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【台湾興行収入No.1】『返校 言葉が消えた日』感想【社会派エンターテイメント】

7月30日から公開されている映画『返校 言葉が消えた日』。60年代の台湾を舞台に、学校に閉じ込められてしまった少女と少年の謎を巡るダークミステリーだ。台湾では社会現象にもなったゲームが原作となっている本作、筆者もTOHOシネマズシャンテで鑑賞してきたので、その感想を記しておきたい。

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あらすじ:中国国民党が台頭し、反体制に対し厳しい弾圧がされていた時代の台湾。女子高生のファンが目を覚ますと、そこは誰もいない真夜中の学校だった。途中で出会った後輩の男子高校生ウェイとともに学校を出ようとするファンだったが、学校から出ることはできなくなっていた。
なぜ自分がここにいるのか?そして学校から脱出するにはどうしたらいいのか?2人は学校を探索し始める…

本作は、台湾の赤燭遊戲(Red Candle Games)が2017年に配信したホラーゲームがベースとなっている。映画は2019年度の台湾映画市場でNo.1大ヒットを記録し、中国語映画のアカデミー賞とされる金馬奨では、12部門ノミネートと最優秀新人監督賞を含む最多5部門を受賞するという、かなりの話題となった作品だ。

本作の監督をつとめたのは、テレビ映画やVR短編作品などで国内外から高い評価を得ているジョン・スー。今作が長編映画デビュー作となる。主演のファンを演じたのは、14歳で小説を出版したという驚きの経歴をもつワン・ジン。後輩のウェイ役は、数万人のオーディションを勝ち抜き今作が映画デビュー作となるツォン・ジンファがつとめている。

本作の特徴として挙げられるのが、台湾の暗黒の歴史とも言われる『白色テロ』を題材としているということ。(白色テロについては下記参照)

白色テロ:二・二六事件以降の戒厳令下のもと、行われた中国国民党政府による反体制派に対する政治的弾圧。1947年から1987年までの40年間の期間を指し、投獄者は140,000名程度、うち3,000名から4,000名が処刑されている。具体的には中国国民党に対し、反抗的かその恐れのある内容を含んだ政治活動や言論の自由の制限、また市民同士による密告なども相次いだ。

『非情城市』(1989)や『クー嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』(1991)など、白色テロを題材にした作品はこれまでもあったが、どちらも社会派としての要素が強い作品となっていた。今作の『返校』がこれまでの作品と違うのは、社会派の題材を扱いながらも、きちんとエンターテイメント作品へ落とし込んでいるという点。

ジョン・スー監督は、映画化にあたり原作ゲームの政治的&歴史的な面により焦点を当てたと語っている。それだけなら社会派要素だけが強い作品となりそうなところだろう。だが、本作では謎解き要素や、お化け屋敷要素など、本編の至る所に観客を楽しませる要素も散りばめられているのだ。

社会派要素を含みながら、広い層が楽しめる作品となっている。これが台湾で興行収入No.1となった理由の一つと言えるだろう。

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そして、本作のもう一つの魅力は、非常によく練られたシナリオ。
ミステリーを主軸に、登場人物達の様々な思惑が絡み合い悲劇が起こる。特筆すべきは、白色テロという時代を通じて描かれる、人間の怖さ、愚かさや悲しさ。恐らく、ベースとなった原作ゲームのシナリオが素晴らしいのだろうが見応えは充分だ。鑑賞後に改めて作品を振り返ると、世界観や設定に感心させられてしまった。ビジュアルや予告編の印象と違い、怖いというよりは切ない気持ちにさせられた。

ということで『返校 言葉が消えた日』。作品として面白いだけでなく、台湾の歴史にも触れられる作品。気になった人は是非チェックして見て欲しい。

※ちなみに台湾では興行収入1位を獲得するほど話題となった本作だが、中国では上映禁止、映画に対する言及もウェブサイトから全て削除されてるとか。そちらの方が、本作よりもよっぽどホラーかと。



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