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しくじり監督ジョッシュ・トランクと傑作映画『クロニクル』について

先日、こんな見出しの記事を見かけた。【ジョシュ・トランクが『ファンタスティック・フォー』の失敗を振り返る――ジェームズ・ガン監督に対して(一瞬)苦々しく感じたことも】(IGN Japan様の記事参照)

ジョッシュトランク本人①


ジョッシュ・トランクといえば、大傑作『クロニクル』を世に出した事で、一躍有名になった監督だ。その後、『ファンタスティックフォー』のリブート、スターウォーズの監督に大抜擢されるなど、一時期は、まさにスターダム街道まっしぐらだった。だが、『ファンタスティックフォー』が大コケ・酷評となった事で急転直下。長らく表舞台では姿を見ていなかった。

そこで今回は、ジョッシュ・トランク監督のデビュー作の『クロニクル』の作品レビューと稀代の酷評作品『ファンタスティックフォー』は製作裏で何があったのか?そしてジョッシュ・トランクの現在について書いていこうと思う。興味ある方は是非読んで欲しい。

作品紹介:【クロニクル】~あらすじと作品の見所~

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製作年:2012年 製作国:アメリカ
あらすじ:突如、超能力を手に入れてしまった3人の高校生。アメリカのシアトルを舞台に、超能力に翻弄される少年たちの姿を描く。

本作のジャンルを一言で表すなら『超能力×学園モノ』。こういうジャンルだと、古い作品で『超能力学園Z』(1982年)や『映画 みんなエスパーだよ!』(2015年)などがあるが、本作は、そういった明るい雰囲気を持ち合わせた作品ではなく、どちらかというと雰囲気は内向的で暗め。

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というのも、主人公のアンドリューは、病気持ちの母親とアルコール浸りで暴力をふるう父親がいるというなかなかの世知辛い家庭で暮らしてる高校生。そういう家庭環境も影響したのだろう、アンドリュー本人も陰のある鬱屈とした性格をしている。そういう点では、本作の雰囲気は同じ超能力×学園モノの『キャリー』(1976年)が近いと思う(主人公の溜めていた感情が暴走する点も似ている)そんな本作の魅力を、ここでは大きく3つに分けて紹介していこうと思う。

【①ファウンド・フッテージからの迫力と臨場感】

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まず一つ目、本作の特徴の一つとして、ファウンド・フッテージ方式で撮影している事が挙げられる。ファウンド・フッテージとは、フィクション作品をノンフィクションのように撮る疑似ドキュメンタリー(モキュメンタリー)の一種。撮影者が行方不明などになったため、埋もれていた映像だったりなど、第三者によって発見された (found) 未編集の映像 (footage) の事を指す(Wikipediaより)
本作では、アンドリューがビデオカメラ撮影を趣味としており、中盤まではアンドリューの撮った映像視点で進んでいくが、これがいかにも高校生が撮った映像で面白い。また、ドリューが超能力を得てから以降は、カメラを手を使わず超能力で浮かして自分を撮影している。このアイデアが凝ってて面白いし、ドキュメンタリー形式で撮っている為(他のも本編はNews映像なども入れている)、観る者に臨場感と迫力をより感じさせてくれる。まさにアイデアの勝利といえるだろう。

【②まるで実写版『アキラ』を思わせる演出とキャラクター造形】

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次に挙げられるのが本作があの名作アニメ『アキラ』(1988年)に多大なオマージュを捧げているという事。
本作の超能力の演出に関してもそうだし、アンドリューの屈折し、他の2人に劣等感を抱いてる様は、まさしく鉄雄のよう。終盤のマットとアンドリューが対峙する場面なんかは、金田と鉄雄のバトルシーンを彷彿とさせる。
ジョッシュ・トランク監督も公開当時のインタビューで、本編が『アキラ』のファンである事、多大な影響を受けていることを述べている。『アキラ』といえば、『ジョジョ・ラビット』(2020年)のタイカ・ワイティティ監督のもと、実写化の話が進んでいたが、無期延期となってしまった。

タイカ・ワイティティ、『STAR WARS』の新作の監督が決まったので、『アキラ』実写化はかなり難しくなってしまったと思う。個人的には、ジョッシュ・トランク監督こそ『アキラ』実写化に適任だと思うがどうだろう。

【③マイケル・B・ジョーダンにデイン・デハーン…今をときめく映画俳優達の出世作】

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3つ目が本作が、今の映画界をときめく俳優達の登竜門となってるといえることだろう。
ます、本作でアンドリューを演じたデイン・デハーンは、陰のある美少年っぷりが話題となり、その後、『アメイジング・スパイダーマン』(2014年)で、ピーターの旧友でもあり的にもなるハリー・オズボーンことグリーン・ゴブリンを演じたり、リュック・ベッソン監督の『ヴァレリアン』(2018年)で主演をつとめている。今の映画界を代表する若手俳優の一人と言えるだろう。

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また、リア充のスティーブを演じたマイケル・B・ジョーダンは『クリード チャンプを継ぐ男』(2015年)で主役のクリードを演じ、『ブラックパンサー』(2018年)では、ブラックパンサーの宿敵、キルモンガーを演じるなど大出世を果たしている。本作はまだ本格的にブレイクする前の俳優たちを見れるという点でも注目すべき作品だ。

【公開後の評判】

本作は公開されると、全米で1位を記録し批評家からも高い評判を得た(世界最大の映画レビューサイト「Rotten Tomatoes」によると、2020/5/11時点で批評家からは85%、一般からは71%を記録している)
日本でも高い評価と興行成績を記録し、首都圏30館、2週間限定の公開にも関わらず、週末の興行収入では5位という素晴らしい記録を残した。
そして、ジョッシュ・トランク監督もこの成功によって、2つの大きな仕事が舞い込んでくる。まさしく若手監督がスターダムに上がろうとしている時でもあった。

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【『クロニクル』の成功から『ファンタスティック・フォー』の失敗へ】

『ファンタスティック・フォー』(2015年)のリブート版の監督を任されたジョッシュ・トランク監督。
タイカ・ワイティティ監督やジョン・ワッツ監督など、若手監督がMARVEL映画を任されて一躍スターダムにのし上がるというのは、よくあるケース、筆者もこのニュースを知った時は、ジョッシュ・トランク版『ファンタスティック・フォー』がどんな出来になるか期待をしたものだ。

ファンタスティックフォーポスター画像①

しかし、公開前のニュースが入っていくにつれその期待はだんだん不安に変わっていくことになる。
ここでは、作品の紹介などは省くが、どんな事があったかというと↓

・ジョシュ・トランク監督とプロデューサーのサイモン・キンバーグが不仲で現場で何度も衝突したこと
・Twitterで、ジョシュ・トランク監督が映画の公開前に、「1年前のバージョンならもっと評価されていたに違いない。ただしそれをみなさんがみることはない。」というツイートをした。
・ジョシュ・トランク監督と主演のマイルズ・テラーが殴り合いをした

ビニー③

など散々である。もちろん↑のエピソードが全て本当かは分からないただ、こういうニュースと共に日本でもSNSなどで、「『ファンタスティック・フォー』ヤバいらしいぞ」と囁かれるようになる。そして公開されるやいなや、『ファンタスティック・フォー』は酷評の嵐になるのである。具体的な事を挙げると↓

・批評家から酷評。『Rotten Tomatoes』では批評家から9%、一般から18%の超低評価
・その年のゴールデンラズベリー賞で、最低作品賞、最低リメイク、パクリ、続編映画賞と最低な賞を総なめしている。
・2017年には続編が公開予定だったが、中止となった。

と散々な結果である。個人的な感想としては、作家性が色濃く出てて、ここまで酷評される程ではないとは思うが、いかんせん全編的な雰囲気が暗い上に終盤までのカタルシスが少なすぎる。確かにヒーロー映画として観たら、褒められる出来ではないだろう。この酷評を受けてSTAR WARSシリーズのスピンオフ作品の監督も降板させられてしまう事になる。まさにしくじり先生ならぬしくじり監督といえるだろう。

いらすとや転落

【ジョッシュ・トランク監督の現在と新作について】

そんなしくじり監督ことジョッシュ・トランク監督だが、その後、新作映画の音沙汰を聞かなかったので、筆者もどうなってるかと思っていたところ、冒頭で挙げたIGN JAPANの記事で『ファンタスティック・フォー』の失敗について語っている。
その記事によると、ジョッシュ・トランク監督が、ヒーロー映画というジャンルを嫌悪していた事、自分のやり方を推し進めようと周囲の反対を聞かなかったことなどの製作の裏側について語っており、5年経った現在、当時の自分は傲慢だったと反省している模様。

しくじり先生⑤

そして現在だが、ジョッシュ・トランク監督は、新作『Capone』は5月21日に北米でオンデマンド配信される事が決まっている。内容は、実在したアメリカのギャング、アル・カポネの半生で、主演は『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015年)、『ヴェノム』(2018年)の日本でも有名なトム・ハーディ!日本ではまだ公開などは未定だが、是非とも観たいところ。

カポネ①

一度はしくじってしまったジョッシュ・トランク監督、『クロニクル』を観る限り、才能ある監督であることは間違いないので、また再び映画界で返り咲いて欲しい。
そして、『クロニクル』は傑作なので未見の方で興味ある人(特に『アキラ』が好きな人)は是非ともチェックしてみてくれ!

【追記:ジョッシュ・トランク監督新作『Capone』について】

ポップカルチャーメディア「THE RIVER」の5/23分の映画ニュースによれば、上記に挙げたジョッシュ・トランク監督の新作『Capone』が配信10日目にして、売上2億円を超えたとのことで、これはかなりの大ヒットとの事。ジョッシュ・トランク監督が再び映画界を賑わす日も近いかもしれない。そして『Capone』、早く観るのが楽しみだ!!

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