入社式って、何着てくの?
3月29日になると思い出すことがあります。はるか昔のこの日の夕方、わたしと母は途方に暮れておりました。
この春、わたしはめでたく就職が決まったのですが、4月1日は入社式。
わたし、何を着ていったらいいの!?
そんな重要なことに気付いたのが3日前という、なんとものん気な母娘です。
「ちょうど叔母からもらったスーツがあるやん! キレイなスーツやし、これでいいやん!」
母のひと言にぼんやりした不安を感じつつ、わたしは「叔母からもらったスーツ」を着て、初出社の日を迎えました。
ノーカラーのジャケットに、ふんわり広がるミニのフレアースカート。誠に“春らしい”逸品でした。
そうです。“春らしい”スーツなのです。
お色はベージュというか、限りなくオフホワイト寄りの……ひと言でいうなら、純白!
紺色の、いわゆる“リクルートスーツ”を着た同期たちと、花嫁のような出立ちのわたし。
あんまり空気を上手に読めるタイプでないことは、自覚していましたが、そんなわたしでも小さくなってしまうくらい、浮きまくっておりました。
冷や汗をかいた入社式が終わった後、課長に連れられ、執務エリアへ。
「ここがキミの席だよ。ちょっと古いから掃除したほうがいいかもな」と言われたので、素直に雑巾を探してきて掃除を始めようとしたとたん、隣の席の先輩に声をかけられました。
そこで気がついたのですが。
先輩の席は、明らかに通路です。わたしのデスクを無理やり“島”に入れた結果として、通路へと押し出されたような形になっていたのです。
ああ、下っ端は、こっちの席に座るべきでは!?
わたしがそう言うと、先輩は首を振って言いました。
「また引っ越すほうが面倒だから。それよりその格好で掃除なんかしたら汚れるから、ボクがやるよ」
つまり、わたしの社会人デビュー初日の出来事はこうなります。
場違いな格好でやって来て、先輩のデスクを通路に押し出し、その先輩にデスクの掃除をさせました。
この後も先輩はわたしの代わりに上司に怒られたり、出勤途中にガス欠になったわたしのバイクのガソリンを買いに行ってくれたり。ホントに先輩と上司には頭が上がらない新人時代を送ったわけです。
もしこの時に戻れるとしたら……。
それでも、やっぱり、“リクルートスーツ”は着ないだろうなと思います。個性を消すことを目的にしているようにしか思えないから。
世間知らずとしか言いようのないわたしを、それでも先輩たちや上司がかわいがってくれたのは、とにかく人の話を素直に聞き、与えられた仕事を必死にやっていたからでしょう。
なんてったって、初日に浮きまくってしまったんですもん。
挽回せねばと必死にやっているうちに、「この子は、こういう子なんだな」という理解が広まっていき、いつしか居場所ができました。
素直さと必死さ、そして精進の大切さを教えてくれる、高田郁さんの『八朔の雪 みをつくし料理帖』。入社前に読んでおくのもおすすめです。
この春、転機を迎える方、社会人デビューをする方、新しい場所にはたくさんの出会いが待っています。
どうぞステキなご縁に巡り合えますように。
そして、入社式の準備はお早めに。笑
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