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たまらなく愛おしい映画『バッファロー’66』について

現在ホワイトシネクイントで開催されている『"90年代×映画"ムビフェス』

これは9月4日公開の『mid90s』(ジョナ・ヒル監督)の公開に合わせて、90年代カルチャーを感じられる作品(『バッファロー’66』、『KIDS』)をリバイバル上映するイベントだ。

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第一弾作品として『バッファロー’66』が上映された(8/21~8/27)ので、8月27日の21:00~の回に観に行ってきました。

バッファロー66③
劇場は満席、ロビーでは『バッファロー’66』の当時のチラシを紹介するなど特集が組まれており、当時を思い出し、懐かしい気持ちにもさせられた。

『バッファロー’66』を初めて観たのはDVDだったが、その世界観に魅了され大好きな作品だ。今回、初めてスクリーンで観たが改めてその面白さに感動させられた。

そこで今回は自分が思う『バッファロー’66』の魅力について語っていきたい。

作品情報:『バッファロー’66』

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製作年:1999年 製作国:アメリカ 監督:ヴィンセント・ギャロ

あらすじ:5年の刑期を経て出所してきたビリー。地元に戻ってきたが、両親には仕事で遠くに行き、彼女とも結婚したと偽っていた彼は、実家に戻るために、偶然出会った女性、レイラを誘拐し、彼女に自分の奥さんを演じることを強制するのだったが…

【『バッファロー’66』の4つの魅力】

90年代を代表するインディーズ映画『バッファロー’66』。
ここでは作品の魅力を4つに分けて語っていきたいと思う。

魅力①:ビリーの駄目人間っぷりが愛おしい

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とにかくビリーは駄目人間だ。

物語はビリーが刑務所から出所する場面から始まるがそこからして面白い。冒頭20分くらいは、尿意をもよおしたビリーが用を足す場所を求め延々と彷徨う様子が描かれる。

それ自体が奇妙で可笑しいのだが、この一連の場面で何となくビリーの人間性が見えてくる。

その後もクリスティーナ・リッチ演じるレイラを誘拐したり(その理由も両親に彼女がいると嘘をついているから)、レイラに「うまくできたら親友になってやる」やハグを求めたレイラに対して「駄目だ、握手で我慢しろ」と、言ってることが微妙にズレている。

怒りやすい反面、妙にナイーブだし近くにいたら絶対に近づきたくないタイプだが、物語が進むにつれビリーの切なすぎる人生(実の親に「生まなきゃ良かった」言われたり、昔好きだった女性と再会する場面はキツイ)や、純粋過ぎるゆえの不器用さが見えてくる。
(劇中に登場するビリーの両親のモデルはギャロの両親がモデルになっているらしい)。

最初は引いて観ていた筈なのに、いつのまにかビリーの駄目っぷりを愛おしく思えてくるという不思議。

本作の魅力の一つは、このビリーのキャラクターにあるといえる。

魅力②:まさに天使なクリスティーナ・リッチとの不器用な恋愛劇が微笑ましい

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2つ目の魅力がビリーとレイラの不器用な恋愛劇。
日本版の「最悪の俺に、とびっきりの天使がやってきた」というキャッチコピが的を得てる。

なにせ出会いが誘拐という最悪な出会いなのに、何故かレイラはビリーに献身的に尽くしてくれる(この行為を「ストックホルム症候群」という人もいる)。

積極的なレイラに対し、ビリーは上記で挙げたような性格のため(女性経験もない)、不器用な恋愛劇が繰り広げられることになる。

本作は「人生に絶望した男が自分を愛してくれる人の存在に気付く=どんな人生でも自分を肯定してくれる人がいてくれたら人生を生きていけることに気付く」物語だ。

今まで愛されてきたことがなかった男が愛に気付く物語と言い換えてもいい。

劇中ではラブラブな2人だが実際の2人は撮影当時、仲が悪かったというのも微笑ましいエピソード(ヴィンセント・ギャロが役に入りきっていたためにクリスティーナ・リッチに冷たく当たったっとのこと)。

本作の魅力③:こだわり抜かれた構図とフィルムがまるで画のよう

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今回、スクリーンで観て改めて気付かされたのが画の美しさ。

どの場面を切り取ってもポストカードになるくらい画になっている。
理由はいくつかある。1つは本作の撮影監督が、『かいじゅうたちのいるところ』(2010年)、『her 世界でひとつの彼女』(2014年)で知られるスパイク・ジョーンズ監督作品の常連ランス・アコードがつとめていること。

2つ目は、ヴィンセント・ギャロの画家という経歴である。
画家として活動してきただけにギャロ自身、構図には物凄くこだわったとのこと。本作の構図や色味も全てギャロが決めている。

3つ目がフィルムへのこだわり具合。
ざらついた映像が印象的だが、これは「リバーサルフィルム」と呼ばれるフィルムを使用しているかららしい。

リバーサルフィルムは、写真がそのまま映りこんだこむフィルムらしく別名スライドフィルムらしい。(詳しくはこちらのサイト参照)

1度撮ったら後で色補正などができないため使いづらいらしいが、敢えてこのフィルムを使用している所にギャロのこだわりを強く感じる。

本作の魅力④:ヴィンセント・ギャロの音楽センスと演出が素晴らしい

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本作で使用されている楽曲は、ほとんどがギャロ自身が手掛けている(オープニングもギャロ本人が歌っている)。
ここにも音楽家として活躍するギャロのこだわりが見えてくる。

実は本作はミュージカル作品だとギャロは語っている。

確かに劇中ではビリーの父親が歌ったりするし、ボーリング場でのレイラが『Moonchild』に合わせてタップダンスを踊る場面は特に印象的。

個人的に最も本作でテンションが上がるのが、終盤のビリーがストリップクラブでスコットを殺そうとする場面。

イエスの『HEART OF SUNRISE』が流れる一連の流れは、この場面だけでも本作を観る価値があるといえる格好良さ!!

そしてギャロの演出もとても面白い。
ビリーの家で家族と話す場面のカメラワークが凝っているし、ビリーが回想する場面では、いくつもの過去の思い出がコラージュのように画面に出てくるという演出もしている(しかもこの演出、ストリップクラブでは、ビリーの妄想として逆転するという仕掛けになっている)。

久しぶりに観返したが、こうした演出にもギャロのセンスとこだわりを感じる事ができる。

【監督ヴィンセント・ギャロを改めて振り返る】

ここでは、監督のヴィンセント・ギャロがどんな人物か改めて振り返っていきたい。ギャロの意外な経歴や日本との繋がりが見えてくるぞ。

画家にバンドにパフォーマー…まさにマルチな才能ともいうべき経歴

ヴィンセント・ギャロの経歴はとにかく驚かされる事が多い。
ギャロ自身は1962年のアメリカ、ニューヨーク州バッファロー生まれだ。
16歳の時に家を出てニューヨークへ移り、そこでアーティストのジャン=ミシェル・バスキアと『GRAY(グレイ)』という音楽グループを結成して活動を始める。

バスキアといえば、日本でも個展が開かれたり、映画化されたり、ZOZO創業者の前澤友作さんが約123億円で絵画を落札して話題にもなった。そんな人物とバンドを組んでいた時期があったということに驚いた。

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『GRAY』を脱退後、別のバンドを結成したギャロはその後ストリートパフォーマンスも行うようになる。そのパフォーマンスをきっかけに俳優として映画にも出演するようになるのである。

ギャロは画家としても有名で、これまでに何十回も個展を開いており日本でも個展を開催している。
バンドにパフォーマンスに俳優に画家、これだけでも充分に凄いと思うのだが、ギャロは更にオートバイライダーとしてプロのレベルにまで達しているというのだから驚きだ。

さらにギャロは映画を作るときも、エージョエントやマネージョーなどは一切使わず、配給・営業にも手掛けている(ギャロの映画の予告編やポスターも彼自身が手掛けている)。

まさに多才と言える才能の人物で世界広しといえど、ここまでマルチに活躍している人物はいないのではないだろうか。

L'Arc〜en〜CielのMVを撮ったことも!日本との意外な繋がりも

ヴィンセント・ギャロと日本との関係性も意外に深い。
1999年にはPARCOのTVCMにも出演しているし、2000年にはTOYOTAのニューセリカの短編映画やL'Arc〜en〜Cielの『Anemone』のPVも製作している。

俳優としても阪本順治監督の『人類資金』(2013年)に出演しているなど、日本との関わりが多い事に驚かされる。

ヴィンセント・ギャロの新作情報は?

ヴィンセント・ギャロの監督作は『バッファロー'66 』(1998年)、『ブラウン・バニー 』(2003年)、そして『Promises Written in Water(原題)』(2010年)がある。『バッファロー'66 』と『ブラウン・バニー』はソフト、配信等で観る事ができるが(下記リンク参照)、『Promises Written in Water(原題)』に関しては日本の環境では観れない状態となっている。

『Promises Written in Water(原題)』も評論家には酷評されてるようだが、個人的には何とか観てみたい作品である。ここ最近は特に監督作の情報は出ていないが個人的に新作を観てみたい。

【まとめ】

という事で、いかがだっただろうか。
『バッファロー’66』、自分の青春時代に観たからこその思い出補正もあるかもしれないが、やはり今見ると改めて素晴らしい作品だと感じた。

観た方もまだ観てなくて興味ある方も是非ぜひ観てみて欲しい!

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