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感情/情動がどのようにつくられるか

  ①自分の感情がどのように発露し、それを自分は認識しているのか、②どのようにしたらそれをうまくコントロールできるだろうか。自分の感情をコントロールできたらどんなにいいだろうと思ったことは、誰でも一度はあるのではないだろうか。

 脳科学的な見地からこれらの疑問に迫るのが、本書「情動はこうしてつくられる」だ。著者のリサ・フェルドマン・バレットさんは、ノースイースタン大学の心理学教授であり、感情科学を専門としている。感情がいかに作られるかについて、TEDでもご本人が語っている

 本書の書評については、Jun Nakamaさん養老孟司さんが素晴らしい文章を書かれている。

 脳科学のド素人である私にとっては、まず、言葉の定義が難しかった。
例えば、「情動」と「感情」の違いは何だろうか。言葉の定義については、訳者のあとがきが役に立った。引用してみる。

感情」:私的な経験にもとづくもの。「情動」:表情や何らかの生理的な指標によって客観的に(すなわち科学的に)測定可能な現象として情動をとらえている場合が多い

①情動は、感情(主に自律的な内受容感覚)とは異なり、身体と外界の相互作用をもとに構築された知覚(perception)である。
②前述の知覚は、意識と同義で、無意識的であるような情動は存在しない。➂知覚の構築には、「気分の性質・行動・世界を経験するための手段・自律神経の変化」等が関与している。

 著者は、情動に関して意識の介在を前提としており、情動の構築には「概念」が必要だという本書の記述からも、情動構築の基盤のひとつとして認知作用を据えていると読み解ける。

情動はこのようにしてつくられる 訳者あとがき


 情動語を多く持つ人は、自分の感情のコントロールもしやすいというのは興味深い。何故だろう?より豊かに感情を言葉で表現できることが、自分の心を客観的に俯瞰するのを助けているからだろうか。

子育てに関する下記の記述は、世の中の子育て中なら親にとって、『子供にどう世界を捉えてもらうか』『言葉という武器を使いこなす事によって、より賢くこの世の中を生き抜く』ヒントが詰まっているように思える。世の中には、自らの感情・情動をコントロールできなかったことで不本意な結果を招いた大人であふれている。

 粒度の細かな情動経験が可能な人は、その都度状況に緻密に合致した予測を発し、情動のインスタンスを生成することができる。

情動粒度の高さには、満ち足りた人生を送るにあたって、有益な効果がある。不快な感情をきめ細かく識別する能力を持つ人は、情動の調節において30%ほど柔軟性が高くなり、ストレスを感じた時に飲み過ぎることが少なく、自分を傷つけた相手に攻撃的に振る舞う事もあまりない。

「概念」を磨くにあたって、情報粒度の改善の次にできる事は、肯定的な出来事の日記をつけることである。肯定的な出来事を経験するために、概念システムが働きかけられ、その経験に関連する概念が強化される。すると、世界に関する心的モデルの中で、「概念」が際立ち始める。それを書き留めておくと良い。なぜなら、言葉は、「概念」の発達を促し、肯定的な出来事を予測する心構えを函養してくれるからだ。

それに対し、不快な物事に思いを巡らせていると、身体予算に変動が生じる。深く考えすぎると悪循環を引き起こす。

自分が構築する経験は全て一種の投資なので、投資は賢明に行う必要がある。だから、将来もう一度構築したくなるような経験を培うようにしよう

あなたが親なら、子供の心の知能を磨き上げられることを覚えておこう。
子供には理解が難しそうに見えても、できるだけ早い時期から、情動やその他の心理状態について語っておくと良い。乳幼児は、親が気づく前から概念を発達させると言う事実を思い出そう。だから、子供の目を見て、自分の目を見開いて注意を引き、情動や他の心的状態に関する言葉を用いて、体の感覚や動きについて教えよう。「あの子の見てごらん、泣いてるね。転んで、膝をすりむいたから痛がってるんだね。悲しくなって、お父さんがお母さんに抱っこしてもらいたいのかもしれないね」などと、物語の主人公の感情や、自分自身の子供の情動について、様々な情動語を用いながら詳しく説明すると良い。何が情動を引き起こすのか、また他者にどのような影響及ぼすのかについても話してあげよう。その際、人間の存在そのものや人間の動き、あるいは人間が立てる音からなる神秘の世界をガイドする案内役になろう。その詳細の説明を通して子供の概念システムと、それが生む情動の発達が生まれるはずだ。

子供に情動概念を教える事は、単なるふれあいではなく、それを通して、子供にとっての社会的現実を作り上げていることを忘れてはならない。また、身体予算を調節し、感覚刺激の意味を解釈し、それに働きかけて自分の感情を伝え、より効果的に他社に影響及ぼす道具を与えているのである。子供は、隠して習得した。

 子供に情動概念を教えるときには、「幸福を感じたら、微笑む」「怒ったらしかめ面をする」などの本質主義的なステレオタイプにとらわれないようにしよう。また、微笑は文脈によって、幸福の他にも、きまりの悪さ、怒り、場合によっては、悲しみさえ意味シュールことなどを教えることで、現実世界の多様性を子供に理解させよ。自分の感情がよくわからなかったり、他者の感情を単に推測しているだけだったり、推測がひどく外れていたりしたときには、そのことを率直に認めよう。

まだ話せない乳児を含め、幼い子供と言葉を交わし合うことで、十分に会話するようにしよう。子供がよちよち歩きをする頃には、ちょうど概念を築くために、言葉そのものと同じ位会話のパターンが重要になる。夫と私は、赤ちゃん言葉を使って娘に語りかけた事は1度もなく、彼女が生まれた時から、はっきりと大人の言葉で話しかけ、彼女に可能なあり方で反応させるために、しばらく間を置くようにしていた。スーパーマーケットでは、私たちは他の買い物曲から岡島家族と思われていたようだ。しかし、そのおかげで、私たちの使命は、今や、大人にきちんと話しかけられる、高い心の知能を備えたティーンエイジャーに育った。


豊かな上流子供は、学校で良い成績を収めることが多い。イエール大学の心の知能センターで行われたある研究では、参加した児童は1週間につき、20分から30分間ちょうど後に関する知識を増やしながら使うよう指導された。その結果、社会的な行動の質と学校の成績が向上した。この教育モデルを導入した教室は、秩序がより保たれていた。

それに反し、子供の感覚について、情動語で語りかけなかった場合、概念システムの発達を阻害する結果を招く。高所得世帯の子供は、低所得世帯の子供に比べ、4歳になるまで4,00万回以上多くの言葉を見たり、聞いたりしており、語彙が豊富で読解力が高い。

それ故、物質的な利点を享受できない子供は、社会で遅れを取らざるを得ない。低所得世帯の両親に子供と触れ合う機会を増やすようアドバイスをするなどの単純な介入方法でも、子供の学業成績が向上する。同様に情動語をより頻繁に用いる事は、子供の心の能力を向上させる。

情動はこうしてつくられる

 本書は、一度読んですんなり頭に入るような易しい本ではない。ほかの脳科学に関する文献にあたって、今後数年に渡って何度か読み直す本になるだろう。嚙めば嚙むほど、味わいが出る本である。そのような本に出合えたことに感謝している。

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