的に不可能なのではないか、こういうふうに思います。
(メモ:賃上げ率と所定内給与などの賃金上昇とに乖離があるのは、先日の当note記事で取り上げた通りです)

図表出典:筆者作図

(24分過ぎ、野口悠紀雄氏の利上げ推しの指摘、金融政策の余地を残す観点も必要だろう、と問われて)

デフレから完全に脱却してインフレが進むような、普通の国で普通に起こっているような状況になれば、これは金利は必然的に上がってくる、と思うんですね。ただ、今現状、国債の10年物の利回りを見ても、0.7~0.8%くらいで、日銀は1%くらいまで金利を上げても良いよ、と言っているんですけれども、マーケット自体が、そこまで金利を上げられるような現状状況になってないんですよね。ですから、こうした状況のもとで、金利を上げましょうという話をやってしまうとですね、そうすると、また景気が悪くなってしまう、という状況になりますので、これは20~30年来ですね、日本の政治がずっと繰り返してきた早すぎる引締めによって、再び経済が停滞する、と、こういうことの繰り返しになるんではないか、と。ですから、落ち着きどころという意味では、野口先生と同じ考え方なんですけれども、現状の足下の状況を見ると、まだちょっと(金利を上げるのは)早いのかな、と。

(30分過ぎ、アメリカの金融政策について問われ)

その前に、さきほど、黒沢さん仰っていた話で、付け加えて申し上げると、現状ですね、家計の方を含めて変動ローンで借りている方が多いんですよね。ですから、そうなりますと、今般、利上げをする、という話がより近い将来ですね、どんどん起こってくる、ということになると、そのことで悪影響を受ける方が、従来の利上げ局面よりも、日本の場合は大きくなるんではないか、そういう懸念があります。ですから、逆に言えば、仮にですけれども、金利を引き上げていこうとするのであれば、充分なアナウンス、こういう方針で引き上げていくというようなことを日銀はしっかり、国民の方に明示していくことが大事になるのかな、と思います。

あと、FRBの動向については、アメリカ経済が比較的力強い状況の中で、昨今、良い指標も悪い指標も混在している状況です
ので、パウエルさんは利下げに言及はしているんですけれども、今後、たとえば、トランプ政権が誕生するような状況になれば、おそらく、アメリカに対しては需要の拡大圧力というものがかかると思いますので、そうなってくるとインフレが拡大して、逆にFRBは利上げをまたせざるを得なくなる、とか、そういった可能性も充分あり得ると思います。なので、この辺りは決め打ちをせずに、考える必要があるのかな、というふうに見ています。

(32分過ぎ、野口悠紀雄氏が円安が日本の生産性低下を招いたかのような発言をうけて)

今の点なんですが、私自身は90年代以降ですね、過度な円高が進んだことがデフレを生み、長期停滞を生み、日本経済の停滞につながった、と思うんですね。さきほどの日経平均株価もそうなんですけれども、バブル崩壊以降ですね、ずっと足下まで、株価が比較的停滞を続けてですね、上下はするのだけれども、上昇基調にはならなかった、と。上昇基調になったのは2013年以降なんですけれども、これは、アベノミクスが開始した以降で、この時から過度な円高が解消されて、購買力平価と言われている、いわゆる基準となっている為替レートよりも円安の状況が持続するようになった、と。ですから、こうした状況というのは、私自身、続けていくことが大事なんではないかと見ています。
(メモ:購買力平価と為替レートの比較は下図参照)

図表出典: https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/new_wp/new_wp070/new_wp066.pdf

(44分過ぎ、中小企業の人手不足・生産性向上など問われて)

ご質問もそうなんですけれども、やっぱり、どうやって中小企業が人手不足下の中、生産性を上げられるのか、こういう疑問が出てきたこと自体が私自身良いことだな、と思うんですね。というのは、これまで中堅・中小企業が、どうやって生産性を上げるかといった時にですね、景気が悪過ぎてですね、人手不足も何も需要拡大も起こらずですね、はたまたブラック企業とかですね、そういったような話が言われるような有様だったわけですね。で、やはりその物価がどんどん上がって行く、値段が上がっていく、まあ、こういうようなことになると、同じようなサービスをずっと提供し続けていると、企業としてはですね、お客さんに対して値段を上げる理由というのは納得出来なくなる、納得させることは出来なくなる訳ですよね。
だから、そうすると工夫が必要になってくる、と。
人手不足にしても、やはりその現状に居る方々にですね、どうやって新しいサービスを提供するか、と。こういうことを考える時に、やはり、初めて工夫が出てくる、と。ですから、こうした工夫が出来るような環境に、現状まあ、政府・日銀の政策の影響もあってですね、そういう環境変化が起こってきている、ということは、まず第一かな、と思います。で、これから、日本企業は大企業も中堅企業も含めてですね、一つ課題を迎えるのかと思っていましてですね、私自身は特に大企業に関しては日本経済に対する期待をしっかり持っていただきたい。こういうふうに思っています。

(49分過ぎ、成長へ向けた政府の半導体に関する政策を問われて)

サプライチェーン等々考えてもですね、やはりその特定の国々に過度に依存するような状況というのは、これは好ましくない、というのは、これまでのですね、経験から明らかなんだと思うんです。ですから、日本の企業、日本の国内に半導体の工場が出来てですね、それがある意味、日本の製造業の一つの選択肢になり得る、と。こういう状況自体、私自身望ましいと思います。それから、大きな流れということで申し上げれば、やはり、人手不足が続いている中でですね、どうやってそれを解消していくのか、この答えというのは、設備投資を進めるしかない、ということだと思うんです。で、これは例えばGXもそうですし、様々な情報化に関する投資も必要だと。それからインフラ投資も含めてですね、日本企業が国内でビジネスをしやすくするための環境整備というのを、これを色んな分野で大々的に進めていくこと、ロボットの活用ですとかですね、こうおうものはもっとやるべきだと思うし、政府としてもそういった方針を後押ししている、と。そういう認識を私は持ってます。

(55分過ぎ、GXを成長という観点から問われて)

企業の成長にとってサステナビリティとか、グリーン・トランス・フォーメーションみたいな話というのは、これ、必須になってきていると思うんです。
で、やはり、これまでも日本企業は環境対応型の事業とか。そういったこともやってきていると思うんですけれども、今般、情勢が変わってきているのは、一企業だけで中々、目標を達成できない、ということだと思うんですね。
海外の企業とか、サプライチェーン等々も含めて、やっぱり協力していきながらやる、と。で、サーキュラー・エコノミーみたいなものをですね、促進するような、そういった形での、自然との共生とか、そういったところを意図しながら、
企業として発展させていく、ということが大事だと思います。
で、国内経済に関して言うと、やはり、そういった変化の起点になっているのは、私は円安なんだと思うんですね。例えば、TSMCの工場とか、そういったものが入って来ているのも、これも円安が一つの起点になっていますし、日本経済、ずーっとですね、国内で物価が動かない状況だったわけですから、これを変えていくには海外のインパクトみたいなものが、どうしても必要で。そうした動きというのが九州にかぎらず、色んな地域で、データセンターへの投資含めて起こって来ている、というのが、これが現状かな、と思います。

(59分手前、日本経済に必要なことを問われて)

私は最大大事なのはですね、デフレから完全に脱却することだと思います。ですから、それまでですね、政府・日銀含めて、変に緊縮的な政策をうたないことにするのが大事、だと思います。

まとめ

片岡剛士さんのご主張通り、拙速な緊縮策の実施は避けられるべきだと思いますが、3月の日銀の金融政策決定会合は、どのようになるか注視したいと思います。

おまけ

以下は、有料とします。
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2013年前にどのような議論があったかを、残しておきます。

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