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世田谷の若者からはじめる福祉と防災と顔の見える関係づくり【SETAGAYA ACT LOCAL】

今日で東日本大震災から11年が経ちます。
現在IVUSAに所属している会員の中に、当時小学校低学年だった学生がいることを思うと時の流れを感じます。

現在IVUSAでは、世田谷区をフィールドに有償ボランティア事業、学習支援事業等新しい取組みに着手しています。今回は、それらをはじめるに至った経緯やこれまでやってきたことなどを振り返りつつ、何をしているのか、何を目指しているのかなどをまとめました。

宮城県山元町での活動を振り返る (~2020.3)

IVUSAは東日本大震災の復旧支援活動として、発災直後から宮城県の石巻市・南三陸町・気仙沼市で活動し、2012年から現在まで山元町を拠点に活動を継続しています。

私自身、2016年から2020年の学生時代はこの活動に継続的に関わってきました。はじめて山元町を訪れたのは震災から5年が経った2016年です。沿岸部のすぐ側に建てられている小学校にもフィールドワークの一環で訪れましたが、津波はほぼ最上階まで到達しており、窓ガラスは割れ、建物を支える鉄骨は折れ曲がった状態でそのままになっていました。校舎の中にあるピアノも泥を被ったまま。なにより、教室の黒板に書かれた文字がそのまま残っていたのを見て、時が止まったままのような印象を受けたことを覚えています。

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あまりにも衝撃だった当時の私は、地元の方とお話した際に、率直な思いをお伝えしました。

「震災から5年が経ち、その間もメディアを通して被災地の現状を見てきたつもりだったが、実際は全然違いました。訪れた小学校の現状も現実に起こったこととは思えず、フィクションのように感じました」
「直接的な被災をしていない自分にとって、被災された皆さんの気持ちを100%理解することはできないと思いました。自分にできることがあるのか、分からなくなります」

その時お話してくださった方は、東京から来た見ず知らずの大学生の言葉をしっかりと受け止めてくださり、このような言葉を返してくださいました。

「被災した私たちの経験を、言葉や何か見ただけで100%感じられることはないと思う。そこに何も後ろめたい気持ちはいらないし、それが普通だと思う」
「むしろ、5年経った今も、このように気持ちを向け続けてくれる人がいると実感できるだけでありがたい」

もちろん、せっかく東京から大学生が来たのだからということで、気を遣ってくださった部分はあるのだろうと思いますが、当時はその言葉にとても救われました。そして、実際に被災をしていない立場の自分だからこそ出来ることもあるのかもしれないと思えたきっかけでもありました。

4年間の関わりの中で、もう一つ心に残っている言葉があります。

「被災をした私たちの言葉に耳を傾けてくれて、できることに一生懸命取組んでくれてとてもありがたい。だけれどもっと重要なのは、ただ話を聞いて地域を見て終わるのではなく、その経験を自分の地元に持ち帰り、私たちと同じ経験をしないよう、大切な人を守れるよう確かな備えをすること」

この言葉は、世田谷で様々な取組みを進める上での原動力のようなものになっています。

『Youth for the Resilience』 (2020.12~2021.3)

私が職員になった後、2020年12月から2021年3月の期間で、若者が自らの大切なものを守るための「備え」と「行動」を身につけることを目的とした『Youth for the Resilience -若者による災害対応力向上キャンペーン-』を実施しました。

本キャンペーンでは、IVUSAの過去の災害救援活動に触れつつ、これまで起こった災害を知り、備えを考えるための情報発信を行ないました。例えば、土砂災害は中山間地域で起こるものという印象が強いですが、市街区にも土砂災害警戒区域に指定されている場所があります。もしかしたら、皆さんの生活圏にも警戒区域があるかもしれません。
また、IVUSAのOBにご協力いただき阪神・淡路大震災当時の学生ボランティアの様子を語っていただいた「振り返る阪神・淡路大震災」という記事も作成しました。

Y4Rの過去記事はこちらのマガジンにまとめています。

新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響を受け、例年のような活動ができなかった2021年3月には、次年度以降の活動に繋げていく意味も込め、山元町の一日の様子を撮影させていただきました。

『SETAGAYA ACT LOCAL』 (2021.9~)

Y4Rの取組みを経て、2021年夏頃から世田谷を拠点に新しい取組みを進めています。
『SETAGAYA ACT LOCAL』と名付けたこのプロジェクトは、世代や立場が異なる人同士の持続可能な協働を生み、お互いの困りごとを解消しあえる地域を作るための仕組みづくりです。
このプロジェクトが目指すのは以下の2点です。

顔の見える関係を広げる

若者が起点となり、持続可能な形で地域課題の解決に取組み、地域住民同士の「顔の見える関係」を広げていきます。

災害関連死を減らすことに貢献する

「顔の見える関係」を活かし、首都直下型地震をはじめとした災害での関連死等の犠牲を最小限に抑えることに貢献します。

世田谷は2040年代には人口が100万人を超えるといわれています。
地域づくりの担い手減少や人間関係の希薄化をはじめ、地域コミュニティに関わる課題は、今後より加速していくことが想定されます。
また、近年の台風災害の激甚化、数十年のうちに首都直下型地震の発生が予測されていることなど、私たちの生活には多くのリスクが潜んでいます。
だからこそ、災害のような非常時に円滑な助け合い、支え合いが実現できるよう、日常生活の中で生まれる顔の見える関係を充実させていきたいと考えています。

繋がりは身を助く

SALプロジェクトのコンセプトは「繋がりは身を助く」です。
顔が見えるゆるい繋がりの中で、お互いにできることを持ち寄り協働することで、関わる皆の暮らしがちょっと良くなる。
そんな姿勢で取組んでいけたらと考えています。

SALでは現在2つの取組みを進めています。
若者と地域をつなぐ有償ボランティア「世田谷お助けサービス」と子どもの学び場「イコカナ」を順番に説明します。

若者と地域をつなぐ有償ボランティア「世田谷お助けサービス」

世田谷区民を対象とした、若者による有償ボランティア事業です。
もともとは「学生お助けボランティア」という名称で、介護保険制度適用外である家具の移動や草むしり、買い物の代行など、ご年配の方や障がいをもつ方の生活支援を主目的とし、2003年に始めました。
2021年から「世田谷お助けサービス」としてリニューアルし、地域住民の生活課題解消と学生への経済的還元の両立を目指し展開しています。

日常生活支援という切り口で考えると、社会福祉協議会さんやシルバー人材センターさんが提供している有償ボランティア制度があります。また、近年は民間事業者による介護保険外の自費サービスも充実しており、一見十分なセーフティネットが張られているように思えます。しかし実際には、有償ボランティアのニーズはあったとしても担い手がいない、ボランティアの年齢面を考慮した際に請け負える作業に限界がある、民間サービスだと一時間あたり数千円の料金がかかり継続的に利用しにくいなどの課題があります。
ただ、お助けサービスは、現行の福祉の枠組みやその他の支援サービスとパイを奪い合うことを考えているわけではなく、それらの制度・サービスでカバーできていないニーズがあるのであれば、私たちがご協力させていただくというスタンスです。
今後は、世田谷区内のまちづくりセンターや地域包括支援センター、区内NPOなどのソーシャルセクターと連携し、現在拾えていない多くの困りごと解消に努め、共助のすき間を埋める役割を果たしていきたいと考えています。

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学び場「イコカナ」

宮坂事務所を活用した小学生の学習支援事業です。
4月からの本格実施を目指し、現在は近隣のご家庭へのアンケート、トライアル回の実施等の準備を進めています。この取組みでは、学習習慣の定着や学習のつまづき予防はもちろんのこと、年齢が近い大学生が携わるということを活かし、勉強以外にも様々な関わりの場を作ることで、子どもたちの自己肯定感を育むことに貢献していきたいと考えています。

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助けることもあれば、助けられることもある

SALでは、「助ける-助けられる」という一方向の関係性ではなく、双方向の関係性のもと各取組みを進めていきます。上記2つの取組みでいえば、「お助けサービス」では、有償ボランティアを通じて学生が地域の皆さんの困りごと解消を”お助け”しつつ、地域の皆さんも学生の生活を”お助け”する関係性。「イコカナ」では、子どもたちが一方的に支援を受ける関係性にも見えますが、ここから先数十年というスパンで捉えれば、彼ら彼女たちが社会を支える側に立ちます。そういった意味では、学習支援事業も決して一方的な取組みではありません。

こうした取組みを通じて、普段の生活の中で顔の見える関係性を広げていき、災害が起きた時にはできる形の支援ができるよう準備をしていきます。
首都直下型地震をはじめとした災害に対して必要な備えをあげればきりがありませんが、様々なセクターと協働しつつ若者の立場でできることを一つずつこなし、プロジェクト全体を通じて掲げている「繋がりは身を助く」を形にしていきます。

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