『ブルーロック』30巻 【漫画 感想】
ミヒャエル・カイザーという人物の解像度がグッと上がった巻でした。
※ネタバレが含まれますので、原作未読の方はご注意ください!
新兵器対抗戦
空中でシュートフェイクしタイミングをズラす技、
二銃式直撃弾(トゥーガン・ボレー)を完成させた潔世一。
それを横目に、焦りを覚えたミヒャエル・カイザーもまた未完成の新兵器を生み出そうと試みます。
その名も「皇帝衝撃波・廻(カイザーインパクト・マグヌス)」
(パワー&スピード全振りのカイザーインパクトのカーブ版)
しかし、放ったシュートは回転不足でゴール外へ。
カイザーは世一を絶望させなければならないのに。
壮絶な過去とカイザーの価値観
260話にてカイザーの壮絶な過去が明かされました。
なんと父は舞台の演出家、母はその主演女優だったそうです。
母は早々に父とカイザーを捨て、女優として脚光を浴びる一方
才能は枯れ、暴力を振るう父のもとでカイザーは育ちます。
盗みを働いては父の捌け口にされ、理不尽な暴力を受ける日々の中で
少年は望まれて生まれた命ではないと悟ります。
12歳の誕生日、盗んだものを売って得た金で買ったサッカーボール。
これが彼の人生を変えるきっかけとなります。
サッカーボールは投げれば飛んでいくし、蹴られても文句を言わない。
まるで虐待を受ける自分のようだ。
カイザーにとってサッカーボールは、行き場のない自分の受け皿のような存在だったのかもしれません。
そんなサッカーボールを父に壊されそうになった時、
彼は初めての反抗として父に蹴りを食らわせました。
自分の尊厳を守ったのです。
後にそれが、カイザーの現在の価値観を形成することになります。
悪意による存在証明
劣悪な環境で生き抜いたカイザーにとって人の善意を汲み取ることはできず、他者に悪意を向ける方が生きやすかった。
勝つことで他者を屈服させ、夢を破壊し、絶望させる。このことに快感を覚えるようになります。
そして、それはかつて自分が父から受けてきた虐待と似通ったものであると自覚し、歪んだアイデンティティとして彼の中に刻まれていきます。
これが「悪意による存在証明」。
ミヒャエル・カイザーの根幹をなす部分であると言えます。
思い返すと、これまでカイザーには王様気取りで、マウント取りな気質をずっと見せられてきたように思います。
30巻でその根っこの部分が明かされたことで、ようやくカイザーという人物の人間性に深みが増したのではないかと感じました。
”0”になれ
私は262話で完全にカイザーのことが好きになりました(笑)。
一度失敗したカイザーインパクト・マグヌスを決めるために、ボールを止めるという消極的なプレーを見せたカイザーに対し、潔は
「俺に跪けよ クソピエロ」と挑発。
その言葉に不自由だった過去を思い出し、潔に負けじと食らいつきますが、それは今の地位を失うことを恐れているだけだと気づきます。
今の自分を守るために戦っているのだと。
だが、今の自分を守っているだけでは世界一の景色を見ることはできない。
ここで過去の栄光を捨て、初心へ帰ることを決意した姿は、間違いなく彼のターニングポイントであると言えます。
「"0"になれ クソ物!」
全身に優雅に纏っていたバラの花びらが剥がれ落ち、真っ黒になったカイザーの姿が描写されています。
彼にとってのエゴ、それは他者を絶望させるという悪意であり、
その矛先に”0”を見つけた。
「”0”=サッカーボールを買った日」すなわち人生の始まり(初心)であったことを再認識したのです。
生きる実感を与えてくれたサッカーボールに対する感謝と言ってもいいかもしれません。また、自分を窮地に追い込んだ潔にさえも感謝の意を表しています。自分が成長する逆境をくれてありがとうと。
今まで悪意をもって他者を蹴落とし自分の地位を確立していたカイザーが初めて自分に向き合えた瞬間だったと感じました。
自由と不自由
潔に勝つという執着から抜け出し、己のゴールのために周りの人間を使うという「世界型エゴ」の戦いにシフトしたカイザー。
潔も同じく「世界型エゴ」の持ち主であり、この2人が初めて共鳴する瞬間が訪れました。
要は2つの攻撃パターンが同時に使えるようになった状態です。(今までは、潔型・カイザー型のいずれか一方が優位になるパターンで共存はしていなかった)
そこで、どちらの攻撃がゴールに繋がるのか…
これを決めたのが清羅刃という人物でした。清羅がスポットライトを浴びたのはこの巻が初めてだったかと思います(たぶん)。
彼は1/2の確率を引き当てる感覚を本能として持っているらしく、
この状況で潔とカイザーどちらを選択するかを委ねられる、いわば生死を分ける境界線のような存在として描かれています。
潔は自由なスペースへ飛び込むことでゴールを狙いますが、
カイザーは逆に不自由な密集を搔いくぐり攻めていきます。
「選べ! 境界線!」
清羅が出したパスはカイザーを通り過ぎ、前方の潔へと伸びていきます。
しかし、ボールにはバックスピンがかけられておりカイザーの元へと舞い降り、さらに幸運にもボールは完全に静止し、マグヌスの練習とすべてが重なります。
「天運!!! 皇帝衝撃波・廻!!!」
GOOOAL!!!
うわあああああああああ!
(歓喜を起こすBLTV視聴者)
(首元の刺青を見せ掌を空へ掲げるカイザー)
もう本当に最高のラストでした。
総括
最近のブルーロックは今まで出てきた要素を組み込み、より高次元な戦いを展開していると思います。例えば、u-20戦の最後に大々的に取り上げられた「運」要素は30巻でかなり多く用いられ、ごく普通の現象として浸透しています。
あとはキャラの過去の掘り下げ+キャラの価値観に付随して生まれる独自のプレースタイルが多岐にわたっており、いろんなキャラクターの成長を楽しめる作品だと思います。
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