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日本のモノづくりの「強さ」とは何か?

「日本のモノづくりは凄い」とか、「この地域はモノづくりの基盤があり、そこが強みである」という言葉を聞くが、その「強み」とは具体的に何だろうか?

先日、米国小売EC大手で日本工場の自動化を担当している友人と食事をした。彼はもともと東京エレクトンで働き、ABBという欧州のロボットメーカーで働き、現在はそのEC大手でエンジニア兼PMみたいな仕事をしているそうだ。

日本のものづくりの現場に始まり、欧州・米国の企業でエンジニア、PM、事業開発者という様々な立場でモノづくりの現場を見てきている。私もP&Gという米国の消費財メーカーで日本・海外のモノづくりの現場で働いた経験がある。

彼と食事をしながら「日本の製造業の強さはどこにあり、今後どのようなポジションを日本はグローバルで築いていくべきか」という話で盛り上がった。その話が面白かったので備忘として残す。簡単にまとめると以下のような内容だ。

・日本人は「1つの正解を追求する」ことは得意だが、「新たな問いを立て、課題そのものを変える」ことは苦手

・これは長年かけて蓄積されている日本人の価値観や教育から形成される「気質」なので、簡単には変わらない

・この特性は「弱み」として語られやすいが、実はここにチャンスがあるのではないか

※あくまで実務者として製造業に関わったふたりの体験から考える個人的な見解ですので、これが正しいというわけではありません。

日本人には作れないシステム

彼曰く「現在、工場で稼働している自動化ロボットはかなり凄い。よく他社が見学に来るが、必ずみんな驚く。残念ながら日本人にはこのロボットや仕組みは作れなかったと思う。」

工場の自動化というと、ロボットが特定の位置に固定され、人間の指示通りにロボットがピッキング(ものを掴んで移動する)したり、ボルトを締めたり、積み荷をしたりするイメージがあると思う。つまりは「人間が苦手な作業をロボットに代替してもらうこと」がロボットの役割だった。

しかし、彼のいる工場は人間が固定した場所に立っており、ロボットがものを運んできて、人間がコンピューターの指示通りにピッキングするそうだ。なぜピッキングを人間がするのかというと、ひとつひとつ形状が異なるものを掴んで移動するのはロボットでは相当に難しいからだ。つまり「ロボットが苦手な作業を人間に代替してもらう」という状態になっている。

この工場自動化の心臓部(競争優位性)はロボットの正確性ではなく、大量に飛んでくる多種多様なオーダーに対して、最も効率的に人の前に物資を運ぶアルゴリズムだろう。

彼は面白い例えをしていて「もしロボットを1mmの誤差なく人の前で止めることをやらせれば日本人が間違いなくNo1だろう。だけども、サプライチェーン全体における工場の役割から再定義し、ロジスティクスの在り方を考え、そこに新しい自動倉庫を作るという発想は日本人から生まれにくい。そういう発想は海外の方が優れている。」

発想を転換し、物事の見方を変え、戦うルールを変えるという部分は日本人の苦手とする部分らしい。

実はこの感覚、私がP&Gで働いていたときに感じていたグローバルとのモノづくりの差そのものだった。

続きはまた次回。


QUANDO CEO。九州工業大学 客員准教授。建設設備会社瀬登 取締役。地方でのスタートアップ、事業承継、大学発ベンチャーについて書いていきます。