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【寝取られ願望を抱くのは男だけ?】映画『月光の囁き』を観て思うこと

『害虫』(2002年)、『さよならくちびる』(2019年)の塩田明彦監督の最新作『麻希のいる世界』。1月29日から公開に合わせて、塩田監督の劇場デビュー作『月光の囁き』が現在リバイバル上映をしている。

未見の作品だったが、友人に誘われて観に行ってきたので、この記事では、映画の感想と思ったことを記しておきたい。

1999年製作/100分/R15+/日本

あらすじ:高校生の拓也は幼馴染の紗月と念願かなって付き合うことになる。だが、拓也には人にいえない秘密があり、ふとしたことで紗月に秘密がバレてしまう。そのことをキッカケに2人の関係はどんどんおかしなことになっていき…

原作は喜国雅彦の同名漫画。ちなみに『月光の囁き』というタイトルの由来は、谷崎潤一郎が映画化を企画した(頓挫した)脚本の名前からきている。(物語的には関係がないとのこと)
これが喜国先生が谷崎潤一郎のファンで、谷崎の世界観を目指して描いたかららしい。

今回、前情報を入れずに観たのだが、これがなかなか凄い。収集癖、盗聴、SM…いわゆる性的嗜好を題材にしているが、けっこう過激で変態的。
今でこそ、こういうジャンルも多くなったが、原作が連載していた90年代では、かなりセンセーショナルな内容だったのではないだろうか。劇中のハイライトにもなっている「寝取られ」なんて、今でこそジャンル化したが、時代を先取りしているようにすら感じられる。

性的嗜好マイノリティによる悲喜劇ともいえる本作。まるで昼ドラみたいにドロドロした展開が続くのに鑑賞後は不思議なほど爽やかなのが印象的。

理由の一つは、主演2人の瑞々しさ。紗月役のつぐみさんの可憐さと色気が素晴らしい。他の作品でもそうだが、塩田監督がピンク映画の出身ということもあって、女性を魅力的に撮るのが本当上手い。

拓也役を演じた水橋研二さんは、仔犬のような眼と佇まいが良い。新海誠監督の『秒速5センチメートル』(2007年)で、主人公の声を担当しているが、透き通るような声が少年的で特に良い。やってることは、変態的なのに純真さが勝っている。

2人が高校生というのも、本作が過激でありながら、ピュアなラブストーリーとして成立している大きな理由だ。

もう一つは主題歌。本作ではスピッツの『運命の人』が主題歌として使用されているのだが、この曲が映画の終わりに流れることで、本作を一気に爽やかな雰囲気に変えている。スピッツ恐るべし。歌詞も本作の内容と合っているし、本作とベストマッチな楽曲だ。

ちなみに自分が観たのは、上映終了後に塩田明彦監督と原作者の喜国雅彦さんのトークイベントのある回だった。その内容もとても面白かったので、そちらも記事の一番下に記しておきたい。

さて、この作品のことを考える内に、ある疑問が湧いてきた。
寝取られ、NTR(寝取られの略称)という単語自体はこれまで目にしてきたが、使われているのは、男性の性的嗜好として扱われている場面でのみだ。

果たして、寝取られ願望を抱いているのは男性だけなのだろうか?そして、それが男性だけのものならその性差は何なのか?

※以降は、しばらく映画に関係ない話が続きます。興味ある人だけどうぞ。

そもそも「寝取られ」とは何なのだろう?まず、言葉の意味から調べてみた。

寝取られ(ねとられ)とは:辞書的な定義では、動詞「寝取る」の受動形を名詞化した単語である。性用語としては基本的に、自分の好きな人が他の者と性的関係になる状況に性的興奮を覚える嗜好の人に向けたフィクションなどの創造物のジャンル名を指す。NTRとも表記される

Wikipedia参照

ここでの性的興奮とは要は精神的マゾヒズムを意味してるのだろう。マゾヒズム自体は男女共通のものだ。なのに寝取られは男性特有のものなのだろうか?

次に、その成り立ちを調べてみると、寝取られの要素を含む作品自体は、世界各国で神話が作られてる時代には、すでに存在しているらしいことが分かった。
自分が見たサイトでは、それこそ谷崎潤一郎の『鍵』(1956年)や、マゾッホの『毛皮を着たヴィーナス』(1871年)などの文学作品などか例に挙げていた。

面白いのは、フランスでは「寝取られ男」を表す言葉が存在しており、そういう男を主人公にした作品をコキュ文学 (cocue)と呼ぶらしい。 フランスでは、寝取られ男を描いた文学や演劇などが数多くあるとのこと。ただ、これは主に寝取られ男の滑稽さを描いたものであり、精神的マゾヒズムのものとは異なるらしい。しかし、こんな言葉があること自体、さすが愛の国フランスといったところか。

ただ、いずれにしても共通しているのはどれも男性作家による作品ということだ。では、女性はどうなのだろう?筆者が調べたサイトでは、平安時代の作家・歌人、紫式部によって書かれた、長編小説『源氏物語』に登場する“女三の宮”のエピソードに寝取られ要素があると書いてある。だが、筆者の見解でいうと、主人公の光源氏自体が寝取りに近い事を行っているし、あくまで男性目線ここでいう寝取られとは違うと思う。

ネットで『寝取られ 女性』で検索してみると、ほとんどアダルトサイトがヒットし、文学作品とかは上がってこない。だが、アダルトサイト以外で寝取られ相談をしているサイトは見かけたので、男性よりに比べて圧倒的に少ないが存在はしていることは分かった。

では、何故男性に比べて女性が少ないのか?その理由としては、そもそも寝取られ作品自体が男性向けのアダルトジャンルであることも挙げられる。また、男性目線で見ると、自分の知らない相手の淫らな姿が見えるという点で楽しめるかもしれないが、女性目線で見ても感情移入はしづらいのではないだろうかと推察できる。

結果、自分で調べた限りでは「寝取られ願望を抱いているのは男性だけなのだろうか?」という謎に対しては、「男性に比べると圧倒的に少ないが存在はしている」ということが分かった。
もし、こうした寝取りの男女関係に関しては調べている方、もしくは思う方がいたらコメント等で是非共有して欲しい。

だいぶ脱線したが、最後に話を映画に戻したい。

劇中の雨や汗、田んぼの匂いまで感じれるような映像も凄く良かった。最後、エンドロール後の「1999年製作」という文字に不思議と納得してしまった。空気感や雰囲気が、まさにあの年代の映画。

正直、登場人物達には共感はできないけど、話の展開が気になって最後まで引き込まれた。『月光の囁き』は2月16日まで新宿武蔵野館で公開している。

残り日数は少ないが、本作はソフトがプレミアム価格が付いている&配信がない、何より劇場で観れる貴重な機会なので、興味を持ったは是非チェックして見て欲しい。

【塩田明彦監督と喜国雅彦さんによるトークイベント】

上映後塩田明彦監督と原作者の喜国雅彦さんのトークイベント。なかなか面白かったので、その内容の一部を共有します。個人的には田んぼのシーンが一発撮りなのに驚いた。

左:塩田明彦監督
右:原作者の喜国雅彦さん

・田んぼで、紗月が靴下を投げるシーンは、本当は何カットか撮りたかったけど、スケジュールの都合上1発撮りになってしまったとのこと。

・原作のコミックはSMクラブにSM嬢の教科書代わりに置いてあるお店が多いらしい

・スピッツの曲を使ったのは、塩田監督が製作中にスピッツのアルバムを聴いていたことから。お金が無かったために、スピッツ側に直筆の手紙で楽曲使用の許可を得たところ、了承を得られたとのこと。

・作品完成後、スピッツのメンバーを試写に招待したところ、終わった後に草野さんがニヤニヤしながら「面白かった」と言ってくれた。

【参考にした記事一覧】

寝取られについて調べたサイト。特にWikipediaはかなり寝取られの起源や歴史について書かれているので、全体を知るのに参考になる。

寝取られの略『NTR』という言葉の起源に関して調べている、ちゆ12歳様の記事。もはや研究と呼んでもいいくらいのレベル…興味持った方はこちらも是非読んでみて欲しい。

『蹴りたい背中』(2003年)、『勝手にふるえてろ』(2010年)の綿矢りさ先生は、好きな映画に『月光の囁き』を挙げているのが興味深い。マゾの描き方について言及しているけど、寝取られとかはどう思っているんだろう。綿矢先生は塩田監督作品が好きとのこと。


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