【本紹介】走って、悩んで、見つけた事(大迫傑)

 正月に箱根駅伝を見た人も多いと思うが、己の限界に挑戦し、100%力を出し切ろうとするアスリートの姿には、心を打たれる。本書は、大迫さんの考えや生きる上での哲学のようなものが垣間見える文章で興味深かった。

 あまりにも外部から入ってくる情報が多い現代において、しっかり自分に向き合いたい、自分を深堀りしたいと思っている人には、学べる事が多い一冊かもしれない。ページ数が多いわけではないので、2時間もあれば読めるボリューム。

きついと感じているのは脳であって、身体ではない。

脳は、身体より先に限界信号を送る。でも実はもう少しがんばれる。本当の限界は、その先にある。

 マラソンでは、レースで得るものよりもトレーニング期間で少しずつ気づいていくものが多い気がします。それは一つ一つのピースを大事にしていくということ。あまり遠くを見すぎず、着実に一つずつパズルのピースをはめていくイメージです。

今に、いかに向き合えるか。何を自分の確固たるものとすれば、周りの雑音に影響されないか。周りと比べると苦しくなります。自分に変えられるのは、今の自分だけ。『今の自分を1歩進めるにはどうしたらいいか』、そこに神経を集中していきたいものです。

 自分でやるべきことをすべてやっているので、スタートラインに立った時は良い意味で開き直った状態です。レースが良くても悪くても、ここまで妥協なくやって来れたという、スタートラインに立った達成感があるんです。レースに向けて日々葛藤したり、今日はこれだけ自分に勝てた、あれだけの練習メニューを継続的にこなしてきた、これほど多くのものを我慢してきたなど、スタートするまでに全てを戦いきっていて、後は42.195キロ走ればいいだけなので、早く走って、早く終わりたいという気持ちだけ。だからスタートラインに立つという事は、僕の中ではひとつの勝利なんです。

やるべき事をやり切れた人だからこそ、辿り着けるこの境地、この言葉。ここまで普通の人はいけない。では、意志の弱い人はどうすればいいか。自分を伸ばせる環境に、身を置く事。大迫さんがNIKEオレゴンプロジェクトに参加したように。今の自分では手が届かない選手ばかりがいるかもしれない、不安も多い、でもそこで恐らく新たな自分に出会える可能性がある。一歩踏み出す行動力を身につけたいものです。

良くも悪くも、練習の中でしか、自信は戻ってこないんです。

本番が、練習よりうまくいくことはありません。努力・練習は、自分の中に積もっていきます。

 未来はすべて今の影響を受けているんです。きちんと今を積み重ねていけば、レースの直前に自分を信用することができます。

今を疎かにしている人に明るい未来はありません。

きつさにおいても、今に集中して考えると言う事は、レースの際もすごく重要になってきます。そして、そうやって瞬間瞬間を大事にトレーニングしていると、毎日毎日自分に勝つことに対しての価値を見出せるようにもなるんです。
マラソンにおいては、きつい瞬間があっても、その後に楽になる瞬間が絶対にあります。それを知っているから、きついことにも対応できる。きついと感じたら、今に集中して、その状況を冷静に判断して対応していく。

まずは、小さな成功体験を自分の中に植え付ける。俺はできた、次もできるはず。その回路は段々と太くなっていきます。良い経験を積みましょう。

学生の頃、僕より速い選手はいくらでもいました。勝てなかった選手もたくさんいます。ではなぜ残れなかった選手がいるのか、ここまで差がつくのかというと、自分がだめな時に頑張れなかったからだと、僕は考えています。お互いが頑張っているときは、差は意外とつかないものです。でも故障した時、調子が悪い時に、走れないからと練習しなければブランクができてしまう。そういう小さなミスをたくさん積もっていけば、それはやがて大きな失敗につながります。いつもと同じ事はできないかもしれない。でもその中で、今の自分ができる範囲の努力をし続けることです。

自分がだめな時には、普通の人はがんばれないと思う。がんばるというよりは耐え忍ぶ、他のことに逃げるのではなく(根本的な解決には何もならない)、その時の自分にできることをやる、という意味と自分は理解しました。

5年、10年かかるかもしれないけれど意志を持ち続けていれば、人は変わっていく。誰しもが劇的に変わることを期待しますが、そんな近道はなくて、意志を持って続けていくことで少しずつ変わっていくんです。
目的を達成するためには、他人のことに関わっている場合ではない。結局、100%自分のことを考えられる人は自分しかいないんです。誰を信じるかといったら自分自身であって、周りに合わせるという事は、僕にとっては無駄なことです。だから今は同じ方向性、レベルを持った選手としか一緒にトレーニングをする事はありません。
やらない理由というのは、探さなくても簡単に見つかるものです。だから僕はやらない理由よりもやるべき理由を常に探して、積み重ねています。やらない理由を排除したら、やるしかないことだけが残るはずだし、やらなければ後悔するだけ。難しく考える事は意外に誰でもできることです。自分がすごく考えている、深く掘り下げていると言う人も多いけれど、それは実はみんながやっていることで、特別なことじゃありません。それよりもいかにシンプルに物事を進めるか、無駄を省いて、まっすぐにとがらせていくかの方が難しい。もちろん僕にもできない部分がたくさんあります。けれども意思を持って、シンプルに、シンプルにというのを心がけています。人の顔は変わるものです。ストレスが多ければ眉間にシワが寄るし、気持ちが穏やかな人は優しい顔をしている。同じように常に意思を強く持ち続けていれば、顔も体つきも、走りも変わっていくものなのです。
他人に対して意識を向けすぎると疲れてきて、感情のベクトルは他人ではなく、自分に向けるべきなんだと学ぶことができる。今は葛藤の中で自分が1番必要な位置を見つけられたのだと思っています。
僕は他人にはなれないし、他人も僕にはなれないということ。人の経験は人の経験でしかありません。だから無理をせず、自分の能力をちゃんと伸ばしていくことを意識したい。結局アドバイスをもらったり、本を読んだり、色々と調べてみても、自分でやってみて感じなければ意味がない。僕もアドバイスを求められることがありますか、何を言っても結局自らに落とし込んでやらなければ同じじゃないでしょうか。
きちんと考えたら、それ(瀬古利彦さんが誰よりも練習をこなしていたこと)は決して特別なことではないし、俯瞰して今の自分はどうなのかと見つめ直してみたら、自分がどれだけやっていないか気づくはずです。泥臭く走り続けることでしか、強さが手に入れられないし、毎日、淡々と普通に続けることが実は1番難しい。でもそれを認めてしまうと、自分が頑張らなきゃいけないことに気づいてしまう。だから自分に対しての言い訳をする人が多いのではないでしょうか。
(NIKEオレゴンプロジェクトに一歩足を踏み入れたら、嫌でも自覚せざるをえない状況でした。モー・ファラーやゲーレン・ラップはものすごいボリュームの、質の高い練習をしていました。それを見たら、世界のトップ選手ですらここまでやらなきゃいけないんだと、腹をくくらざるを得なかった。それと同時に、意外とこれぐらいでいいんだと思うところもありました。知らない事から目を背けていたら、世界を感じることができないし、世界との距離が開くばかりです。向き合うことの怖さ、知ってしまうことへの強さはありますが、強くなるためには目を背けるべきではない。
走る気分にならない時、練習をやらない理由を探しますよね。だけどそれは誰もができることです。1番難しいのは自分が走ることについてやるべき理由を探して、それに向かってちゃんと集中すると言うこと。本来は当たり前ですが、いろいろな選手を見ているとやらなくていい理由を探す人がすごく多いと思います。心から思うのは、やらない理由はないと言うこと。まず最初に自分に言い聞かせるべきは、やらなきゃいけないんだということ。
よかったレースでも自分の中で反省する時もあるし、悪かった時でも自分にとっては良かったと思えることもある。関係の薄い他人の意見に惑わされることなく、自分の目、練習をずっとサポートしてくれた講師の目でレッスンを見直し、反省していくことが大事だと思っています。

幼い頃から、自分の事は自分で決めるように両親から言われたことが良かったと語っておられるように、自分で決める→責任転嫁ができない→自分の下した決断が正解となるように主体的に動くという良い循環になるのかと思います。

「自分の頭で考えられる、状況を打開すべく、行動を続けられる。」そんな風になるべく、今日一日をがんばりたいものです。自身の判断の軸がぶれないように、自身の芯となるものを日々、しっかり育てていきたいものです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?