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【エッセイ】自転車日本一周記3
びびりまくった最初の一週間
自転車で日本一周をしておきながらなんだが、初めて挑戦することに対しては非常に慎重な質だ。どちらかと言えばおどおどするし、しなくてもいい挑戦はしない。
だから、最初の一週間の間は知人を頼りまくった。
辞める前の会社の後輩。幼馴染の親。恩師の娘。大学の後輩と節操なく頼った。
おかげで野宿に初めてチャレンジしたのは三日目の夜のことだ。
場所は千葉。房総半島を半分ほど走ったあと。しばらく北上して茂原にあるそれなりに大きな公園。
寝る場所を探して公園内をぐるりと見て回って広場に辿り着いた。
ベンチを見つけて一段落。あたりに人影もいなくて、テントを張るかどうか悩んだ。
そもそもだ。
公園に勝手にテントを張っていいのか分からなかった。
なにも考えずに、テントを買い、寝袋を買ったのに、いざそれを使おうとしてもどうしていいのか分からないでいたのだ。
いろんな可能性を考えた。
テントを張って管理人に怒られたらどうしようとか、通りかかった人に通報されたらどうしようとか、寝ている間に妙な人たちに囲まれたらどうしようとか、目が届かない間に自転車を盗まれたらどうしようとか。
つまりびびりまくったのだ。
結局、どうしたかと言えば、寝袋をまとってベンチで寝た。なにか起きたらすぐに対応できるように比較的、身体を出した状態でだ。自転車は紐でベンチにくくりつけた。手間取らせれば起きて対応できるようにだ。
それでも、そわそわしてなかなか眠れなかったのだけれど。言ったって一日中、自転車を漕ぎ続けているのだ。身体は疲れていて、数分もすれば眠ってしまう。
それがまさか、そんなことになろうとは思いもしなかった。
何時だったのかは知らない。ずっと寝たフリをしており、時計すら見なかったからだ。ふと、目を覚ますと辺りはまだ暗かった。明け方と言うよりは深夜にもなっていない夜だと思う。どうして起きたのか自分でも不思議だったのだが、それはすぐに理解できた。
人の声がするのだ。それもたくさん。
どの声も若いように思えた。高校生とか、大学生。そのくらいだ。性別は男だけだったと思う。
最初は近くを通りかかっただけで、すぐに去っていくものだと思った。でも、彼らはなかなか寝ているそばを離れようとしない。
寝ている場所はちょっとした広場の端っこにあるベンチだ。街頭もほとんどなく、暗い中で何をしているのか怖くなった。
するとエンジン音が聞こえてきたのだ。車ではない。もっと軽い乗り物。それは彼らの会話の中からすぐに分かった。
原付だ。
原動機付自転車。彼らはなんと免許を取ったばかり友人のために、夜中の
公園で練習をしようと集まっていたのだ。
はしゃぐ声が辺りに響く。
コケるなとか、もっと体重を傾けろだとか、騒ぎながら笑い声が聞こえる。
こちらに気付いているのか、気づかないではしゃいでいるのかわからない。下手にビビって動いたほうが絡まれる可能性もある。
寝袋の中で、身動きも取れずにどうすればいいのかと、頭の中を考えが延々と巡っていく。
正直、時間が経つのがひどく長く感じたし、実際どれほどの時間が経ったのかまったく分からない。
彼らは練習に満足して帰っていった。
もしかしたらこちらに気がついて危ないと思って逃げていったのかもしれない。いや、それにしては最後まではしゃいでいた。
ともあれ、初めての野宿はそうやって過ぎていった。そして同時にその時に決めてしまったのだ。
テントを張ることは止めておこうと。
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