notフィギュアスケートオタクがただ高橋大輔選手のことを語ってみた

フィギュアスケートは難しい世界だ。
ルールも変わっていくし、年々高い技術が求められていく。

前大会の「スゴイ」が、次の大会では「当たり前」になっているようなスピード感。

ハラハラドキドキが苦手な私は、ミーハーなファンとして、心穏やかに美しい演技を楽しんでいる。

フィギュアスケートが芸術だと、楽しむものだと教えてくれたのは、高橋大輔選手の演技だった。

これからも、私にとってオンリーワンのスケーターだ。

■イマドキの男の子の『白鳥の湖』

なぜ素人である私が、彼のプログラムをおもしろいと思うのか。

ジャンプやスピンといったフィギュアスケートの基礎知識が乏しい私にとっては「観ていて胸が高鳴るもの」こそすべてで、誰がうまいとか誰がスゴイとかは分からない。

正直、あんなに難しいことができる時点で全員が素晴らしいし、差をつけることは出来ない。

こんなドがつく素人が心奪われたスケーターこそ、荒川静香、そして高橋大輔だ。

高橋大輔は、関西の大学に所属しているということ、年齢が近いということで、親近感のある存在だった。

『白鳥の湖』で魅せたヒップホップもおもしろいと思ったし、髪を伸ばしたイマドキの生意気そうな“男の子”が、優雅に舞い滑るギャップにも興味を持った。

「世界一のステップ」の凄さは、知識をもたない私にも分かった。

高橋のステップシークエンスになると、会場のボルテージが高まるのをテレビ越しにも感じた。

【わくわくする】

作品を、その人を好きだと思うには、充分すぎる理由だろう。

■氷上の演者

現役アスリートである彼にこの言葉を贈るのは、無礼だとも思う。

けれど私は彼の活躍を通し、フィギュアスケートは芸術なのだと知った。

ジャッジがある以上、ジャンプやスピンといったスキルが試されるのは当たり前で、
競技である以上、出る者も観る者も緊張するのは当たり前。

分かってはいても、回転数や転倒で一喜一憂し、表情を固くしていく選手たちを見ているのは心苦しかった。

息を止めるように見守る時間。それが私にとってのフィギュアスケートだった。

けれど高橋大輔の演技では、呼吸をすることができた。
転倒があれど、ミスがあれど、彼の表情は演者のそれだったからだ。

競技であることを忘れ、ひとつの物語、ひとつの「美しいもの」を観ることに集中できた。

「別世界」へ連れて行ってくれた気がした。

高橋大輔の演技は、情熱的でありながら実に繊細でしなやかだ。

男らしいダイナミックな演技を目指してしまえば、体格の異なる欧米の選手に引けをとるだろう。

高橋は身体のすべてのパーツをなめらかに使い、指先の“そのむこう”までを表現する。

身体こそ大きくないが、スケール感のある演技だと思う。

プログラムにもストーリーがある。表情、指先、腰、首筋までも演じている。

ジャンプのスキル、スピンのスキルは分からない。
難しいことは分からないけれど、彼のプログラムを観たいと思う。

難しいことが分からないからこそ、彼のプログラムに心動かされたのかもしれない。

■表現者としてのナルシシズム

表現者たるもの、大なり小なりナルシシズムは必要だ。(ナルシシズム、という言葉に悪意はない)
彼にはそれが備わっている。
ヘアスタイルもセルフプロデュースだろうか?自分の魅力をよく知り、よりよく見せる工夫に長けている。

整った容姿こそ授かりものだが「カッコよくある」努力をしてきた人だと思う。

インタビューや会見では、年齢のわりに幼くも思える穏やかな口調が印象的。

しかし、氷上では途端に「男」の顔つきを見せる。

日本人は易々と「愛してる」と言わない。愛情を表に出すことも少ない。

それが日本人の国民性でもあるし、奥ゆかしさこそ日本ならではの美ともいえる。

しかし、そこを突き抜けてくるのが高橋大輔の演技だと、彼のtangoを観て感じた。

演技から伝わる情熱と気迫は、日本人のセンスを飛び越えている。

いかなる選手もプログラムには入り込むものであり、フィギュアスケートは競技でありながら演技、芸術だ。

しかし高橋大輔の「憑依」は、群を抜いている。

照れも謙遜もない強気な自己表現、自己陶酔と、相反するような繊細な演技。

つくづく不思議な存在だ。

■確実に音を捉えるリズム感

https://youtu.be/FHjf25eDWJA

高橋のプログラムを観ていて常々おどろくのは、その「音ハメ」のうまさ。

すべて振り付けどおりに踊っているのならその正確さは恐るべきものであるし、
指先や首の動きに多少の自由度があるのだとすれば、その音感もリズム感も凄まじいものだ。

聞こえるか聞こえないかという、無視をしても良いような音にもしっかり振りを入れ込んでいるし、
音がないシーンでもリズムを外さない。

だからブルースやバラードも飽きがこないし、初聴きの曲でもしっくりとくる。

ときおり観客を煽るように手招いてみせるのも、振り付けのうちなのだろうか。

コロッと堕とされてしまったのだが。

■同世代として

先述したとおり、私は彼と同世代である。

彼が現役復帰したこと、これからまた新たな道へ進むこと、とても嬉しく、誇らしく思う。

三十代。
なってみて思うけれど、三十代って、けっこう楽しいもの。

思う存分、やりきってほしい。

三十代の男の魅力、楽しみにしています。


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