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ハイブリッド戦争に関する論点。ナラティブ(物語)を支配する力

2014年にウクライナで起こったクリミア危機やドンバス戦争は、いずれもロシアによるハイブリッド戦争と呼ばれることが多い。

ハイブリッド戦争とはウィキペディアによると

軍事戦略の一つ。正規戦、非正規戦、サイバー戦、情報戦などを組み合わせていることが特徴である。ハイブリッド戦略とも呼ばれる。

このように説明されている。要するに、多様な主体と手段を組み合わせた方法で目的を達成しようとするのがハイブリッド(混合)な戦争・戦略ということだ。

ロシアのハイブリッド戦争については軍事評論家・軍事アナリストの小泉悠による著書「現代ロシアの軍事戦略」で詳しく述べられているが、今回はこの著書で紹介されている元米国陸軍将校ピーター・マンスールによる、ハイブリッド戦争に関する3つの論点のうちの1つを紹介したい。

2022年2月24日から始まったロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、何をどう考えてもロシアが完全に悪なのだが、しかし少なくない人が、ロシアは正しくて悪いのはウクライナだと考えてしまっている。

全く頭がオカシイとしか言いようがないのだが、これもロシアによるハイブリッド戦争による成果の一つと言うことができよう。

以下に「現代ロシアの軍事戦略」の一部を抜粋して紹介するが、自らの正当性を示す為の情報戦の重要性を理解していただけたらと思う。今回のロシアによるウクライナ侵攻においても、ロシアの謳う正統性に騙されている者が少なくないので、その指摘にもなるかと思う。

 第二に、マンスールは、人々の情勢認識がハイブリッドな軍事力行使において決定的に重要であると指摘している。ハイブリッド戦術を用いる弱者(※マンスールによると、ハイブリッド戦争は「弱者の戦略」だとしている:天乃川注)にとって重要なのは、個別の戦闘に勝利することよりも、敵と戦い抜く上での支持を人民から得ることであり、これこそがゲリラ戦の主要な戦略目標なのである。
 逆に言えば、戦争に対する人民の支持を失った時点でカッコ付きの「弱者」は本当の弱者に転落せざるをえず、敗北を避けられない。そこで重要になるのが、人々の情勢認識を左右するナラティブ(物語 ※小泉は「語り」と訳しているが、「物語」のほうが分かりやすいかと思うので「物語」とする:天乃川注)を支配する力、すなわち、情報領域での戦いであり、ここでは自らの正統性を証明できた側こそが優位に立つ。この意味で、ハイブリッド戦争は戦闘に参加する主体だけでなく、情報領域を左右するメディアや情報通信技術(ICT)といった手段の面でもハイブリッドな様相を呈する。
 しかも、これは戦争当事国の人民だけでなく、その成り行きを見守っている国際社会にも及ぶとマンスールは指摘する。戦場やその後方地域における軍事的な形勢はもちろん重要だが、それと同時に、オーディエンス(観衆)からもどれだけの支持が調達できるかがハイブリッドな軍事力を行使する側にとって死活的な意味をもつのである。米国がヴェトナムの戦場で圧倒的に勝利しながら、米国内と国際社会からは「侵略者」とみなされ、最終的に不名誉な撤退を余儀なくされたことはその好例と言えるだろう。

――以上だ。

今回のロシアによるウクライナ侵攻は、国家対国家の地上戦を主体とした「いわゆる戦争」っぽい戦争であることと、ハイブリッド戦術は「弱者の戦略」というところで、「弱者はウクライナで、ロシアは強者だろう?」という疑問が湧くかもしれないが、自国の正統性を謳い少なくない支持を獲得しているという現実は、やはり今回の戦争はハイブリッド戦争という側面があると言えるだろう。

また、ロシアはウクライナにとっては強者だが、NATOやその盟主のアメリカに比べたら弱者にあたると思うので、そういう意味でもロシアによるウクライナ侵攻はロシアが仕掛けたハイブリッド戦争だと言えるだろう。

いずれにしても、ナラティブ(物語)を制する国が有利になるのは確かだろう。――って、ロシアのナラティブ(物語)を支持する者は全体としては少ないのだが、それでも親露的な輩が意外と多いのは厄介だ。

「ゼレンスキーは独裁者だ!」
「ウクライナ市民を虐殺しているのはアゾフ連隊だ!」
「黒幕はアメリカだ! アメリカの軍需産業だ!」


こんなような考え方を抱いている日本人も結構多いのだ(ゼレンスキー氏のナラティブ(物語)を訴える力の方が格段に上なのだが)。

とにかく、今回の戦争はウクライナが善でロシアが悪だ。これは絶対に揺るぎない事実だ。馬鹿な国のハイブリッドな戦術にやられていないで、本当のナラティブ(物語)を支持するべきだろう。







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