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【この神秘性は色褪せない】映画『ミツバチのささやき』感想

土曜日に映画館で『ミツバチのささやき』を観た。
『ミツバチのささやき』は今から50年も前に公開されたスペインの映画だ。映画好きの間では「生涯の1本」として選んでる人もいるほど名作として名高い作品でもある。

監督はスペイン出身のビクトル・エリセ。
この監督、とても寡作な方で1969年の長編デビュー作から2023年までに長編は3本しか撮っていない。

その監督の31年ぶりの新作『瞳をとじて』が2月9日に公開された。その公開に合わせて『ミツバチのささやき』もリバイバル公開されているのだ。

鑑賞したのは2伏見ミリオン座の2月10日の12時40分の回。1日1回上映ということもあってお客さんは入りは7割程度と多め。男女比も半々くらいだったかな。

劇場での鑑賞は初めてになるがDVDではこれまでに何回か観ている。

鑑賞するたびに実感するのは映像の力強さ。

何もない荒野に建つ空き家
風が吹きすさぶ丘の上に佇むアナとイザベル
ミツバチの巣を思わせるアナの家のガラス窓と差し込むオレンジの光…
作品を思い返す時、脳裏に浮かぶのはこうした一枚画になる場面。

ただ美しいだけじゃない。スクリーンに映る情景は心の琴線を揺さぶる。
まさに"映像詩"と呼ぶのに相応しい。

トップ画にも使われたアナの絵もそうだけど、この列車の場面なんかももう一枚の絵なんだよね。絵から物語を想像させる…

素晴らしい映像に加え、本作を唯一無二のものしているのがアナ・トレントの存在。引き込まれそうになる黒目がちの目と純粋無垢な佇まい。

この映画はビクトル・エリセの映画でありアナ・トレントの映画。そう呼んでも過言ではないくらい物語の一部となっている。

撮影当時、まだ5歳だったアナだが本作によって映画史に残る伝説となった。

撮影当時、本当にアナはフランケンシュタインと会ったと錯覚したそうでそうした体験も物語によりリアリティを与えているのかもしれない。

現実と空想が入り混じる幻想的な物語は、映像とアナによって他にはない神秘的な雰囲気を放つ。そして半世紀が経った今もその神秘性は損なわれていない。きっとこの先も色褪せることはないだろう。

ビクトル・エリセは作品の持つ空気感も神秘性も琥珀のように閉じ込めて永遠のものにした。まさに映画に魔法を掛けたかのように。

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