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【それは罰か、それとも幸福か】映画『わたくしどもは。』感想
亡くなった者がこの世にとどまる四十九日、佐渡島の施設を舞台に無理心中した男女の行く末が描かれる。『わたくしども。』は5月31日より公開されている日本映画だ。
監督は『ブルー・ウインド・ブローズ』で注目を集めた富名哲也。主演は『糸』、『余命10年』の小松菜奈と『船を編む』、『探偵はBARにいる』シリーズの松田龍平。
去年の東京国際映画祭のコンペティション部門でも上映されていた作品。
その時から観たいと思っており劇場公開を楽しみに待っていた。
小松菜奈と松田龍平の2人だけでも豪華なのに本作には大竹しのぶ、田中泯、石橋静河などそうそうたる役者陣が集結。
しかも音楽はRADWIMPSの野田洋次郎がつとめている。
しかし、これだけ豪華な面子を揃えているが内容はかなり攻めているという印象。
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「生まれ変わったら、今度こそ、一緒になろうね」
物語は2人の男女が高台から心中する場面から始まる。
場面が変わると女性はとある施設内で目を覚ます。女性は自分の名前も過去も忘れている。同じような境遇のキイという女性に介抱された彼女はミドリと名付けられその施設で働くこととなる。
その施設で過ごすうちにミドリはアオと名乗る同じく記憶を失った男性と出会い惹かれあうのだが…というあらすじ。
なぜ2人は心中をしたのか?
ここはどんな施設で彼らは何者か?
数々の疑問は湧くけど、謎が明かされることはない。
劇中で発せられる「四十九日」という言葉。
仏教用語で、命日から数えて49日目に行う追善法要のことを指す。
仏教では人が亡くなると、あの世で7日毎に極楽浄土へ行けるかの裁判が行われ、その最後の判決の日が49日目になるとのこと。
いわば彼らがいる場所は死んだ後の次の行き先が決まるまでの場所とも言える。
そういう目線で見ると、ミドリが目を覚ます場所は拘置所のようにも見える。
また本作は佐渡金山の無宿人の墓からインスピレーションを受けたとのことで、ミドリたちが自分たちのことを何も憶えていない状況は戸籍を奪われた無宿人たちを重ねているのかもしれない。
現世に留まっている内容もあって、映画全体で「静」という印象があり正直眠気を誘われる瞬間もあった。
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個人的にはこの映画の小松菜奈がとても良く、この映画の魅力を何割も増していた。
自分の中で小松菜奈というと、どこか癖がある独特な印象だったのだが(それが良くもある)本作では良い意味で癖の強さが抜けてて可愛らしいキャラクターとなっている。
開口一番に言う「わたくしは」という1人称も最初こそ戸惑ったものの、観つづけていく内に馴染んでいた。
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ミドリの相手でもあるアオを演じた松田龍平も良い。
悪い人ではないだろうけど、何を考えているか分からない掴みどころのない感じが、浮遊感のあるこの世界観と合っていた。
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明確に物語が動き出すのは終盤。
2人が施設を出る場面だ。ここはまさに「動」。
自分が劇中で一番好きなのはバイクでの2ケツ、その後の長いトンネルを2人で歩き続ける場面。
多分、監督はこういう画が撮りたかったんだろうなと思った。松田龍平と小松菜奈のバイクシーンはそれだけで格好良いし、自分がこの映画を観たいと思ったのも予告編のこの場面を見たからだったからだ。
2人がトンネルを歩き続けていく場面は、北野武監督の『Dolls(ドールズ)』の「繋がり乞食」のエピソードを思い出したりもした。
※『Dolls(ドールズ)』は近松門左衛門の人形浄瑠璃「冥途の飛脚」の舞台から幕を開けるが、本作の劇中で石橋静河演じるムラサキが言及している佐渡島の心中事件も元は近松門左衛門の人形浄瑠璃から派生したとのことで繋がりがあったりする。
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劇中でアオが語る「罰」という台詞。
もしかしたら彼らはどこにも辿り着けないのかもしれない、永遠にこの世を彷徨い続けるのかもしれない。
だけど「ずっと一緒にいたい」という願いは叶えられた。
哀れのように見える2人だけど実はこれで良かったんじゃないだろうか。
正直、気になる点は多い。
アカやクロの扱いの少なさ(あそこまで登場場面が少ないなら出す意味はあったのか?)やトンネルに入る前のバイクのヘルメット問題(入る前はヘルメットを被っていたのにその後のバイク事故ではヘルメットがどこかいっている)とか。
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ただ、それ以上にこの世をさまよう者たちへ向けた物語に惹かれたし小松菜奈の魅力もあって自分は好きな作品だったりする。
※こちらは『DICE+』による富名哲也監督へのインタビュー。本編の内容理解と補足に役立つかもしれないので興味ある人は是非。監督自身は解釈は各々の観客に任せると語っている。
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