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100000時間眠れると思っていた私が、3時間しか眠れなくなったとき

人生の全てを睡眠に捧げても悔いはない、『眠り姫』めっちゃ寝ててむしろ羨ましい、というほどに眠ることが大好きな私が、夜中の2時3時に目が覚めて、それっきり朝まで眠れなくなった。しかも毎晩。
自分史上最大レベルの事件で、ハッと気がついた。
崖っぷちにつま先で立っていたってことに。

「睡眠第一主義人間」に起きた異変

昔から、それはそれはよく眠る子だった。
ただ、遅刻などの社会ルールにはそれなりに厳しい家庭だったので、学校や会社には這いずってでも起きて、寝坊で遅刻したことはなかった。
「社会を乗り切るためにできるだけ守っておいた方がいい一線を眠すぎて取りこぼす」ということにならなかったのは、大変だったけどおかあさんおとうさんどうもありがとう。

しかし、とにかく寝る子だったし、寝る大人だった。
休日は、昼まで寝ているのが標準。
起きたときから、夜になって眠るのをぼやぼやと楽しみにしていた。
おしっこに行きたくならないなら100000時間でも眠り続けたいくらいだ。

社会に出て、ある頃から、早起きが必要な職に就いた。その頃も超がんばってちゃんと早起きした。要領が悪いので他の人よりも早く出勤して準備した。そのかわり、夜は8時半とかに就寝していた。
「8時間以上寝なかったら死ぬ」くらい本気で寝まくる人生を歩んできた。

まあ、大人になってから、あるタイミングでADDとの診断を受けたので、特性上、おそらく「過眠」の分類に入れられるやつなのかもしれない。

さらにその後、“早起きが必要だけど夜8時半には就寝できない仕事”に就いた。現在のおしごとだ。
朝5時に起きて6時に出勤して、24時まで働く日々。8時間眠るには1日が30時間になってもらわないと。
それでも、文字通り這いずって起きて、目を閉じたまま足を引きずって歩いて出勤し、遅刻はほとんどしなかった(でも数年に1回くらい、やらかした)。

私は事務所の鍵を開ける係だった。そしてもうひとつの鍵を持っている人は遅刻の常習犯だったから、私が何が何でも行かねばならなかった。大きな災害の緊急支援と関係していたから、やるしかないと思っていた。
(この構造上の大きな問題については、おいおい書くとして)
40連勤、50連勤も当たり前。だから休日は、昇った日が傾くまで眠った。

それが丸10年続いたある日、突如として眠れなくなった。
「あ~あるある、年取ると早起きになっちゃうよねえ」
とかのレベルではない。午前2時に目が覚めるのは年寄りではない。フミキリに望遠鏡を担いで天体観測に行く少年くらいだ。少年だって、キミとふたりでほうき星を探すから頑張って起きたんだ。

「睡眠大好き人間が、疲労困憊しているのに数時間しか眠れない」
これは大異変だった。
眠りについても午前2時に目が開いて、頭の中を仕事のことがぐるぐる回って止まらない。

あれやらなきゃ、これ忘れてた、あっちはどうしようか、誰それにメールしなきゃ、あっちも進めないとなあ。●●さんは何であんなこと言うんだろう。こうしたら連絡がうまくいくかもな。
ああ体が重いのに頭が覚めて、今日も新聞屋さんのバイクが聞こえる。

寝不足なのに昼間になってもなぜか眠くならない。
でも、とってもだるい。
叩いても壊れない元気印だけが取り柄の私のはずなのに。

次の夜も眠れない。昼間はやっぱり眠くならずひたすらだるく、その次の夜もやっぱり眠れない。あれれれれ。

そうして私は気がついたらずぶずぶと底なし沼に足を取られていた。
それは「過覚醒」という抑うつ症状のひとつだったのだと、しばらくしてから知った。
「なるべくしてなったのだ」と、頭のどこかではわかっていた。

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パンドラの箱のふたは壊れていた

身体の異変は、実は何年も前から色々とあった。

~壊れたくまさん事件~
ある朝、いつものように電話が鳴り始める。
ちなみに、うちの職場は電話番が一人(私)でありながら、さながらコールセンターのごとくにあまりにも鳴りすぎてウワーとなってしまうため、焦らないように呼び出しを『プルプル』音から『森のくまさん』のメロディに変更している。
しかし結局は『森のくまさん』が一日100回も流れるので、くまさんに一日中追いかけられるだけで、あまり意味はない。

ある朝、電話機から流れる音楽が、電池が切れかかった時のおもちゃみたいに、すごくヘンテコで音の外れた、めちゃくちゃなメロディになった。
私は、
「あー電話機壊れちゃったww 買い替えかなあ…」
とヤレヤレと思っていたのだが、その直後に、自分や他の人の声も壊れたオモチャ音でうわんうわんとおかしな音で聞こえることに気づいてびびった。

壊れているのは電話機じゃねえ。おいらの耳だ。

突発性難聴だった。低音の耳鳴りつき。一部の音域だけが聞こえなくなってしまったために、重層的な音で成り立っているもの(音楽や踏切の音など)がひどい不協和音になり、人の声が体育館に響くように聞こえる。
早めに病院に行ったのだが、残念ながらその後何年も再発を繰り返すようになった。
「異変」のバージョン。

~モザイクおばけ事件~
ある夕方に、PCで文章を作っていたところ、急に画面の文字が見えなくなった。
「目が見えない」でも「文字を読解できない」のでもない。白い背景のPC画面が何かに邪魔をされて、文字が「見えない」のだ。PC画面の前に真っ白なモザイクおばけがギラギラぷかぷか浮かんで動き回っている。
頭を動かすと、白い光の向こうに、文字がちらちら見える。

目を閉じたら、目の中に光のモザイクカーテンがぐるぐる回っていた。

閃輝暗点、というものだった。
通常は激しい片頭痛の前触れとして現れることが多いそうだが、私は何も起こらなかった。
異変の「」バージョン。

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ちなみに「閃輝暗点」で画像検索すると、経験者たちの体験談や描いたイラストがどんどん出てくるぞ。みんな同じような光オバケに苦労しているんだな。

~あたま落雷事件~
突然後頭部に激烈な痛みが、雷が落ちたみたいに走ることが出てきた。
片頭痛のようなズキズキとしばらく脈動するような痛みではなく、脈動とも動きとも全く無関係に、突然バシッと激痛が電撃のごとく走ってすぐ消える。
消えた後は何でもないのだが、全く予測不可能なタイミングでまたバシッと落ちる。まさに雷雲の下での落雷みたいだ。

MRI検査を受けるも、脳や血管に異常なし。
関係ないが自分の脳を初めて見て、ちゃんとキレイに脳みその形をしていて感激した。うわー私にもほんとに脳みそあるんだあ、すげえ。

痛みは後頭神経痛だった。今でも予測不可能にやってくる。
「異変」頭痛バージョン。

~その他もろもろ事件~
そのほか、経験したことのない不思議な体調不良がイロイロおきた。
でも、謎の蕁麻疹とか、謎の腰痛とか、謎の生理不順とか、謎の癇癪とか、なんとなく「放置しても大丈夫そう」な気がして、フェイスブックなんかでちょっと「ネタ」にして笑ってもらって終わらせていた。

『夜中に一人で事務所で終わらない申請書書いてたら、なぜか急に猛烈にイライラしてきて、衝動的に何もない床にパイプ椅子投げつけてしまった。そしたら跳ね返って右目に直撃、救急病院行ったら眼窩底骨折しちゃってた☆
ロキソニン飲んだけど吐いちゃった、でも保冷剤で目玉冷やしながら〆切ギリギリ書き上げたぞ!あ~物が二重に見えるぜ(笑)』

みたいに。うわあ、やべえ俺。

そうしているうちに「不眠」がやって来た。
そこでようやく

「このハードワーク・ハードボイルドな日々なのに眠れないなんて、おかしい。これって、思っていたよりだいぶおかしいかもしれない」

と真剣に思うに至ったのだ。

その時にはもう、思っていたよりも深刻なことになっていたのだった。

『パンドラの箱』の蓋は、もうとっくに壊れていて、いろんなものがその隙間からしゅうしゅう出てきていたのに、私は放ったらかしにしていた。

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