何度も聞きたくなる 『歌』が素敵な映画6選 Vol.01
映画を観ていると、劇中の曲が素晴らしくて鑑賞後も耳に残っている事がある。そういう時、筆者はサントラを購入したり、配信を即ダウンロードしたりして聴いたりしてる。映画を観てそういう経験をした人は少なくないだろう。
今回は、そういう人の心に残る音楽映画のお薦めを6作品紹介したい。ただ、一概に「音楽映画」といっても、その種類は幅広い。劇伴音楽、いわゆるサウンドトラックが印象深い映画から実在するバンドのドキュメンタリーと、音楽と関連が深い映画は数多くある。ここでは、サウンドトラックやバンドのドキュメンタリーではなく、劇中で登場人物が歌ってる(もしくは歌ってる体)映画で、特に印象的な作品を6本を紹介したいと思う。
【音楽映画の代表格!ジョン・カーニー監督『はじまりのうた』】
製作年:2013年 製作国:アメリカ 監督:ジョン・カーニー
舞台はニューヨーク、ある事がきっかけで失意の中にいるシンガーソングライターのグレタ。悲しみに暮れながらライブハウスで歌っていたところを、落ち目の音楽プロデューサーのダンに見出される。グレタに音楽の才能を感じたダンは、グレタに共に組んで音楽活動をするよう呼び掛けるのだが…。
音楽映画を代表する監督といえば、間違いなくジョン・カーニーの名前が挙げられるだろう。自身がバンドマンとしても活動していた事もあり、その作品は必ずミュージシャンを題材にしている。本作も含めて『ONCE ダブリンの街角で』(2007年)、『シング・ストリート 未来へのうた』(2016年)も含めて「音楽映画3部作」とも言われている。この2作品も素晴らしいのでお薦めなのだが、今回はその中でも筆者が一番好きな本作を紹介したい。
本作は、ニューヨークを舞台に失恋したグレタと、落ち目のプロデューサーのダンが出会い音楽の奇跡を起こすという話。主演のグレタを演じるのは『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズのキーラ・ナイトレイ、ダンを演じるのは『アベンジャーズ』シリーズのハルク役で知られるマーク・ラファロ。失意のどん底にある2人が出会ったことで、輝いていく姿は観てて勇気づけられるし、安易な恋愛関係にならない2人の関係性が良い。筆者が特に好きなのは、2人がお互いのプレイリストを共有してデートする場面。2人の楽しそうな雰囲気とニューヨークの街並みというシチュエーションが素敵過ぎる。この場面を真似したくなった人は多いのではないだうか。
音楽が良いのはもちろんだが、場面転換するたびに変わるグレタのファッションが可愛いのも見どころの一つ。この映画はファッション映画としてもお薦めできる。そして自身も映画初出演の世界的ポップバンド「マルーン5」のアダム・レビーンが本作の為に提供した『Lost Stars』がまさに名曲。曲自体も素晴らしいが、劇中での使われ方がまた観ている側の感情を煽る。実際、この曲は第87回アカデミー賞の歌曲賞にノミネートされた。YouTubeで聴くこともできるが、未見の方は是非、この映画を観てから聞いて欲しい。映画と合わさってより深く刺さるであろう事間違いなしだ。
【初めて観る人はネタバレ厳禁『君が生きた証』】
製作年:2014年 製作国:アメリカ 監督:ウィリアム・H・メイシー
息子を失った父親のサムは、彼が残した楽曲をライブバーで歌っていた。その姿に魅了された音楽青年のロックウェルは、サムにバンドを結成する事を持ち掛ける…
本作に関しては、前情報無しで観る事を強くお勧めしたい(なので紹介も短め)。何故なら本作は音楽が優れていると共にストーリーテリングが素晴らしいから。筆者は、特に情報を仕入れず鑑賞したが、結果、忘れられない映画となった。内容に関して、あらすじ以上の事が語れないのがもどかしいが、お薦めしたい作品であることは間違いない。キャストは、2016年に自動車事故で亡くなったアントン・イェルチェンが出演しているほか、『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』のセレーナ・ゴメスも出演している。
【音楽は国境を越える。『タレンタイム 優しい歌』】
製作年:2009年 製作国:マレーシア 監督:ヤスミン・アフマド
マレーシアの高校で開催される音楽コンクール「タレンタイム」を舞台に、コンクールに関わる人達の様々な人間ドラマが描かれる。ピアノの上手な女子学生ムルーと耳の聞こえないマヘシュとの恋に、成績優秀で歌もギターも上手な転入生ハフィズと、彼を嫌う優等生カーホウなど、コンクールを通じて民族や宗教の違いによる問題を抱える多民族国家としてのマレーシア社会も映し出す。
本作は観る前にマレーシアは様々な人種が共存する多民族国家である事を知っておいた方が良いだろう。本作のテーマは、民族や宗教の違いという「壁」、それはマレーシアという国自体が抱える社会問題でもある。本作が長編映画として遺作となったヤスミン・アフマド監督は、これまでの作品でも民族、宗教間の壁に阻まれる人々の葛藤や苦しみを描いてきた。しかし、社会問題をテーマにした多くの映画に比べ、ヤスミン・アフマドの作品からは優しさと柔らかさを感じ取れる。『タレンタイム』の登場人物達は、時に憎しみ合い、反発しあうが同時にとても人間臭く、別の面では優しさに溢れた人々だ。そこにヤスミン・アフマドの人々に対する優しい眼差しを感じる事ができる。
そして映画を彩る音楽がこれまた素晴らしい。「月の光」は印象的だし、劇中歌である「Angel」、「I Go 」は素晴らしい。この映画と同じで、じんわりと心に染み入ってくる。
人と人を分断する「壁」という存在は、マレーシアに限らず世界中に存在するが、それに対する監督の思いが暖かく優しい。ラストシーンにはきっと胸を打たれる事だろう。筆者は、エンドロールが流れた時に「終わってしまった…」と一抹の寂しさすら感じた。本作はソフト化・配信されていないため、普通に視聴するのが困難な作品である。しかし人気が高いため、全国のミニシアターで定期的に上映もされているので、機会があれば是非行って欲しい。知らないで済ますには勿体ない、出来れば多くの人に観て欲しい作品だ。
【映画史に残るミュージカル映画の傑作!『ラ・ラ・ランド』】
製作年:2016年 製作国:アメリカ 監督:デイミアン・チャゼル
売れない女優のミアは、ピアノの音色に誘われて入ったジャズバーで、ピアニストのセバスチャンと出会う。出会いが最悪だった2人は後日、パーティー会場で再開を果たす。当初はお互いに憎まれ口を叩くなど、ぶつかりあう2人だったが、互いの才能と夢を語るうちに次第に恋に落ちていく…
知ってる人も多いであろう傑作ミュージカル映画。第89回アカデミー賞で史上最多タイとなる14部門ノミネートをはじめ、デイミアン・チャゼル監督が市場最年少で監督賞を受賞し、エマ・ストーンの主演女優賞など6部門でオスカーを獲得したなど映画史に残る作品だ。敢えてここで紹介する必要はないかもしれないが、素晴らしい映画なのでやはりお薦めしたい。
「LA LA LAND」とは「夢の国」という意味。そこを舞台に描かれるのは「夢」と「恋」という人が永遠に憧れ追い求めるモノ。オープニングから観る人は夢の世界へ引きずり込む音楽と演出は圧巻。鑑賞中はずっと、熱に浮かされたような高揚感と幸福感に浸れて、まさに夢のような映画体験だった。
むろん、ただの恋物語だけではなく、誰もが生きてく上で直面する「理想と現実」も描かれており、夢を追い掛ける人には胸が熱くなる作品にもなっている。この映画の「夢をみていた」というキャッチコピーがとても秀逸。夢が人生の青春ならば、これは青春の素晴らしさと終わりを描いた作品ともいえるだろう。
【ポーランド発、ダークファンタジー×人魚姫『ゆれる人魚』】
製作年:2015年 製作国:ポーランド 監督:アグニェシュカ・スモチンスカ
1980年代のポーランド、海から陸上へとあがってきた人魚の姉妹はナイトクラブで一躍スターになる。しかし、姉妹の1人が若きミュージシャンに恋をしたことから、姉妹の関係がおかしくなっていく…。
正直、かなりアクの強い作品だが、筆者は、観終わった後にスタオベしたくなるくらい最高だった。作り手のやりたい事と筆者の好みが見事に合致している。童話の「人魚姫」をベースにしたダークファンタジー+ミュージカルなんだけど、ミュージカルパートが80年代のMVっぽいレトロな感じで凄い可愛い。そこにエレクトロポップを被せてくる辺りが最高。
音楽を担当してるのはポーランドの「Ballady i Romanse」というインディバンドの姉妹デュオ。もともとはこの姉妹の伝記映画になる予定だったらしくて、そこからえらく方向転換してるんだけど筆者的には方向転換してくれてありがとうって言いたい。キラキラとダークさが共存する世界を人魚姉妹が見事に体現していた。
ちなみにアテレコではなく、キャストが全員ちゃんと歌ってるという所もポイントが高い。個性が際立っているのと、そこまで強くはないがエログロ要素もあるので、人を選ぶ作品であることは間違いない。気になる人は是非、チェックしてみてくれ!ちなみに今回の紹介とはあまり関係ないが、筆者の好きな漫画家の西村ツチカ先生が本作のイラストをSNSで公開していたが、可愛いので紹介しておきたい。
【お洒落×音楽=最強 『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』】
製作年:2014年 製作国:イギリス 監督:スチュアート・マードック
スコットランドのグラスゴー。うつ病と拒食症で入院している少女イブは、一人ピアノに向かって作曲する日々を過ごしていた。そんなある日、病院を抜け出してライブハウスを訪れた彼女は、アコースティックギターを抱えたジェームズと、その音楽仲間キャシーと知り合い、3人で一緒に音楽活動を始める…
スコットランドの人気バンド「ベル・アンド・セバスチャン」のフロントマンを務めるスチュアート・マードックが、自身のソロ・アルバム「ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール」を原作とした本作。スチュアート・マードックは脚本と監督も手掛けている。ベル・アンド・セバスチャン(ベルセバ)といえば、日本でもその知名度は抜群。最近では、『彼の見つめる先に』(2018年)で、「There's Too Much Love」(「わたしのなかの悪魔」2000年発売)や、『Days Of The Bagnold Summer(原題)』(日本公開未定)で使用されるなど、映画との親和性も高い。
ギターポップが前面に押し出された楽曲は、メロディが感傷的で心に沁みる。音楽だけでなく70年代風のポップなファッションもキュート。主演は、「エンジェル・ウォーズ」(2011年)のエミリー・ブラウニング、音楽とファッションが好きな人には是非観て欲しい作品だ。
【まとめ】
という訳で、今回6作品を紹介させてもらったがいかがだったろうか。もしこの中で気になる作品があれば、是非チェックしてみて欲しい。また前述した通り「音楽映画」は種類も数も多いので、何回かに分けて紹介したい。リクエストなどあればお気軽に。
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