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第5回 弁護士・社労士に期待される労使の調整役

1.守られない法の典型である「労働基準法」
 日本の労働基準法はきわめて厳格であり、その執行にあたる労基署による監督を含めると、世界の中でも誇れる制度及び組織が構築されているといえる。ところが、現実の職場を見ると、同法ほど守られない規定が多く存在し、違法な状態が放置されることとなってしまっている法律は少ないものと思われる。因みに、守られないことが多い法律の筆頭であろう道路交通法は、基本的には個人の行為であることが多いと考えられるところ、労働基準法の場合は組織として法規が無視ないしは違法状態が黙認されていると考えられるものであり、問題構造はより深刻であるといえよう。

2.労働法の知識が欠ける原因
 違反の内容は、就業規則の作成義務や記録の保存義務など様々な領域に及ぶが、圧倒的に多いのは労働時間に関連することである。時間外労働の規制対象外となる管理監督者の範囲、休憩の概念とその取らせ方、必要となる休日労働手当の支払い懈怠、実質的に許可制となっている年次有給休暇の取得手続きなど、制度に対する誤解であるのか、確信犯であるのかは分からないものの、労働慣行として事実上行われてきたという場合だけではなく、会社の就業規則自体に怪しい規定が存在することも少なくない。就業規則には届け出義務があり、監督署においてチェックされることとなっているものの、地域によっては膨大な数に及ぶこととなる事業所について、少数の監督官がその内容を精査することはおよそ不可能なことである。
 労働法に関する知識が欠けていると感じるのは、企業の労務担当者ばかりではない。再審査請求の代理人として審理に付き添う弁護士や社会保険労務士においても、基礎的な知識が欠けていると感じたことが少なからずあった。法学教育において、労働法などはマイナーな分野であり、致し方ないと思う反面、代理人をやるならもう少し勉強してきてほしいと思うこともあった。もっとも、「致し方ない」状況に至る背景には、以下のような事情があるのかもしれない。

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