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映画『カツベン!』を観て、今の日本映画のルーツを考えた。

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12月13日(金)から公開される映画『カツベン!』
明治の日本、まだ映画が白黒サイレントだった頃に一世を風靡した活動弁士。
そんな活動弁士に憧れる若者の恋と冒険を描いた物語。
監督は、『Shall We ダンス?』(96年)『それでも僕はやってない』(06年)の周防正行。前作の『舞妓はレディ』(14年)から実に五年振りの新作となる。

筆者は、試写会でこの作品を拝見したが、古き良き日本映画を思い出すと共に、日本映画の方向性についても思いをよぎらす作品だった。

映画の題材となっているのが、「活動弁士」という存在。
この「活動弁士」、名前を聞くのも初めてという方が多いかもしれないが、どういう存在かというと、

映画にまだ音がなかった時代、登場する人物の台詞に声をあて、また物語を説明した人の事である。

映画の元祖と言われるキネトスコープ(かのエジソンが発明した)が日本にきたのが、1896年(明治29年)。
これが日本の「映画のはじまり」ともいわれている。このキネトスコープの口上役として、最初に雇われた上田布袋軒が、活動弁士の元祖と呼ばれている。

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その後、リュミエール兄弟が、スクリーンに投影するという、現在に通じる映画の形式を生み出すと、「活動写真」として、日本でも瞬く間に広がった。それに伴い、各館に専属の活動弁士がつくようになった。

ここで面白いのは、活動弁士という存在は、日本独自の存在だという事。
こうした「口上役」をつけるという上映方式は、アメリカにもヨーロッパにも存在しない日本独自の上映形式である。
これを知って、筆者が思ったのは、今の日本映画の特徴でもある。
日本映画の良くも悪くも特徴として挙げられるのが、説明描写が多い事だ。
今、何をしてどういう状況なのか、自分はどういう気持ちで何を思っているのか、日本映画ではこうした事を大っぴらに話す場面がある。時に不自然な程に。
これは観客に状況を説明しようとする、製作サイドの意図が働くものであろうが、こうした日本映画の悪しき?風習は思えば、この時代から培われてきたのだろうか。
活動弁士の存在を知った時は、筆者はそんな事を思ってしまった。

ちなみに活動弁士だが、最盛期は8000人近くも存在したというのだから驚きである。
また最も人気だった活動弁士に至っては、総理大臣と同等の収入を得ていたとか…しかし、映画のトーキー化(音付き上映)により、活動弁士達も徐々に減っていったそう。

ちなみに、現在も数は少ないが活躍している活動弁士達もいる。
沢登翠、片岡一郎、山崎バニラなど、全国津々浦々で活動を展開しているとの事。
筆者はまだ、生のカツベン!を聞いたことはないが、『カツベン!』の公開に伴い、活動弁士の公演が増えているとの情報も目にする。もし興味ある方はいってみるのもありだろう。

【映画は、お正月にこそ相応しい極上活劇だった】

それでは、肝心の映画の内容はどうだったかというと、これもお正月映画と呼ぶに相応しい素晴らしい作品だったので、是非お薦めしたい
物語は、活弁士に憧れる俊太郎の恋と冒険を描いているのだが、本当に笑いあり、涙あり、アクションありとエンターテイメントに徹している!
時代性も相まって、ドタバタ劇なのにどこか牧歌的なのが、これまた良い。無声映画にオマージュを捧げたというだけあって、活劇と呼ぶ方がしっくりくる。この古き良き感じもお正月映画という枠に相応しいと感じた。

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キャストも主人公の俊太郎を演じるのは、日本アカデミー賞新人俳優賞受賞の実績を持つ成田凌。ヒロインは新進気鋭の若手女優、黒島結菜。そこに永瀬正敏、竹野内豊、高良健吾、井上真央などの豪華俳優陣が脇を固めるだけではなく、竹中直人、渡辺えりなどの周防作品お馴染みメンバーも顔を揃えている。
また観てる時は気付かなかったのだが、実は劇中で上映される無声映画に出てる俳優さんも何気に豪華と。
これまたお正月のおせち料理みたいな豪華仕様。

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筆者は、この映画を見終わった時、「年明けの一本目に観たいななぁ」と思ってしまった。
年明け早々から、重たすぎる作品はあまり…だし、だからといって、つまらない作品は観たくない。
ドキドキして、笑えて、楽しめて、こういう作品こそお正月映画に相応しいと思う。
という訳で、来年の一本目に再び『カツベン!』を観ようか検討している次第である。
映画『カツベン!』、個人的に観るなら、お正月の一本目をお薦めするぞ!!

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