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君は全裸で人に指示を出したことがあるか

そんなことしたら犯罪である。


わかっとる。

がしかし、そんな事が起こった。

先日久々に絵のモデルをして、
展覧会に出品されたので拝見しに伺った。
絵のモデルをしたのは至極久々だった。

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学生時代に、芸大生と付き合っていた私は、
裸婦モデルのバイトは、
半年やったら半年海外で遊べるらしい
と聞いて、
やりたい!と思った。
裸になることになんの抵抗もないのである。

おそらく、ものすごくボイン(死語)だとか、
くびれが綺麗とか、
そういう事から縁遠い、
どちらかと言うとマッチ棒のような容姿だったので、逆にどうでもよかったのだ。

そしてうちの父も子供の頃から裸婦スケッチなどを絵画教室でしていたらしく、

実家で裸婦モデルをやる!と言っても、
ああ、いいんじゃない。

みたいなサラッとした反応だった。

当時私は、大学を卒業し、
劇団の養成所を退所し、
貪欲なフリーランス貧乏役者で、
(なんか書いてみるとひどい肩書きだな)
払いのいいバイトは願ったり叶ったりだった。
裸婦モデルの初仕事は、
美術大学の一年生のクラスだった。
当時24,5歳だった私と、
浪人したとて20歳くらいの1年生。
しかも初の裸婦スケッチのクラス。

彼らは描きたかった。


モデルは20分1セットでポーズを取っては、5分休憩、みたいな感じで4回くらいポーズをしていくのだが、
すぐに脱げるように控室でワンピースに下はパンツ一丁みたいな格好になり、なるべく下着の跡がつかないようにして、担当する教室へキャンパス内を移動する。
(今思えばこれだけでも中々の景色だったのだろうか。)

話は戻る。
彼らは描きたかった。


教室に入ると、キラキラした瞳で迎えられ、
休憩時間も彼らは手先や足先を盗み見ては描き続けていた。
5月の雨の寒い日で、
全裸のモデル用に灯油ストーブが焚かれていた。
そして私は、
まさかの全裸で人に指示を出すことになった。
少し背後が暖かいを通り越してきてるかな、
そんな感覚になったその時。
女子学生の弱々しい声が上がったのだ。
『燃えちゃう…!』
え?何が?私が?

そう思って背後を見ると、
ストーブの炎が私の背丈(150センチ)くらいまでストーブを超越して燃え盛っていた。
そう、
彼女は紙が燃えちゃうんじゃないか

と、思わず心の声が漏れたのだった。
連鎖するようにザワッとする教室。
教授は5クラスくらい同時に見ていてここには居ない。

助教授がさっきストーブ付けてたな。

そして彼らは
ピカピカの1年生なのだ。
怯えるばかりで硬直していた。
何十枚もの紙たちと、キャンプファイヤー並の丈に燃え盛るストーブと、呆然としている生徒たち。
仕方なく私は、全裸で指示を出した。

「一旦止めます。私ワンピース着るんで、窓側の人、窓開けて換気しよう。
あ、あなた、助教授呼んできて。」

一見しっかりした指示を出しているが、忘れないでほしい。

私は全裸だ。


その後、ストーブは回収され、代用品が置かれ、バイトは無事に終了した。私のお尻も焦げなかった。
このシュールさは何年経っても新鮮な記憶として蘇ってしまう。
いつか同じ昔話をするおばあちゃんになった時に繰り返すべきではないネタなので、
ここに記して話し納めにしようと思う。

※ちなみにヘッダーの写真はかの有名なミケランジェロ作・ダビデ像である。わたしのではないのでご安心を。

#アルバイトの思い出

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