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もし10億円があったら

「もし10億円があったらどうします?」

 男は唐突に尋ねてきた。

「宝くじでも買ったんですか?」

 私はそれを軽く受け流したが、男は話を続けている。

「よく、1億円があたったら、なんて話がありますよね。するとまあ豪遊する、家を建てる、貯金する、様々な答えが返ってくるんですけどどれも楽しそうというか、誰がみてもまあそうだよね、という回答しか帰ってこないんですよね。」

「まあ、普通に社会生活をすれば願望も似たり寄ったりになるんじゃないですか。」

「いや、私が思うに、それは1億円が意外と少ないからだと思うんですよね。少なくとも、1億円っぽちじゃ何かどでかいことを1個やればなくなってしまうんですよ。」

「まあ、1個どでかいことができれば十分なんじゃないですか。」

「何を言っているんですか。この、もし一億円があったら、ていうのは夢の話をしましょう、という趣旨の話なのにみんなの回答は全部凝り固まった、というか無難で保守的すぎるんですよ。小学生の頃はなんて答えていたと思います?ケーキを毎日食べる、豪邸を建てる、サツマイモを1万個買う...」

「確かにそうですね。今となってはケーキなんて半年に一遍くらいで十分ですし、1億円じゃ建売住宅が都内では限界でしょうし、サツマイモなんて絶対に腐らすだけですからね。確かに私たちの回答に比べて小学生の回答は荒唐無稽というか、アグレッシブというか、活力にあふれてますね。」

「それは小学生にとって1億という数字はとにかく大きくて、無量大数に等しい数字だったからだと思うんです。ですから、社会人にもこういった質問はアグレッシブに答えてほしいんですよ。」

「いやぁ、でもやっぱり10億円でも大部分は豪遊、投資、貯金になると思いますよ。まあ、1億円くらいドブに捨てたみたいな使い方もしてみたいけどね。」

「そう!このドブに捨てたみたいな使い方を聞きたいんですよ!!」

「そうだな、やっぱりぼったくりバーでばらまきたいね。」

「確かに50万を請求されて周りがビビる中で、ポッと1億くらい出したら店員も含めて度肝をぬかれますからね。ぼったくりバーの店員を正攻法で出し抜きたい、精神的に優位に立ちたい、と思ったらそれしかないですものね。」

「あなたは何かありますか?」

「そうですね。北海道にある馬鹿でかい更地を購入します。周りには家もなければ森林もありません。そこに一軒家を建てます。それでキッチンとか壁紙とかにもこだわります。」

「普通の使い方ですね。」

「それで、それを燃やすんです。」

「え?!」

「自分の建造物を燃やしても、公共の危険にならなければ何の問題もないですからね。火災保険にも入るつもりはありませんし、そこに抵当権もローンもついていません。まあ燃えかすの処理方法とかで違法になることもあるのでそのあたりに気を遣いたいですね。」

「いや、法律上の適法性ではなく、なぜそんなことを。」

「この頑張って作った、社会的に見ても価値がある物を無に帰す、完全な贅沢じゃないですか。」    

「たしかにそうかもしれませんね。でもそんな人目につかないところでやっても楽しいですか。」

「じゃあ、あなたは衆人環視の下で完全なる無駄遣い、完璧なる贅沢が適法にできるというのですか。」

「渋谷とか新宿、心斎橋とかにでっかい広告あるでしょう。」

「ありますね。」

「あそこを借りて広告を出す、というのにはやはり莫大なお金がかかるわけですよ。そこに知らないおじさんの写真とその人にとって最近いいことを書くんですよ。」

「無意味ですね。いい具合に無駄ですね。ダイナミックさもあって。でも、なんかそれはそれでAC的な広告っぽくなりません?」

「確かにそうですね。それじゃあ、こういうのはどうでしょう。『ガルバルンド』。」

「なんです?そのガルバルンドというのは。」

「私にもわかりません。試しにガルバルンドについてGoogle検索してください。

『ガルバルンド に一致する情報は見つかりませんでした。

検索のヒント:

キーワードに誤字・脱字がないか確認します。
別のキーワードを試してみます。
もっと一般的なキーワードに変えてみます。』

というのと一緒によくわからない釣り人の雪男みたいなマスコットが出てきますから。」

「まあこのnoteを出せばそんな結果にはならなくなってしまいますけどね。」

「急にメタ的な話をするのはやめてください。まあでもこのnoteがガルバルンドという単語の出自となるのでいいじゃないですか。」

「まあ明らかにガンバルンバというCMの単語に影響を受けてると思うのですが、またなんでそんな単語が出てきたんですか?」

「いやこれがね、夢の中に女の人が出てきて、『ガルバルンド』と呟いてどっか行っちゃったんですよ。」

「急に胡散臭くなりましたね。」

「とにかくガルバルンドですよ。ガルバルンドに1億投資するんですよ。」

「いよいよガルバルンドが何かわからない以上お金の出しようがないんですよ。」

「あなたがガルバルンドですか?」

「私はガルバルンドではないですよ。」

「私がガルバルンドですか?」

「多分違いますよ。」

「じゃあがガルバルンドを探しに行きましょうよ。これからはガルバルンドのガルバルンドによるガルバルンドのためのガルバルンドができるようなガルバルンドにしていこうとガルバルンドですよ。」

「なんかガルバルンドを頑張るみたいに使ってませんか?」

「そうしましょう。ガルバルンドを探すために10億円を使います。これしかない。ただ実際にはないのでクラウドファンディングします。」

「そんな実態のないもののために誰がお金を払うんですか。でも、少し面白そう。」

 こうして男と私は一緒にガルバルンドすることにしたのだった。


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