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自問自答

「じゃあ、仮に今のその信頼できない恋人と別れたとして、その後はどうするんだい? 一生一人で生きていく覚悟を決めたというなら話は別だが、君はそういうわけではないのだろう。それならば、またいずれ誰かと付き合うことになる。そうなったとき、その新しい恋人が絶対に浮気をしないという確信を持てるのか?」

「いつかは、そのような人が見つかるかもれません」

「なるほど、確かにその可能性は否定できない。絶対というものはないのだから、『絶対に浮気をしない恋人』が絶対に存在しないとも言い切れないな。では君は、そのような人が見つかるまで恋人のリセマラをし続けるということでいいのかな。一周に短くても数カ月かかり、どれだけの確率で当たるのかも分からない、そんな旅路を、ゴールするか命果てるまで走り続けるんだね」

「それは...…」

「まあいい。なにも君を頭ごなしに否定したいというわけではないんだ。君の気持ちは痛いほど分かるからね。それじゃあ、今度は君のその理想の人について、もう少し聞かせてくれないか。具体的に、どのような条件に当てはまれば絶対に浮気をしないと信じられるのか教えてくれ。まずは、浮気の定義について聞こうか。君は、どこからが浮気だと考えているんだい」

「肉体関係があれば、それは浮気だと思います。本当は、真にパートナーを愛する気持ちがあれば、性的欲求や不安のような精神的問題を解消するために他の相手と肉体関係を持っても浮気にはならないと思いますが、そのような愛を証明する方法がないため、事実としてある肉体関係を浮気のラインとしています」

「なるほど。それじゃあ、絶対に浮気をしない人というのは、絶対に他人と肉体関係を持たない人と言い換えることができるわけだ。では、どうすれば絶対に他人と肉体関係を持っていないと証明できるんだ? 例えば、相手のスマホのGPSから位置情報を常に取得できるようにするか?」

「それでは、相手がそのスマホを携帯せずに移動している可能性を否定できません」

「そうだな。じゃあ、常に視点カメラでも付けてもらうか。24時間、365日。寝ても覚めても、お風呂に入る時もトイレをするときも。仕事しているときも、友達と遊んでいるときも」

「...…とても現実的ではありません」

「そうだな。これは仮に恋人が同意してくれたとしても、周りの人へも迷惑をかけてしまうからな。他人が絡んでは駄目となると、いっそ自分の家に監禁でもするか?」

「それでは、ペットか奴隷と変わりません」

「そうだ。そこまで人権を失ったものを、最早恋人と呼んでいいものだろうか。君も本当はわかっているんだろう。浮気をしていないことの証明などできはしない。真実は人の数だけある。もし君が浮気をしていないことを証明する、現実的に実現可能な範疇の解釈を持っているなら、リセマラをするのも無しではないんだ。君が絶対に浮気をしていないと信じられるなら、実際に相手が浮気をしているかは関係ないのだから。」

「それは詭弁です。浮気はバレなければいいなどという話をしているのではありません」

「君にとってはそうだろう。なぜなら君は、自分の認識する範囲だけが事実で、それ以外の可能性は存在しないと割り切ることができないのだから。浮気をしているかもしれないという根拠もない妄想にすら証明を求めてしまうのだから。君はそういう人間なんだ。いいか、これは信じるよりほかない問題なんだ。自分を磨いて、自信をつけて、相手は自分だけを見てくれているのだと、自分だけのことを思ってくれているのだと、そう思えるようになるしかないんだ」


「そこまでわかってて、じゃあなんで、なんの努力もしないまま今の恋人に縋り付いてるんですか」

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