【日常という名の幸せを】映画『枯れ葉』感想
フィンランドのヘルシンキを舞台に、生活に困窮しながらも生きる男女のすれ違いの恋を描いた映画『枯れ葉』。監督はフィンランドの名匠アキ・カウリスマキ。
主演は『TOVE トーベ』のアルマ・ポウスティ。『アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場』のユッシ・バタネン。共演に『街のあかり』のヤンネ・フーティアイネン、『希望のかなた』のヌップ・コイブが名を連ねる。
アキ・カウリスマキは自分のベスト3に入るくらい好きな監督だ。
だから引退撤回と新作発表の知らせを知った時は本当に嬉しかった。嬉しすぎてこんな記事も挙げてしまうくらい。
そして待ちにまった日本公開。
公開自体は去年の12月13日だが、地方あるあるで愛知は今年に入ってから。他の方の感想を見ては余計待ち遠しい気持ちになっていた。
愛知での公開は1月12日から。
早速、12日の仕事終わりにミッドランドスクエアシネマ2で鑑賞してきた。初日ということで入りは99席の席数に対して9割くらい。多くの人が観にきていた。
男女半々で年齢もさまざま。カウリスマキが多くの人に愛されてることが実感させてくれた。
【感想】
良すぎた…
『マッドマックス』を観た後の興奮でも『ラ・ラ・ランド』を観たときのような高揚感とも違う心にじわじわ広がる満足感。
劇場を出た後も幸せな余韻が続く。「ああ、良い映画だったなぁ」と心の中で何度もつぶやいた。
今作もカウリスマキワールドは健在。カウリスマキは作風が一貫しているところも良い。
カウリスマキ作品の魅力というと、言葉少なく表情も変えない素朴な人々と彼らが織りなすシュールでありユニークな物語といったところだろうか。
気取らない、飾らない、物語もシンプル、なのに強烈に引き付けられる。
以前、知り合いが言ってた「カウリスマキは何を撮ってもカウリスマキと分かるだろう。それぐらい強烈な個性がある」という言葉通りなんだろう(その人は自身も映画を撮っているので自分もそういう監督を目指したいとも言っていた)。
カウリスマキの映画には抗いがたい魅力があるのた。
今作の舞台は現代のフィンランド。主人公はスーパーで勤務するアンサと工事現場で働くホラッパ。
カウリスマキは勝者や成功者を描かない。
彼の作品の主人公は日々の生活にいそしむ労働者だったり異国の地で苦しむ移民だったりと、社会的に弱者の側であることがほとんど。
成功者や勝者の物語を描くハリウッド映画的なカタルシスとは無縁の物語だ。
今作の2人の主人公もどちらも決して裕福な暮らしとはいえない。ホラッパはトレーラーで集団生活をしているしアンサは映画が始まってすぐにスーパーをクビになる。
カウリスマキは、こうした私たちと同じ市井の人々の物語を見つめる。
そしてその視点には見下しも嘲りもない。必ず監督の優しさが感じられる。
だから自分はカウリスマキの作品が好きなんだと思う。
上述の通り、カウリスマキは題材こそ違えど作風は一貫してるので、乱暴に言えばどの作品から見ても同じといえる(ただしドキュメンタリーは違う)。
そんなカウリスマキ作品で必ずといって良いほどで出てくるのが「お酒×タバコ×音楽」。
この3つはカウリスマキ作品を構成するアイテムだが、今作はそれぞれの要素がいつも以上に活かされてると感じた。その中でも特に歌が印象的。
酒場でお酒を飲んでいる時もそうだし、2人が喧嘩して分かれた時もそう。歌が物語を代弁するかのような役割を担っているように感じた。
※劇中で使用された曲、Youtubeに挙がっている(本人たちのアカウントより)ので気になった方はどうぞ。
本作は男女のすれ違いの恋愛劇がメインだが、自分が一番グッとときたのは、序盤のスーパーをクビになる場面で見せる女同士の連帯感。
誰も生活は楽ではない筈だろうに自分たちが正しいと思うことは曲げない。この場面格好良かったなぁ。
カウリスマキ作品に登場するキャラクターってこういう「武士は食わねど高楊枝」というか、貧しくても自分たちに誇りをもっている人たちが出てくるのも良いんだよね。
後、人情がある登場人物も多い(看護師とかバーの店員とか)。
もう一つ印象的なのが劇中に何度も登場するラジオ。
戦争のニュースは、この物語が自分たちの世界の延長線上にあることを思い出させる。
戦争ではなくとも日本も年明けから不幸な出来事が連続している。こういう状況だからこそ普通の日常を過ごせることがどれだけ幸せなのかも感じさせられる。
ということで『枯れ葉』。気になった人は是非チェックしてみてね!!
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