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起業家と企業人は使う筋肉は違う?


私が以前、呟いたTwitter。ある起業家の先輩は「大企業とスタートアップは同じスポーツでも使う筋肉が全然違う。経験は無駄ではないけど、起業したいなら早くした方がいいんじゃない?」とアドバイスしてくれました。大企業でキャリアをスタートし、スタートアップを始めて3年。いま振り返ると言い得て妙だなーと思います。


新卒外資系メーカー:誰が言うかよりも、何を言うか

新卒入社1日目から驚くことばかりでした。会社の役員クラスが新入研修を覗きに部屋にやってきたのですが、ちょうど部屋の席は満席でした。誰も譲ろうとしないので、気づいていないのかな?と思い、一番近くにいる私が席を譲ろうとしたところ

「この研修を受けているのは君だから、席を私に譲る必要はない。この研修は君たちの為の研修なのだから、君が最も学びやすい、良い環境で研修を受けなさい。ここに社長が来たとしても同じことだ。」

と言われました。それまで完全なる日本社会に生きてきた私はどのような状況でも目上の方に席を譲る事は至極当然と思っていましたが、この会社の考え方は全く違いました。役職や年齢ではなく、非常に合理的(=あるべき姿を追求する)文化や雰囲気が会社にありました。

「ロジックと数字こそが世界共通の言語である」との思想のもと、若手であろうと、役職の低いものであろうと、(論理的に)正しい事は認められる世界でした。

「誰が言うかよりも、何を言うか(論理的な正しさ)が重要」

ああ、なんて生きやすい、明快な世界なんだろうと感動を覚えたものです。


転職先日系コンサル会社:何を言うかよりも、誰が言うか

コンサル=ロジックの権化だと思って入社してすぐ、上司に出鼻をくじかれる出来事がありました。

「君、コンサルタントって論理的に正しい答えを導く仕事だと思ってる?全然違うよ。何を言うか(何が正しいか)よりも、誰が言うかの方が重要だからね。ところで君、若く見えるね。年上に見えた方がいいから、太るか、禿げるか、眼鏡かけるかしようか」

と言われ、眼鏡を買いに行ったプロジェクト初日。

後日、この先輩の言いたかったことは「コンサルタントの仕事は論理的な正しさを追求することだけではない。クライアントの合意形成を促すケースも多く、ロジックを使うこともあるけど、外部コンサルタントという権威を活用されることもあれば、社内政治の潤滑油としての役割を担うこともある。ロジカルはあくまで1つの武器でしかない」

という意味だと分かりましたが、外資系から来た私には衝撃的でした。

しかしながら、起業した今ではコンサルで学んだ社内力学を見通して、人や組織を動かす力の方がビジネスの実践では役に立ってるんではないかと思っています。


スタートアップ/起業:言うより、やれよ

起業する前はアイディアを練るため、色々な調査をして、スタートアップの本を沢山読んで、雑誌やWEBで情報収集にも力を注ぎました。アイディアをホワイトボードに書き込み、カテゴリー分けして、軸で切って、統合して、みたいなことをしてました。論理的な正しさを担保することで、成功の確率を少しでも上げたかったんですね。ただ、いま振り返ると殆ど効果はありませんでした。

というのも、スタートアップの成果物は抜け目のない完璧なロジックでも、素晴らしい事業戦略でもなく、顧客がお金を払ってくれる価値あるサービスだけです。

いくら机上で素晴らしくても、実際にお客さんが全く反応しないことは往々にしてあります。まずは行動、そして行動、それでも行動。アクションして得た学びを次のアクションに繋げていくループを回し続ける事だけがスタートアップとして生きる道なのだなーと日々実感します(勿論、その過程で最低限のロジックは必要ですが)


家事育児:言わなくても、やってよ

家事育児にはロジックは通用しません。立場や役割(夫や外で働いている)も通用しません。むやみやたらとアクション(洗濯や掃除や皿洗い)しても、失敗すると怒られます。言われる前に何を求められているのかを察知し、先回りして考え、丁寧に、そして確実に実行しましょう。ここに正解はありませんし、ウエイトリフティングとクレーン射撃ぐらい筋肉が違います。私もまだ全然分かりません。勉強中。


まとめ

私自身、就職するときには「社会人としての実力を身に着けたい」「事業を興し、会社を経営する力をつけたい」と思っていました。当時、その力は、論理的思考力、MBAで習うような経営知識(ファイナンス、マーケティング、マネジメント等)、ビジネスのユースケース等だと信じていました。それらを必死に勉強した結果、確かに無駄ではありませんでしたが、いま実際にスタートアップを経営していると、もっと重要なスキルや力があると感じています。

それは、心から実現したい世界を描き、信頼と尊敬できる仲間を巻き込み、情熱と夢をもって行動を続け、何があっても絶対にあきらめない。そんな青臭い、泥臭いことの方がよっぽど重要だと日々感じます。

確かに生きる世界によって使う筋肉は違います。素晴らしい陸上選手が素晴らしいカーリング選手にはなれないし、素晴らしいバスケットボール選手が素晴らしい馬術の選手になれないように、必要な筋肉は全く違います。でも、基礎的な体の使い方は一緒だし、どの筋肉が良いという優劣があるわけでもありません。

重要なのは、いまの自分の状況を楽しむ事。その世界での学びを吸収しながら、柔軟に生きるしなやかさが大切だなーと感じます。

おしまい

QUANDO CEO。九州工業大学 客員准教授。建設設備会社瀬登 取締役。地方でのスタートアップ、事業承継、大学発ベンチャーについて書いていきます。